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食の研究開発でSDGsに貢献する科学技術センター|AZTI

筆者は2022年の秋に世界6カ国12都市を48日間かけて巡り、食に関する国際会議や国際学会に参加しました。また先進的な取り組みをしている政府機関や企業を訪問し、最新の食トレンドと消費者インサイトを事例とともに1冊のマガジンにまとめました。

本記事では、マガジンには掲載していない先進的な企業の事例として、スペインのバスク地方にある科学技術センター「AZTI」(アスティ)と、AZTIの食品に関する5つの取り組みを紹介します。



1. AZTIとは?


AZTIは、2030年に向けた国連のSDGsに沿い、より良い社会の実現に向けて様々な研究開発プロジェクトを実施している民間の非営利財団です。

持続可能で健康的な社会の実現に向けて、食品と海洋環境に特化した実践的な研究を進め、科学的根拠に基づいた最先端で付加価値の高い製品やサービスを提供しています。

バスク・テクノロジー・アライアンスに加盟する17の研究機関のひとつで、世界で初めて料理の学位が取得できるバスク・カリナリー・センターの設立にも主体的に関わっています。またヨーロッパの重要な科学委員会の多くに主導的な立場で参加し、科学的成果の評価では世界の主要研究機関のトップ10にランク入りしています。

現在スペイン国内に3つの拠点を有し、287人が働いています。社員の57%は女性で、研究者の60%は博士号を取得しています。また376のプロジェクトを抱え、累計で1,700本の論文を発表し、様々な特許も取得しています。

AZTIの活動資金は、3分の1が民間企業からの調査研究プロジェクトの受託で、残りはバスク州政府と欧州政府の予算や補助金で構成されています。顧客の48%は地元の政府や自治体で、残りは海洋関係の企業となっており、年間の予算規模は2,220万ユーロ(約33億円)です。

知的財産とコンサルティングで「ありそうでなかった食の未来をつくる」、筆者が代表を務めるフーズフーズがベンチマークしている組織のひとつです。筆者も2022年10月に訪問し、AZTIの取り組みを視察してきました。

AZTIのテクノロジーディレクターであるイニゴさん(写真中央)に、
研究所と進行中のプロジェクトを案内してもらいました(筆者撮影|2022年10月)


本記事の[前編]では、AZTIの主要な研究テーマのうち食品に関する5分野を、具体的な事例とともに紹介します。続く[後編]では、AZTIが独自に進めている食品の環境評価指標「ENVIRO-SCORE」について紹介します。


2. 食品と海洋環境に特化した研究分野


AZTIは、SDGsが掲げる17の目標のうち、13. 気候変動に具体的な対策を、14. 海の豊かさを守ろう、12. つくる責任つかう責任、3. すべての人に健康と福祉を、2. 飢餓をゼロに、の5つの目標に関係する、食品と海洋環境に特化した10分野の研究を進めています。

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世界各国でのフィールドワークをもとに、最新の食トレンドと消費者インサイトや、日本の食産業が進むべき未来とそのステップを、国内外の豊富な事例…

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