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私達は既に賢すぎて恋に落ちれないけれど、あなたとゆっくり恋に降りていけたら|詩とエッセイ


恋は盲目
って言うけれど、
私には冷静にあなたが見えてしまうし

恋に溺れるって言うけれど、
岸までくらいなら泳げそうだし

恋に落ちるって言うけれど、
恋の淵で一歩止まれてしまう。

※運命を感じた高揚感と、感情ではなく思考で恋する冷徹さ、26歳の恋を私の辞書に記載して保管します。

こい-に-おちる【▽恋に-落ちる/恋に-堕ちる▽】
読み方:こいにおちる
類義語:こい-に-おりる【▽恋に-降りる▽】
分類:勇気
出典:26歳の春


意味:❶10代の特権。二人で永遠に落下していたかったけれど、落下が終わり、地面にぶつかった時の痛みを知ってしまった20代後半の私にとっては、恋に落ちるということは少し難しい。▽❷底が見えない大きな穴?私は既にこの穴に何度も落ちたことがあるけれど、段々と穴に飛び込む前に躊躇が生まれるようになってきた。この穴、落ちた先の地面はどれだけ固いだろう...もし浅かったらどうしよう...1人で這い上がろうと苦しむ焦燥がいずれ来るのか...有鉄砲な私は恋に落ちれない。今後の恋には階段を取り付けよう。▽❸26歳春、私の決意。初めての同棲。恋の淵に立つ。出逢った瞬間、恋に落ちようと決めた私の情熱の勢いを何かが弱め、淵で穴を覗き込み俯瞰する冷静さ。螺旋階段で、この暗闇を手を繋いで降りていけたらと願う。傷つかずに深く深く潜っていける。いつか地面にぶち当たっても、下にでも横にでも一緒に掘ればいいから、落ちるだけの恋じゃ得られないアリの巣みたいな城を一緒に築こうと。初めて会った日、あなたがどんな人であろうと、あなたと恋に降りようと決めていた。運命じゃなくても運命にしようと思えるだけの決め手があった。その彼と別れたのが同棲3カ月目の5/21。歯車が合わなくなる瞬間は幾たびかあって、喧嘩になる。喧嘩の内容は大抵同じで、私が相手を思いやることと自分のしたいこととの間で揺れ動く時、私が黙るのに彼苛立つ。苛立たれたことに私は不満をぶつける。彼が苛立つことを問題視していたけれど、結局自分の希望と相手の希望がいつまでも一致しないことが根本原因だったのだと思う。結果、私の未熟さか。
彼は荷物をまとめて部屋を出る準備をする。何故かここで引き留めなくてもいいと思ったから引き留めなかった。いま別れたけど、別れた実感はない。このさっぱりした悲しくも嬉しくもない感情を消化して進む事に抵抗がある。多分私は綺麗に処理して次に進めるけど、なぜかそれをとっても冷静に引き留める私の心がある。立ち止まさせてくる。
あなたの手を引いて無邪気に階段を降りていけると思っていたけど、あなたに臆病になった私が悪い。素敵な螺旋階段を用意してあげられなくてごめんね。

まも-る【▽守る/護る/衛る▽】
読み方:まもる
分類:定義の曖昧な言葉

例文:「絶対に君を守るから。」
意味:▽❶恋の常套句。比較的安全な現代で、配偶者を何から守るのかという疑問は、常にある。▽❷個人的な判断尺度の一つ。私は、言葉を深く捉えて使っていない人が使う言葉であると、少し批判的に捉える。▽❸その人が受け得る厄害を未然に防ぐこと。現代においては、その人に起こりうる最悪のケースを潰すこと。そのために行動したいと言う思い。あなたを思っての行動と私の要望が反対のベクトルに進む時、私はどちらも選べなくなる。心から行動したいのに感情の矛盾は扱いづらい。解決策は「私達」という別人格を作ることだけど、そこまでわかっててもできなかった。

あい【▽愛▽】
読み方:あい
分類:定義の曖昧な言葉
意味:
▽❶世界に一人だったらするはずがなかった全てのこと。
毎日仕事のために移動すること、ひっついた豚肉の塊をばらしてフライパンに並べること、小さなランプを灯すこと。▽❷私らしくなくなること。人のために行動基準を変えること。人のために自分らしさへの執着を捨てること。▽❸懸命に生きているものへの敬意。どんなあり方だって素敵なはず。


最後に詩を一つ
同棲が上手くいくと思っていた頃の詩を



ラフスケッチから

あなたの持っている絵の具を使ってみたい
私の画材で良ければ
好きに使っていいから

あなたしか持っていないその色を
私の世界に足したい
だからあなたを選んだ
一緒にいてみることを選んでくれてありがとう

私達は恋に落ちるには
既に賢すぎて臆病すぎるみたいだけど
一緒に恋に降りていけたら
傷つかずにたどり着けるって
賢すぎるから思うんだ

あなたの絵の具の色は独特で
私の絵の具だって珍しいはず

背伸びして一緒に選んだこの街は
憧れていた街の隣駅
隣駅より少し大人なここに
未熟な私を放り込む

これから時間をかけて
この街に私が馴染んでいく

あなたが絶対食べないと言った饅頭屋とか
あなたが教えてくれた道の角の花とか
あなたが好きと言った古風な家とか
あなたが急によじ登った電柱とか

街にあなたの色が足されてくる
街が色付いたら
次は色を重ねて




読んでいただきありがとうございます。

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