「おい、吉田君、今日はうちで1杯やらんか?」
「部長、いいんですか? お邪魔します!」
その日はちょうど決算も終わり、一杯やりたい気分だったのだ。
しかし私は断酒している。
まあいいか。
軽い気持ちで部長の家へ。
「いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、50代の今でいう美熟女。
「お邪魔します、始めまして吉田と申します」
「主人から話は聞いてるわよ、がんばってるみたいね」
あいさつもほどほどに、私は部長の家に入っていった。
「じゃあ今日は決算頑張った吉田君と共に、おおいに呑もう!」
「はい部長!」
「あなたったら、また呑みすぎないでね」
そして宴が始まった。
部長はハイピッチで飲み続け喋り続けた。
僕はビールを飲んでるフリをしながら、ごまかしていた。
「おい、吉田! 全然のんでないじゃないか」
「すいません部長、じゃあウーロンハイをいただきます」
「じゃあ私が作るわね」
奥さんが台所までいって、作ってくれた。
「はい、ウーロンハイ」
奥さんは上目遣いに僕を見ると、意味深な微笑を浮かべた。
僕はドキドキしていた。
ウーロンハイといいつつ中身はまったくのウーロン茶だった。
奥さんを見ると、またあの意味深な微笑をした。
「吉田、俺が入社したときは毎晩徹夜でな残業、残業だ・・」
また部長の武勇伝が始まった。
「残業、残、ざ ぐー ぐー」
部長はイビキをかいて寝はじめた。
私は奥さんと二人で部長をベッドに運ぶと、またリビングに下りてきた。
「じゃあ吉田君、二人っきりで飲みなおそうか?」
「はい」
奥さんはまた二人分のウーロン茶を出してくれた。
そして僕は奥さんと色々な話をした。
「もう一杯、ウーロン茶いいですか?」
「いいわよ、何杯でも飲んでね。」
そしてまた奥さんと色んな話をした。
「そろそろシメでうどんでもどう?」
「いいですね、お願いします。」
すると奥さんは台所からうどんを打つ一式を持ってきた。
「う、打つんですか」
「当たり前じゃない、うちはなんでも本寸法よ」
そういうと奥さんはうどんを一心不乱に打ち始めた。
パン パン パン パン・・・・
「奥さん」
「吉田君」
パン パン パン パン・・・
「奥さん!」
「直美って呼んで!」
「直美さん!」
「呼び捨てでいい!」
「直美!!」
パン パン パン パン・・・
「奥さん、旨いですね!」
「あたり前じゃない、打ちたてでシコシコでしょ」
奥さんはまた意味深な微笑を向けた。
「あ~ ごちそう様でした」
「よく食べたわね、お風呂はどうする? 用意してあるけど」
「いいんですか、じゃあいただきます。」
そして僕は風呂に入らせてもらった。
大きな湯船にどっしりつかっていると最高の気分だった。
「湯加減はどーお?」
「最高です! やっぱ風呂いいですね」
「そうでしょう、お風呂は最高よ!」
そしてその日は部長のパジャマを借りて泊まらせてもらった。
翌日の朝
チュン チュン チュン
小鳥のさえずりが聞こえる、閑静な住宅街
「部長、おはようございます」
「吉田君、なんだ泊まって行ったのか」
「ハイ、パジャマもお借りして。そして今1時間散歩して来ました。この辺は空気がいいですね」
「ほう散歩ね、いい心がけだ」
「あなた~ 朝ごはん出来たわよ」
奥さんの声が聞こえた。
そして美味しい美味しい納豆ご飯をみんなで食べた。
「吉田君、ZARDって知ってるかね?」
「名前だけは」
「ちょっとこの曲聴いてみたまえ、最高だから」
すると奥さんが
「もう、あなったたら、また自分の趣味を押し付けて」
「まあいいから聞いてみたまえ」
部長はパソコンをセットしスピーカーにつなげるとユーチューブで
曲を流し始めた。
その曲は、最高だった。
僕は、その曲を聴きながら少し涙がでてきた。
そして昨日、本当に酒を飲まなくて良かったと思った。
https://www.youtube.com/watch?v=gWAQkbTWWnY