故郷を追われたロヒンギャ1

プロローグ

 2017年8月、テレビをつけた私の目に衝撃的な光景が飛び込んできた。ドローンによって捉えられた、途切れることのない「塊」。映し出されていたのは人だった。

  ミャンマー西部ラカイン州で暮らす少数派イスラム教徒、ロヒンギャ。2017年8月25日、彼、彼女らを悲劇が襲った。ロヒンギャによって構成される武装組織、ARSA(Arakan Rohingya Salvation Army)が警察施設30か所、国軍駐屯地一か所を襲撃。これを受け、軍による「掃討作戦」が始まった。

 ジャーナリストであり、「難民を助ける会」の駐在員として、バングラデシュの難民キャンプで支援活動を行ってきた、中坪央暁氏の著書『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』には、思わず目を背けたくなるような証言の数々が収められている。その中の一つを紹介したい。

「(弟夫婦を目の前で殺された男性の証言)弟の妻は二人目の子を身ごもっていた。戻ってきた兵士たちは、遺体にポリタンクの灯油をかけて火を付け、赤ん坊を無造作につまみあげると、炎の中に放り込んだ。やがて火が消えて、もう一度その場に行ってみると、遺体はほとんど焼失していた(p153-154)。」

 この「作戦」により、少なくとも1万人が殺害されたとされている(*国連報告)。アントニオグテーレス国連事務総長によって、「人権と人道上の悪夢(Humanitarian and Human Rights Nightmare)」と評された殺戮は、紛れもないジェノサイドであった。

   命を守るため、多くのロヒンギャがナフ河を超え、隣国バングラデシュに逃れた。その数、およそ72万5千人(*国連報告)。しかし、ロヒンギャへの迫害は2017年に突如として始まったわけではない。軍を中心に、50年以上にも渡って「反ロヒンギャ感情」は醸成されてきた。その間、数え切れないほどのロヒンギャが人権侵害を受け、難民となっていった。その多くは、パキスタンやサウジアラビアなどのイスラム諸国に逃れ、コミュニティを形成している。

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赤い線で囲まれた部分がラカイン州。ここから、多くのロヒンギャが国境を越え、隣接するバングラデシュへと逃れた。(Google map)

 我々、無国籍ネットワークユースは、その内の一国、マレーシアにあるロヒンギャコミュニティを訪ねることした。普段あまり報じられることのない、「ロヒンギャディアスポラ」の生活を知り、この問題への理解を深めたいと考えたからだ。この連載は、我々の旅の記録であり、ロヒンギャの人たちの声を伝える拡声器だ。「声なき声」を聞き、共に問題を考えて頂ければと思う。

執筆・写真|鳥尾祐太


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参考文献

・『ロヒンギャ難民100万人の衝撃』、中坪央暁著、2019、めこん出版社
・『Report of the detailed findings of the Independent International Fact- 
 Finding Mission on Myanmar - A/HRC/39/CRP.2』、2018年9月18日、 
 United Nations HUMAN RIGHTS COUNCIL、3・22アクセス
 文章中では、*国連報告として示した。 
https://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/MyanmarFFM/Pages/ReportoftheMyanmarFFM.aspx


無国籍ネットワークユースとは?
2014年に早稲田大学の学生を中心に結成された団体。無国籍者が希望を持てる社会作りに向けて、多くの人々に無国籍について知ってもらうことを目指し、活動を行っている。2018年から、NPO法人無国籍ネットワークとの共催で、巡回写真展「われわれは無国籍にされた-国境のロヒンギャ-(狩新那生助氏・新畑克也氏)」を早稲田大学、館林市(在日ロヒンギャコミュニティがある)、東京大学で開催。また2019年12月には「US~学生が見たロヒンギャ~(城内ジョースケ氏・鶴颯人氏)」を主催(NPO法人無国籍ネットワーク共催)。ビルマ近現代史研究者の根本敬教授(上智大学)、在日ロヒンギャ協会のゾーミントゥ氏による講演会も行った。また、勉強会やフィールドワーク(マレーシア・サバ州の無国籍コミュニティ、クアラルンプールのロヒンギャコミュニティ訪問など)を通して、自らの無国籍問題への認識を高めることに努めている。大学(院)・学年問わずメンバー募集中。


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