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乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび(レビュー/読書感想文)

乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび(芦辺拓)
を読みました。新刊です。

芦辺さんは多作な作家さんですが、私はそれなりの数の著作を読んでいます。森江俊策シリーズは全作読了済みですし、2022年に本格ミステリ大賞に輝いた「大鞠家殺人事件」も傑作でした。
好きな作家さんのひとりです。

本作は、江戸川乱歩の中絶作を芦辺さんが書き継ぐということで、これまた難解なテーマに挑んだものだと刊行前から注目していました。

乱歩の未完の傑作が完結! 犯人・密室・謎の記号の正体とその向こう側
江戸川乱歩のいわくつきの未完作「悪霊」 
デビュー百年を越え、いま明かされる、犯人・蔵の密室・謎の記号の正体。
そして、なぜ本作が、未完となったのか――
乱歩の中絶作を、芦辺拓が書き継ぎ完結させる! そのうえ、物語は更なる仕掛けへ……。

角川書店「乱歩殺人事件――「悪霊」ふたたび」紹介ページより(上記リンク)

ひとこと、ものすごい労作です。

乱歩さんがもともと構想していた(かもしれない)「悪霊」本編の謎に加えて、連載が中絶した理由それ自体も謎(ミステリー)として再設計し、そのどちらをも高次元の論理で解明するという、ある意味で多重構造のメタ的な作品になっています。

これは、本格ミステリ作家のなかでもトリック巧者の芦辺さんにしか成し得ないクオリティの仕事だったのではと思います。

本格ミステリは、積み上げの文芸(アート)です。トリックや広義の仕掛けは先例があって、後進の作家はそれを乗り越えたり、拡張したり、見せ方を変えたり、といったふうに試行錯誤を繰り返しています。もちろん、時に、若い新しい才能によって、まったく新しい趣向のトリックや仕掛けも生まれます。

本作「乱歩殺人事件〜」には作中作として、発表当時の「悪霊」がほぼ雰囲気そのままに収録されています。そして、恐らく発表当初の時点で乱歩さんが構想していたであろうメイントリックも説明があるのですが、読者としては、これがオリジナルの発表時は戦前であったということ、またそれを芦辺拓さんという現代のベテラン作家さんが書き継ぐだけでなく発展させたという事実に想像を巡らせると、改めて本格ミステリというジャンルの連綿性に感慨をおぼえます。

約200ページと、芦辺さんにしてはコンパクトな作品ですが、非常に高密度で一気読みできます。
オススメです。

#読書感想文
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#ミステリー
#推理小説
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#江戸川乱歩


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