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奇岩館の殺人(レビュー/読書感想文)

奇岩館の殺人(高野結史)を読みました。
新刊です。

孤島に立ついびつな形の洋館・奇岩館に連れてこられた日雇い労働者の青年・佐藤。到着後、ミステリーの古典になぞらえた猟奇殺人が次々起こる。
それは「探偵」役のために催された、実際に殺人が行われる推理ゲーム、「リアル・マーダー・ミステリー」だった。
佐藤は自分が殺される前に「探偵」の正体を突き止め、ゲームを終わらせようと奔走するが……。
密室。見立て殺人。クローズド・サークル――ミステリーの常識が覆る!

宝島社「奇岩館の殺人」紹介ページ(上記リンク)

あらすじにあるとおり、本作は「リアル・マーダーミステリーゲーム」です。よって、起こる殺人は本物です。また、キャストは定められたお芝居を演じているのですが、その中には制作スタッフサイドの者もいれば日雇いのバイトもいるので、俯瞰したシナリオをどの程度把握しているかはキャストによってまちまちです。

「すべてはお芝居だった!」「登場人物の大半が共犯関係にあり全ては仕組まれていた!」みたいな作品は前例が少なからずありますが、これら先行作に共通する特徴は上述した内幕(真相)が作品の大ネタであることです。これが明かされた瞬間は既にクライマックスです。
しかし、本作は違います。シリアスなお芝居であることはあらかじめ冒頭で明かされています。

さて、「奇岩館の殺人」で主観視点を務めるのは「探偵」役でもなく「犯人」役でもない、いわゆるモブキャラすなわち端役を与えられた佐藤さんです。佐藤さんは「被害者」役として自分が殺されてしまう前に(なにしろ本当に殺されるのですから)、このお芝居の真相を暴いて終わらせるべく奔走します。

私は本作を読んでいて、バラエティ番組「水曜日のダウンタウン」において現在第2弾まで放映されている「名探偵・津田」シリーズを思い出しました。
ドッキリの新解釈版とでも言うのでしょうか。お笑いコンビ・ダイアンの津田さんが殺人事件ドッキリに巻き込まれるのですが、自身で事件を解決するまでドッキリ(周囲のお芝居)が終わらないというものです。津田さんがイヤイヤながらも周囲のサポートを受けながら名探偵役を務めあげる様子がおもしろいです。

ミステリーはテクノロジーの進化の影響を受けやすいジャンルであるとよく言われます。例えば、携帯電話、DNA鑑定や街なかの監視カメラなど、それらが無かった時代と、それらが当たり前にある現代とでは前提がまるで違ってきます。

「奇岩館の殺人」は一種のメタミステリーだと思うのですが(過去の有名作のトリックをしれっと明かしてしまう点も)、メタの有り様も社会の変化によって変わっていくのだろうなと本作を読んでしみじみと思いました。なにしろ令和の世の現代にはマーダーミステリーゲームや「名探偵・津田」のようなコンテンツが当たり前にあるのですから。メタが表すレイヤーが二重三重になってくるのでしょうか。


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