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密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック(レビュー/読書感想文)

 密室偏愛時代の殺人 閉ざされた村と八つのトリック(鴨崎暖炉)
 を読みました。新刊です。

世界は密室のためにできている――
純度1000%の密室トリック8連打!
白い直方体の建物が立ち並び奇妙な風習の伝わる八つ箱村。
“因習村”で巻き起こる怒濤の八連続密室殺人事件
(あらすじ)
巨大な鍾乳洞内部につくられた、白い直方体の建物が並ぶ奇妙な集落・八つ箱村。祭りの最中に作家一族の娘が頭を撃ち抜かれ、村を出ようとした青年の体が突然発火し焼死体となったのを端緒とし、八連続密室殺人事件の幕が切って落とされた。事件の背後にはかつて村で死んだ昭和密室八傑の呪いが!? 山奥で遭難しかけ、たまたま村を訪れていた高校生の葛白香澄らが、次々と現れる密室の謎に挑む!

宝島社「密室偏愛時代の殺人」紹介ページより

 本作は鴨崎さんの「密室◯◯時代の殺人」シリーズ三作目です。これまで「密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック」「密室狂乱時代の殺人 絶海の孤島と七つのトリック」が発表されています。

密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある。だから現場が密室である限り、犯人は必ず無罪になる
――東京地方裁判所裁判官 黒川ちよりの判決文より抜粋

「密室偏愛時代の殺人」より

「密室◯◯時代の殺人」シリーズは必ず上記一文のインサートから始まります。詭弁かどうか。いや、なんとなく説得力を感じてしまうのは私だけでしょうか?

 本作に限らずなのですが、作者である鴨崎さんの「密室」に賭ける執念は正直物凄いです。自作をして、ここまで密室に特化したゲーム的作風に徹するというのは、そうしたくても誰でも出来るものではありません。興味の無い人からすれば荒唐無稽以外の何物でもないでしょうが。

 私は本格ミステリーにおいてリアリティや実現可能性というものにはそれほど拘りが無いほうなのですが、そんな私でさえ鴨崎さん作品の密室トリックのいくつかには「いやいやさすがに自由奔放すぎるでしょう」と思ってしまう瞬間があります。とはいえ本格ミステリにはトンデモ本格という言葉があるようにこうした作風をも受け入れる土壌があります。たとえどれだけ突飛でもそれを思いつくことと、それを作品内で書き切る胆力はやはり才能なのでしょう。密室の仕掛けには心理トリックが絡むものもありますが、やはりその多くは物理系であり、物理トリックを量産できるかどうかの違いは特にセンスが大きいと思いますし。

「密室◯◯時代の殺人」シリーズを読むのは個人的には楽しい時間なのですが、正直人を選ぶ作品だとは思います。ミステリー好きの中でも本格ミステリ好き、本格ミステリ好きの中でも更に剛の者向きの作風です。

 ただ、もうひとつ別の見方もありまして、私は本シリーズを読んでいると、最近は見かけませんが昔よくあったミステリーのトリック紹介本を思い出します。その分野では藤原宰太郎さんが有名でしょうか。「名探偵に挑戦」的なタイトルの附されたものです。「密室◯◯時代の殺人」シリーズは往年のトリック紹介本さながら矢継ぎ早に大量の謎と解決が繰り広げられますので、密室トリックをとりあえずたくさん見たい知りたいとかそういうニーズにも適うのではないかと思いました。

 ちなみに、「最近は見かけませんが」と上に書いたばかりですが、実は昨年、国内外の有名50作を収録した「密室ミステリガイド」(飯城勇三)というネタバレありのガイド本が出版されています。ただ、けっして軽々にトリック部分だけが取り上げられているわけでなく、作品ごとの緻密な紹介文と当該作品及びそのトリックの歴史的な位置付けまで語られているように各作品へのリスペクトに溢れた高尚なガイド本です。

 ミステリ好きには言うまでもありませんが、この手のガイド本を読むということは即ちネタバレ必至なのであくまで自己責任でお願いします。


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