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戻り川心中(レビュー/読書感想文)

戻り川心中(連城三紀彦)
を読みました。
1979年の作。ミステリ好きであれば押さえておくべき超有名作なのですが、実は未読だったのです。

レビューでは新刊読書に紛れて、時々、「読んでいなかった超有名作を今更だけど読んでみた」みたいなものも混じってきますが「今更かよ!」と言わずにお付き合いください。

大正歌壇の寵児・苑田岳葉。二度の心中未遂事件で、二人の女を死に追いやり、その情死行を歌に遺して自害した天才歌人。岳葉が真に愛したのは? 女たちを死なせてまで彼が求めたものとは? 歌に秘められた男の野望と道連れにされる女の哀れを描く表題作は、日本推理作家協会賞受賞の不朽の名作。耽美と詩情――ミステリ史上に輝く、花にまつわる傑作五編

光文社「戻り川心中」紹介ページより(上記リンク)

花にまつわる短編集と紹介にあります。読み通してみると、植物の花はもちろんですが、他にも色街・娼妓も複数の編で登場してきます。「花」というモチーフにはそういうメタファーも含まれるのでしょうか。

連城三紀彦さんの作品はこれまでいくつか読んでいましたが、
・暗色コメディ
・白光
などが強く印象に残っています。

新本格以前の幻影城世代の作家さんのなかでも特にトリックメーカーなイメージがあります。

本作「戻り川心中」は戦前・戦中の日本が純文学さながらの流麗な文体で描かれており、読書中は各編ともそれがミステリー小説であるということを忘れさせられます。

しかし、そこは連城三紀彦さん、結末のどんでん返しで「そうだ!これはミステリー小説だった!いや、連城三紀彦さんの作品だった」と啞然とさせられるわけです。

現代の作品でも、ミステリー風の仕掛けが施された一般の小説は珍しくありません。が、たいていそういう作品の場合、トリックも派手さは意図的に押さえられたものであることが多いです。例えばリアルな世界観の作品中に突然大掛かりな物理トリックが現れたりするとそれまでの印象との乖離が激しくなるからだと思います。

ただ、連城三紀彦さんの作品の場合、端正な純文学風の作品において結構な割合で唐突に技巧的・人工的なトリックが埋め込まれたりしています。

遠慮が無いというか、ミステリー作家としての矜持がそうさせるのでしょうか。

その落差が連城三紀彦さん作品の魅力のひとつだと私は思っています。そして、私はそうした落差から来る酩酊感を求める読者のひとりです。


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