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くらのかみ(レビュー/読書感想文)

 くらのかみ(小野不由美)
 を読みました。

 2003年の作ですが、20年を経た2024年の7月にして初の文庫化です。

 冒頭からいきなり脱線しますが、初の文庫化というと最近はマルケスの「百年の孤独」が話題です。こちらは日本国内では1972年出版以来の出来事。ミステリ界隈では、伝説のメフィスト賞作品である古泉迦十の「火蛾」が昨年、こちらは23年の時を超えて文庫化されました。私は重厚端正なハードカバーも大好きですが、やはり文庫は持ち歩きしやすいですものね。こうしたトレンドは読書家としては歓迎です。あ、ちなみに上記二作のうち「百年の孤独」は未読です。この機に読んでみるかも。

「くらのかみ」に話を戻します。

 作者の小野不由美さんは十二国記シリーズやゴーストハントシリーズなどで有名な人気作家です。ホラー、ファンタジーやミステリーなど手掛けるジャンルも多岐にわたります。私がこれまで読んだことのある作品はミステリー系ばかりですが、「東亰異聞」「黒祠の島」が特に印象に残っています。

「くらのかみ」は、2003年に講談社の児童向けミステリーの叢書である「ミステリーランド」の一冊として発表されています。「ミステリーランド」は「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」をコンセプトに打ち出した叢書で、一線級の人気ミステリー作家らが参加したのですが、当時にして読者からかなりの困惑の声があがったことを覚えています。それはけっしてクオリティの話ではなく、その声を要約するならば一見して「これって本当に子供向けなのか?」という作品が少なくなかったことです。当然のことながらコンセプトはきっちり関係者に伝わっていたのでしょうが、本格系作家らの矜持が安直な「子供向け」を許さなかったのか、それとも「子供向け」といってテーマや描き方まで作品の視座を下げるのを良しとしなかった結果なのかもしれません。主観人物の年齢が低かったりと子供らが感情移入しやすくなるような最低限の配慮は多くの作品で為されていたように思います。

 そんななか第一回配本の一作として発表されたのが「くらのかみ」でした。

行者に祟られ、座敷童子に守られているという古い屋敷に、後継者選びのため親族一同が集められた。
この家では子どもは生まれても育たないという。
夕食時、後継ぎの資格をもつ者のお膳に毒が入れられる。
夜中に響く読経、子らを沼に誘う人魂。
相次ぐ怪異は祟りか因縁かそれとも──。
小野不由美の隠れた名作。

「くらのかみ」紹介ページより

 私は、本作を読むのは今回の文庫版が初めてでした。率直な感想としては、やはりこの作品も小中学生が楽しむにはややハードルが高めなのではと思いました。

 かなりオーソドックスな本格ミステリです。これはネタばらしにならないと思いますが、物語の構成要素として一点だけ特殊設定が組み込まれており、それは他ならぬ「座敷童子」の伝承であり存在です。

 読者は座敷童子が誰であるかを念頭に置きつつ、次々に発生する殺人未遂事件の犯人を推理することになります。作風としてはロジック重視でそれもかなりガチンコ気味です。従って、本格ミステリ愛読者の期待には十二分に応えられる作品であると感じさせられつつ、一方で上述のとおり浮つきやすい若年層読者の興味関心を最後まで惹きつけられるかというとその読者次第になりそうという感想を私は抱きました。

 とはいえ、舞台設定としては、
・夏休みに田舎の家にお泊り
・親戚の子らとの交流
・子供だけの探偵団
 と、少年少女らを自己投影に誘う要素は満載です。そして中年読者はノスタルジーに浸るまでがワンセット。

 ミステリーというジャンルに限らずですが、新しい読者を作っていかないと本も小説もこのままでは衰退の一途です。若い新しい読者を歓迎するというミステリーランドの精神は20年を超えて今なお必要とされています。

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