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人間が「ハッキング」される時代

みなさんは、「サピエンス全史」という本をご存じですか?

人類(サピエンス)の誕生から現在までの発展をファクトベースで描き、2014年の出版後、世界累計1550万部を記録している超大作です。

僕はAudible版で聴いてみたのですが、一周では到底理解しきれないスケール感と示唆に富んだ内容に圧倒されました。

その著者、ユヴァル・ノア・ハラリ教授YouTubeでの情報発信も盛んに行っています。

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ユヴァル・ノア・ハラリ
イスラエル出身の歴史学者。2013年に開設された公式チャンネルは、フェスブックCEOのマーク・ザッカーバーグとの対談など魅力的なコンテンツが見放題。22万人以上が登録しています。

そんな彼の最新動画は、「Commencement Speech for the Class of 2020」。日本語にすると「2020年の卒業生に贈るスピーチ」といったところでしょうか。

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今年大学を卒業した者として、解説せずにはいられませんでした…!

卒業式でのスピーチと言えば、スティーブ・ジョブズの「Connecting the dots」などが有名ですが、ハラリ教授のメッセージは一味違います。(一部意訳が入ります。)

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おめでとうございます。あなたは「ハッキング可能」な生物になりました。

卒業式のスピーチといえば、卒業生へアドバイスを贈ることが通例でしょう。ですが、みなさんは既に先生方から助言を十分もらったと思います。

そこで、人類が未だ経験したことのない問題を解決する手助けをお願いさせてください。

21世紀において、最も重要なのは「人間がハッキング可能になる」ということです。

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スマートフォンやコンピューター、または銀行口座がハッキングされる話は聞いたことがあるかもしれません。

しかし本当に恐ろしいのは、いくつかの企業や政府があなたの体と脳をハックできるようになることです。
人類史を通じて、人間の魂は解析不可能なブラックボックスでした。

親は子どもを理解し、恋人はお互いの気持ちを覗き込むことができますよね。けれども祭司や商人、そして暴君はうわべでしか人の心を推し量ることができませんでした。

作家のアレクサンドル・ソルジェニーツィンは、かつてのソ連議会をこのように描写しています。

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参加者はスターリンへ熱烈な拍手を送った。
数分が経つと、彼らは不安になってくる。全員が疲れを感じていたものの、誰も「最初に」手を止めたくなかったのだ。
見せかけの興奮と淡い期待を抱きながら、士官やアパラチクは手が痛み、頭がぼーっとするまで拍手を続けた。
3分、5分、10分…時間が過ぎていく。11分が経った後、ついに製紙工場の所長が決死の思いで手を止め、着席した。
即座に、その場にいた全員が同じ行動を取った。
その日の夜、所長は秘密警察に逮捕され、グラグ(強制労働所)に10年間収容された。

スターリンは人々に笑顔や拍手を強いることはできましたが、彼らが実際に何を感じているかはわかりませんでした。しかし、21世紀のスターリン(すでに何人か候補者がいますね)は違います。

みなさんは、生物学とコンピューターサイエンスが融合する時代に大人の仲間入りを果たします。スマートフォンで疫学を勉強でき、例のウイルスがZoomと出会うときです。

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あなたの中で何が起こっているか知るためには、生物学的な見地から蓄積した膨大なデータや高度な演算能力が必要です。

これまでKGBやCIAにこうした活動は不可能でしたが、近いうちに政府や企業が人々をハッキングできるようになるでしょう。

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彼らが開発した監視技術を使えば、今私の話を聞いていることだけでなく、あなたの政治的見解やアートの趣向、そして性格まで知ることができます。

私たちは、肌や体の中まで取り調べ可能な「生理学的監視」社会に足を踏み入れようとしています。この話に耳を傾けている事実を越えて、どのように感じているかさえも把握できるのです。

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怖いですか?苛立たしいでしょうか?それとも懐疑的?

想像してみてください。10年後、ナルシスト的な上司があなた達にビジネスプランを自信満々に発表し、聞いている全員が笑顔で称賛の拍手を送っているとしましょう。

しかし、手首のバイオメトリック・ブレスレットは「あなたがそのビジネスプランを今まで聞いた中で一番くだらないと感じた」ことを包み隠さず上司に伝えます。

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もしくは、銀行のコンピューターに向かってご自身のローン返済プランが万全であることを訴えるかもれません。しかし指につないだセンサーの情報では、実は完済できる自信がないことがバレてしまいます。

こうしたテクノロジーには、独裁政権だけでなく民主主義国家も変えてしまう力があります。

何度も「投票者が一番多くを知っている」「蓼食う虫も好き好き」「自分の心に忠実であれ」と聞いてきたことでしょう。
現在はどうでしょうか?

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外部システムが私達をハッキングし、深層で何を恐れ、欲しているか学習できるようになれば、どんなものでも売り込めるようになるでしょう。製品でも政治家でも。

あなたの心の声に耳を傾ける時も注意してください。24時間体制で監視し、ご自身よりも詳しく胸の内を知る者がいるかもしれませんから。自分の心が二重スパイという可能性すらあるのです。

人間がハッキング可能になった社会を、どう生き抜けばいいでしょうか。

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恋人や母親よりも、アルゴリズムが私達を理解する時代で、どのように民主主義や自由、そして人生の意味を守れるでしょうか。

これこそが、みなさんの直面する最も複雑な問題と言えます。
上の世代たちは、必要な知識と価値観をあなた達に授けました。しかし、彼らは解決できません。問題の解き方を知らないのです。

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みなさんが、ご自身と人類全体のために立ち上がる必要があります。

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感想

凄まじい説得力を持った話ですね。

みなさんはどのように思いますか?あまりポジティブな感想を持った方はいないかもしれません。

僕も最初は危機感を抱きました。ジョージ・オーウェルやマイノリティ・レポートの世界が現実になる…まさにディストピアです。

そして、ハラリ教授が言う「近い将来」は思うより早くやってくる可能性すらあります。

たとえばMITメディアラボで開発されたAlterEgoは、頭の中で僕たちが話す言葉を読み取ることができます。まさに心の中を覗くことができますね。

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言葉を思い浮かべるときの脳波を測定し、それをアウトプットできる。
麻痺患者など、発話能力を失った人々には救世主のようなデバイス。

ここで注意したいのは、「技術革新を止めることはできない」という点です。新しいテクノロジーは常に批判や畏怖の的になりますが、必ず誰かが完成させるからです。

例えば核兵器は物理学者の純粋な発見や発想に基づいて作られました。マンハッタン計画に反対する人々もいましたが、結局広島や長崎で多くの人が命を落とします。

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アインシュタインはアメリカ政府に原爆開発を勧める手紙に署名したが、後にそれが誤りだったと認めた。

しかし教授が言う通り、希望が無いわけではありません。どんな道具も、使い方は人間次第です。上手く利用すれば、AlterEgoのように人々を幸せにするポテンシャルもありますね。

それでは、僕たちはどうすれば良いのでしょうか。
答えが無い問題に、協力しながら立ち向かう。そのためにはデジタルネイティブ世代の当事者意識と、周囲の全面的なサポートが必要です。

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唯一の真の英知とは、自分が無知であることを知ることにある。
ソクラテス

僕たち20代以下は、もっと多くを学ばなくてはなりません。そうでないと、これから生まれる強大なテクノロジーの被害者や加害者になってしまいます。

上の年代の方々は、ご自身の知識や経験を的確に伝え、権限の移譲をすみやかに行っていただく必要があります。

民主主義・資本主義の下ではこうした変化は個人の意思にゆだねられていますが、時代の変化に対応するための措置が取られるかもしれません。

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高齢化が問題になっている先進国において、「age-weighted voting」=年齢に基づた加重投票制度は一つのオプションでしょう。

仮に制度でバランスを取れても、世界には様々な立場の人がいるので、一概に「こうするべきだ」と結論を出すことはできません。それでも、一人ひとりが道徳的・科学的知識を蓄え、歴史を学ぶことは可能です。

つまり、教養やセンスがこれまで以上に大事になるのではないでしょうか。

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私たちが抱える問題は、人間が作り出したものだ。
したがって、人間が解決できる。
人間の理知と精神は、解決不可能と思われることもしばしば解決してきた。
これからもまたそうできると私は信じている。
ジョン・F・ケネディ

年齢やバックグラウンドにかかわらず、僕たちにはもっと学び、考える余地があると思います。

過去、現在、そして未来をバランス良く俯瞰し、自分の主張=プリンシプルを持つ。周囲と意見交換し、それを磨いていく。「意識高い」ように聞こえるかもしれませんが、昔から人間にとって基本的なことです。

これからの世界を作っていくのは僕たちです。一緒に頑張りましょう!

参考情報

元動画

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この記事を書いた人

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Neil(ニール)
ecbo (荷物預かりプラットフォーム) とプログリット (英語コーチング) でUI/UXデザイナーとしてインターン。現在はIT企業でデザイナー。 ハワイの高校。大学では法学を専攻。もともとはminiruとしてnoteを運営。

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