初カレと初カノ②
小学校6年 仲間から好きな人へ
真那斗に告白された翌日、小学校へ登校途中に濃いピンクのランドセルを揺らしながらちょっと前を歩く、聖奈(みな)を発見。
聖奈だ!
ダッシュをして、腕に腕を絡ませ
「おはよ!聖奈!事件だ!」
と、鼻息荒く報告をしようとする私を見て
眠そうに、聖奈が言う。
「おはよー。事件?」
「うん、事件。コクられた!!!」
ん?という、驚きの表情とともにちょっと目が覚めた聖奈。
「えっ?どのクラスの男子??」
「違うんだよ、プールの男子だよ。いつも話ている仲良いうちの1人。」
「へぇ〜、凄いね。えっ、練習の時に告白されたの??」
聖奈の顔が少しニヤけている。
「そんな訳ないじゃん!呼び出さたんだよ。」
昨日の真那斗とのやり取りを、細かに聖奈へと説明した。すると
「へぇ〜、勇気あるねその男子。返事はしたの?」
「勇気??なんで?」
「えっ、だってプールなんて人数少ないしさ、誰かに見られたらすぐに噂にもなるじゃん?なのに、告白した場所もそうだし、1番は振られたら気まずいじゃんか。」
なるほど。確かに。みんな仲良しだから、気まずくなったりしたら嫌だよね。
「ホントだ。確かに。」
「で?好きな人がいる心は何て返事をしたのかしら?」
「えっ、それは素直に好きな人がいますって言ったよ。でもそしたらさ、明日からも仲間として頑張ろうなって。気持ちを伝えたかっただけだからって。」
「そっか。断ったのか。付き合っちゃえば良かったじゃん。心の好きな人は、振り向きそうにないんだし(笑)」
笑顔で傷口をえぐるのが、聖奈の唯一の問題点だ。。。
「そりゃ、そーだけれどさ。でも嘘はつけないし、そもそも付き合うって何?って感じだし。」
「それもそーだね(笑)」
そんな会話をしながら、教室に入るとカップルのように仲良く話をしている子たちが目に入る。
今日も仲良しだなー。入り込む隙間がないな(泣)。
その日、ちょっとドキドキしながらプールに行くといつもと変わらない笑顔で話かけてきた真那斗がいた。
「今日の練習キツイらしいよ?俺ついていけるかなー?(笑)」
良かった、普通だ。これからも普通に仲良くしていけそうだ。
「ヤバいね、私も今日はキツイの嫌だ(笑)」
こんな何でもない会話をしつつ、改めて真那斗を観察してみると、
やっぱりイケメン(笑)。しかも、普通に話しかけてきてくれて嬉しいし、真那斗のほうが気まずいよね?
何かちょっとカッコイイかも♡
そんな彼が私を好きって言ってくれたのか。
うん、悪い気はしないな。
とか勝手なことを思っている自分がいる。
好きって言われると、つい気になっちゃうのは私だけなんだろうか?
いや、きっと誰だってそうだよね?
今まで気にしていなかった真那斗の存在が、同じ目標を持っている仲間としてだけじゃなくて、男の子として感じ始めていたことに、この時はまだ気づいてもいなかった。
春になり、小学校生活も最後の年になった。ラッキーなことに、親友である聖奈と同じクラスになれて浮かれていると、好きだった男子とカップルの女子までもが、またしても同じクラスになっていた。
また、この二人と同じなのかー。
でも思っていたより、胸は痛くない。
あれ?何でだ??
真那斗とは、変わらず仲間として過ごしている。前よりももっと、たくさん話をしたりして、どちらかというと距離が近くなったかもしれない。
真那斗に、あの告白以降は好きなんて言われていないし、そんな素振りもみせないから、一瞬幻だったのかとさえ思うこともある(笑)。
あっ、でも練習中に目が合うことが少し増えたかな?
でもそれって、私が見ていることも増えたからで。。。
ん?私見てる?真那斗を?
ちょっとドキドキした。
私の好きな人は、私を好きじゃない人。
真那斗は仲間。話していて、楽しくて、気が合う仲間…だよね?
自分の気持ちがよく分からないまま、夏が終わり秋になり、その事件は年明けに起きたのだ。
私が次に通う中学は、いくつかの小学校の卒業生が合体した1学年300人くらいの規模になるのだけれど、小学校の違う真那斗と私の小学校は1/3くらいがそこに通うからもしかすると、クラスメイトになる可能性もあるのだ。
そういえばこの前、中学に行ったら何部に入る?なんて話を真那斗とした時に、
「えっ?水泳部1択でしょ?心は違うの?せっかく同じ中学なのに?(笑)」
って、爽やかな笑顔で言われたっけ。その時はまだ書道部と迷っていたから、
「真那斗凄いね!1択なんだ、私どうしようか迷ってるよ〜(笑)。」
なんて返事してた。
それから、年が明けて新入生の制服採寸をするために、来年通う中学校へとお母さんと向かった。
知っている子いるかな?聖奈が一緒じゃないのはツマラナイな。
同じ小学校から行く女の子は比較的苦手な子が多くて、親友の聖奈は受験をして私立に行くことが決まっていたのだ。だから、制服採寸とは言っても知らない子ばかりだろうから、私は緊張していた。
狙っていたメーカーのブースで採寸待ちをしていた時だった。お母さんと話をしながら椅子に座っていると、かすかに聞こえる私を呼ぶ声。
「こころ!こーころ!」
なんか呼ばれている気がする。誰?
キョロキョロしてみたが、知っている子はいない。
「こころ!」
今度は少し大きめな声で、また名前を呼んでいる気がした。
「こころ、お母さん、何か誰かがあなたを呼んでいる気がするんだけれど?」
お母さんにも、呼ばれているような声が聞こえるのか。
そう思った瞬間。舞台の上で、ちょっとドタバタした音がして、振り返ると知らない男の子たちが私のほうを見て、ニコニコしながら
「こころ?こころ?」
と、言い合っている。
えっ?何?ってか誰?
訳も分からず、怪訝な顔をしているとお母さんが、
「あの子達だよね?心知ってる子??」
「いや、知らないけど。何だろ?私のことかな?」
お母さんと二人で、何だろねー?ぐらいに話をしていると、また今度はハッキリと
「こころ!」
と呼ばれた。
もー何?とそっちへ振り向くと、男の子たちの真ん中に、ちょっとバツの悪そうな困ったような顔をした真那斗がいた。
「あれ?真那斗…」
小さい声で言ったこの言葉を、うちのお母さんが聞き逃す訳がない(笑)。
「えっ?真那斗君?ってプールの?」
「うん、そう。真那斗とその友達みたい。」
もう一度振り返ると、じゃれ合いながらも私を見て、小さくゴメン!ってしている真那斗と目が合った。
ドキン!心臓が速くなる。
あれ?なんか、今キュンってなった。
あれ?あれ?
とりあえず真那斗に軽く手を振って、前を向いた私に後ろからまた小さい声で
「こーころ!」
って言っている男子たちの声が聞こえたけれど、今度は振り返らなかった。
っていうより、真那斗がいるって分かって振り返れなかったんだよね。だって、心臓がドキドキしているんだもん。
隣のお母さんは、ちょっと笑いながら、
「心、無視してていいの〜?」
なんて、面白がっている。
ちょうどその時、良いタイミングで私の採寸の順番が回ってきた。
「お母さん、ほらっ、呼ばれているよ!」
お母さんを急かして、後ろにいる男子群を見ないように席を立った。
やだな、なんか顔が熱い。
これってもしかして、真那斗のこと男の子として好きなのかな?
なんか、目が合っただけでドキドキしたし、何なら胸がキュンってしたよね?
あれ?私、真那斗が好きかも。
この日、プールの練習に行くと、真那斗と同じ小学校で同じ歳の、上級選手コースで練習している夏(なつ)が珍しく声をかけてきた。
隣のロッカーで、お互いに着替えながら今日の制服採寸についての話をしていると
「そういえばさ、今日心ちゃん、男の子たちに名前呼ばれていなかった??」
どうやらあの様子を見られていたらしい。
「えっ、うん。なんか真那斗が真ん中にいたけれど、他の子は知らないんだよね。何だったんだろ?あれ。」
すると、夏はニコニコしながらもの凄いことを言ってきた。
「ほら、うちの小学校の6年で真那斗の好きな人がプールの心ちゃんって話を知らない子はいないから(笑)」
「えっ???」
ね。今何て言った??えっ??
ぷちパニックになった私を、面白そうに見ながら夏は続けて
「あれ?知らなかった?うちの学年じゃ有名な話でさ。真那斗、そういう話とか絶対に自分からしないし、からかわれるのとか苦手らしいから、みんな普段は何も言わないんだけれどさ。今日はほら、生こころちゃんを拝むチャンスじゃん?あの舞台にいた男子たちって、真那斗といつも一緒にいる仲良し6人組なんだよね。アイツらずっと、こころちゃんの顔を見たがっていたから、今日名前を呼んで、あの中のどの子なのか、どんな顔をしているのかを見ようとしていたんだと思うよ?」
って、言ってきた。
「ってことは、もしかして、名前呼ばれたのって私を見る為なの?」
「そーだよー(笑)。アイツら真那斗がずっと好きって言ってる子の顔を見るのを、凄く楽しみにしていたもん!じゃーね!」
もの凄い爆弾発言を落とし、夏はプールへと消えて言った。
ちょっと待って、落ち着こう。
あれ?真那斗は私のことがまだ好きなの?好きでいてくれているの?
えっ?今日のアレは、私のこと興味津々で男の子たちみんな見に来ていたってこと??
ってか、1番は真那斗の小学校の同級生は、みんな私のことを真那斗の好きな人で知っているってこと????
もう情報量が多すぎてついていけない私は、とりあえず練習を頑張ることにした。
練習終わりに、いつも通りみんなと喋る真那斗と目が合った。
「今日はゴメンね!」
私にスッと近寄って、耳元でささやく真那斗。
「ううん、大丈夫。気にしていないよ!」
笑顔でそう答えたけれど、引きつっていなかったかな??
もう心臓がバクバクしていて、まともに真那斗を見られなかった。
もうプールの仲間だけじゃない。
私の好きな人なんだ。
この時初めて自分の気持ちを確信したのだった。
続く
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