恋するけんかは、運命の赤い糸のせい
くたりと天井を見あげる。いつもは居心地のよいこの場所がとても苦い。
あたま、いたいなぁ。
保冷剤をくるくるまいたタオルをあたまに当てる。
おおきな声をだしてしまうと、どうしてもあたまが痛くなってしまう。いつもが小さな声だから、身体がびっくりしてしまうんだろうな。
圧迫されるようなあたまのズキズキと、眠たさと、だるさ。
これは、心の痛みでもあるんだろうな。わたしとぶつけてしまった彼の。
しんどいながらも、ほんの1時間前のことを思いかえした。
★
感情的になって、どんどんおおきくなっていった声。伝えたいことが伝わらない。もどかしさから、早口になって、余計にことばにつまってしまってた。
頭ではわかっていたのに、吹き出してしまった想いの勢いは、なかやかおさまってくれなかった。
悲しそうな顔の彼を一方的に責めてしまった。
わたしもつらかったの。
それを伝えたかったのだけど、本音はちがう。
さびしかった。そばにいたかった。
もっと、もっと、ふたりで笑いあう時間がほしかっただけなのに。どうしてこんなにこじれてしまったんだろう。
目のふちにたまった涙がながれるのをかんじながら、目をつむった。
★
大人になるにつれて、おおきな声をだして、ケンカしなくなった。そうしなくても、和解する方法があることをしったから。
ガマンしたらいい。
目をつぶっていれば、いい。
笑顔でさえいたら、いい。
本当に大切な人にはしちゃいけないんだって。やっとわかった。
向き合うために、相手との距離をちぢめていく。知らないこと、わからないこと、たくさんあって、つまづいていく。
どちらかがつまづいたら、手をさしのべられるけど。ふたりがコツンとぶっかってしまうことだってある。
それが、ケンカの正体。
悪いことじゃないんだよね。
運命のふたりは、赤い糸で結ばれる。
結んでいるからこそ、結び目につまづいて、ぶつかることもあるんだよ。
お休みエンドロールのメッセージが心の中でひびく。悲しみのどん底にいた昨日にもらったメッセージがいまになって心に届いた。
ねぇ、もういちど、やりなおせるのなら、今度はちゃんと、あなたと。
★
「だいじょうぶかぁ。」
ガサガサとビニール袋をぶらさげた彼がそばにいた。そのまま、眠ってしまったらしい。
「つめたくて甘いもん、買ってきたよ。」
トントンとテーブルにおかれる、バニラとチョコミント。わたしのすきなやつ。
おおきなチョコモナカをぱっとだして、半分こして、ひとつをわたしの手ににぎらせる。
「ごめんね。おおきな声だして。」
「いいや、オレもごめん。なかな…」
「仲なおりしたい。ちゃんとね、向き合いたいの。大好きだから。」
いつも彼が先に謝ってしまうからと、あわてて言った言葉の最後に、本音がでてしまった。
彼はどちらにびっくりしたのか分からないけど、目を細めて、あたまに保冷剤をあてる。
「はい、ちょっとかじって。」
あまいバニラアイスとチョコレート。
彼のすきなおおきなチョコモナカは、仲直りの味がした。
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