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毎夜、はちみつ色した月のあまさとさわやかに恋をする


満月をみると、オオカミになる人間がいるように。夜には、かきたててしまう何かがある。


隠したり、隠されたりしている奥のものが、目をさましてしまうような。


とつぜんやってくる衝動は、誰にも、自分ですら、とめられなくて。なくすこともできない。せめて、落ち着きだけでもとりもどすために、折り合いをつけるんだ。



コトンと空っぽのコップをおきながら、しばし悩んでいた。ある衝動があることにきづいてしまったからだ。


部屋にかえってきたのは15分ほど前。友人とごはんを食べてきたので、麦茶でのどを潤してから、お風呂にはいろうとした。
麦茶をのんでいた数秒間で、ある衝動にきづいてしまったんだ。


甘いものがたべたい。


なんか、こう、甘いもの。そう、だって、今日はデザートをたべていなかったんだもの。頭のなかでは、家にある甘いものがかけめぐっていた。

冷凍庫のなかのバニラアイスやいちごのクリスピーサンド。戸棚にある、チョコレートのサクサククッキーやハートの形のパイ。どれもいい。


欲している甘さをぐっとこらえたくなったのは、時計をみたからだ。
ちょっと甘いものをひかえたい時間だ。いや、甘いものでなくてもかな。

目がさめたとき、お腹がすいているくらいがちょうどいい。なに食べよっかなって起きるのが、いい朝だなって感じるからだ。


さて。どうしようか。無視することもできる。きっと、お風呂にはいってしまえば、眠気がやってきてしまうだろうから。


でも。どこかで感じていた。今夜の衝動は、おさまらないような気がすると。
何年もつきあっている自分のことだもの、なんとなくだけど。


迷いながらも、だしたままの麦茶のボトルをしまおうと冷蔵庫をあけた。


あっ。


目に入ってきたものをみて、ピンときた。いいこと、思いついた!
ためらいなく、それを手にとった。



目にはいったのは、ちいさなヨーグルトカップだった。4つほどのちいさなカップがくっついているものの、最後のひとつ。


ふたをぺりぺりとあける。ふたについたヨーグルトをぺろっとなめる。うん、おいしっ。すっきりとした甘さだ。


まっしろなヨーグルトのうえで、ボトルをさかさまにする。キラキラとろりとしたはちみつを、たっぷりとかける。


ちいさなカップに、とろりとした満月がうかんでいるようだ。


はちみつの月をスプーンですくって、口に運ぶ。はちみつの甘さと、ヨーグルトのさわやさがあわさる。これだ、この甘さ。欲していた甘さをえて、わたしはにっこりした。




満月をみると、オオカミになる人間がいるように。夜には、かきたててしまう何かがある。


わたしのなかをかきたてていた何かは、すっかりおさまってしまった。さわやかな甘さの月のおかげで。


どちらかといえば、恋におちてしまったんだろうな。


あの夜から、さわやかな甘さのとりこになってしまったんたもの。おなかの調子がとってもよくなったこともあるけどね。


はちみつ色した月をスプーンですくうことが、夜の楽しみになったのは、わたしだけの秘密だ。

いつも読んでくださり、ありがとうございます♡