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不思議な心のふたつのクッキー。


不思議の国のアリスという物語を知っているだろうか。水色のワンピースを着ておめかししてお茶会に参加していたアリスは、時計を持って走るウサギを見かける。


どこへ行くのっと後をついていくと、大きな木の秘密のトビラから、不思議の国に迷い込んでしまうっというお話だ。


物語の中でアリスは、身体が大きくなったり、小さくなったりする不思議なクッキーを見つける。そのクッキーがとても美味しそうで、魅力的だった。


「わたしも、アリスのクッキーが食べたいな。」


そう言うと、お母さんはにっこりと笑って、2つのクッキーを焼いてくれた。


ひとつは、星の形のクッキー。プレーン生地にくだいたアーモンドがはいっていて、ざくざくとしていて香ばしい。


もうひとつは、ハートの形のクッキー。ココアの生地にチョコチップもはいっている甘くてしっとしとしてる。


「わぁ、おいしそう。」


2つのクッキーにてをのばそうとするわたしに、お母さんはこう言った。


「星の形のクッキーはね、身体が小さくなるの。ハートのクッキーはね、身体が大きくなるのよ。」


その言葉に、わたしは伸ばした手をとめた。


「えっ。このクッキー、いつ食べたらいいのかな。」


ちょっと困ったように眉間にシワをよせていると、そのシワをつんつんしながらお母さんは笑う。


「星のクッキーは、嬉しかったり、楽しかったりしたときに食べてみたらいいわ。ハートのクッキーは、悲しかったり、怒ったりしたときに食べてみたらいいわ。」


2つのクッキーをそれぞれ星とハートのかいてある缶の箱にいれて、わたしに手渡した。


「じゃあ、今はこっち。」


星の形のクッキーをぱくりと食べた。



嬉しいときや楽しいとき、星の形のクッキーを食べる。ざくざくと香ばしいクッキーをほおばれば、その気持ちはそのままに身体はどんどん小さくなる。


小さくなった身体は、元の大きさのままの気持ちののって飛ぶ。そうすると、気づけるんだ。この嬉しさや楽しさをくれた人のこと。


おいしいごはんは、お母さんがつくってくれる。楽しい場所には、お父さんがつれていってくれる。一緒に笑ってくれる友だちのこと。ほら、たくさんの人が周りにいてくれることがわかるんだ。


それがわかったら、小さな身体でそのまま飛んで。ありがとうの気持ちを伝えにいく。



悲しいときや怒ったとき、ハートの形のクッキーを食べる。しっとりと甘いクッキーをほおばれば、その気持ちはそのままに、身体はどんどん大きくなるの。


大きくなった身体で、そっと見下ろす。悲しいことや怒ったことをもう一度。そうすると、気づけるんだ。あれ、これって悲しいことかな、怒ることかなって。


大きな身体でふーっと深呼吸したら、悲しさや怒りは和らいでいく。ごめんなさいって反省したり、仲直りができたりする。


それでも辛かったら、その小さな気持ちを抱きしめながら、たくさん泣く。すると、大きな身体のその涙にだれかが気づいてくれる。


一緒に泣いたり怒ったりしながら、そばにいてくれることに、ありがとうって言えるんだ。



お母さんの焼いてくれた2つのクッキー。身体が大きくなったり、小さくなったりする魔法のクッキー。


どちらのクッキーは、いつだってわたしの心の味方になってくれる。どんなときのわたしでも、その気持ちを大切にしていいんだよって伝えてくれる。
嬉しいときにも、楽しいときにも。悲しいときにも怒るときにも。全部いいんだよって。


あのとき、焼いてもらったクッキーはもうないけれど。心のなかには、ずっとある。やっぱり不思議なクッキーなんだ。



いつも読んでくださり、ありがとうございます♡