隣の芝生と自分のいる景色
世の中には仕事に悩んでいる迷える子羊たちのなんと多いことか。
仕事に生き甲斐を求めるなら当然だ。
転職もどんどんすれば良いと思う。
でもふと思う。
良い環境、合う仕事って何だろう。
世の中、専門職でもない限りそんな高給な仕事は無いし自分は職をあれこれ選べるだけの技量なりがあるのかといえばほとんどの人が資格も特技も無いだろう。
大企業で働いてるのはほんの一握りの人で
その他はほぼ零細企業で働いている。
テレビは大企業の今年のボーナスを毎年高らかに発表するが、はて?なんのはなしですか?だ。
私は物流倉庫で働いている。
ざっくり説明すると、ECサイトでのインテリア雑貨の出荷業務全般である。
それまで午前中3時間のバイトだったのを、下の子が中学になるタイミングで収入を増やしたいと思ってたまたま近所の求人に応募しただけだ。たまたま受かった。近所で働けるならどこでも良かったのだ。
まさか、このチビの力の無さそうな私が自分の背丈ほどある段ボールに入った荷物を持ち上げたり、運んだりすることになろうとは。
音楽教室でにこやかに子ども相手に「音楽の先生」をしていた私が、物流業界で働くことになるとは。
もうこの職種になって10年が過ぎた。誰よりもたくさん、誰よりも早く、綺麗に小さいものから家具まで梱包なら任せてくれ、と自信を持って言えるまでになってしまった。倉庫には3000アイテムほどの商品が並ぶが、品番を聞けばどこの国から輸入されたどの商品であるか、だいたい分かるのだ。
他の店では全く役に立たない知識である。
あくまでも、今の会社の中でしか役に立たない。インテリア雑貨好きであるので雑貨と触れ合うのがこんなにも自分の性にあっていたとは全く想像もしていなかった。
力仕事ばかりである。毎日、毎日、段ボールと戦っている。それが私に与えられた仕事であり、日常だ。
私が大事だと思うのはどのような職であれ、朝起きて仕事場に行けるか、さらには仕事先に「居場所がある」のか「居場所がない」のか、だけの違いだと思う。
私は今の仕事を辞める気はない。
「居場所がある」からだ。
会社の人間関係はというと、まるでクラスだ。馴れ合いが強いアットホームな職場である。いわゆるブラックとされる、アットホームしか取り柄のない会社だ。社長の一言ですべてがひっくり返る、そんな会社だ。
日々、あの人がどうやこうやという噂話には事欠かないし、笑い話も突然の団結も、とにかく学校のクラスで起こりがちな光景が日常的にある。
すべてが発展途上の会社だ。
評価システムも業務マニュアルもすべて。
コロコロ変化する。3日休んだら何かが変わっている。
だが、そんな職場の生活を私は自分の生活の中の「景色」にすることに成功した。
私がこの会社で働くのは生活の中の景色なのだ。捉え方を変えたのだ。
以前記事にしたワークアズライフの考え方だ。
会社への不満が死ぬほど募り、うっかり辞める決心をするとこだったことも1回や2回ではない。実際、私は40代半ばに体調不良でどうにもならなくなり、円形脱毛症になり、今の会社を一度退職している。
そして退社後半年という期間で3社で働いたがいずれも短期間で辞めた。自分は社会不適合者ではないのかと悩んだ。3社とも今の会社よりも断然簡単に仕事ができ、きちんとしたマニュアルもあり全般的にホワイトだったのに、私は適合できなかったのだ。
隣の芝生は青く無かった。逆に隣の芝生から見た自分の会社は限りなく安全地帯だったのだ。
私は愕然とした。今の会社以上に楽しく働けるところは無かった。時給も今の会社が1番高かった。結果、退職から1年経たずに私は今の会社に出戻ったのだ。出戻って6年になる。トータルで11年だ。
出戻った以上、もう辞める気はない。
諦めもあるし、年齢もある。
私は資格も特技もない。
資格を活かした仕事とは無縁だ。
だが、私を必要だと言って再び受け入れてくれた職場なのだ。40代以上でこの会社を辞めた人間は高確率で出戻る。
きっと皆気づいてしまったんだ。
不満を抱えて飛び出したはずなのに
隣の芝生と比べたらうちの会社は断然優しく居心地が良いことに。そして40オーバーが新しい居場所を作ることの難しさに。
私は動ける限りこの会社にしがみつく。
今更何者にもなれないが生活をするには充分だ。
私はこれからもこの会社で過ごす自分を毎日の「景色」にしてうまく生きていくのである。
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