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商社のリアルな社風とその背景

前回記事(総合商社の解体新書)で、商社のイメージの代表格である「残業」「飲み会」「勢い」「駐在」について取り上げました。今回はこのイメージの実態と、なぜその様な社風が形成されたのか前回記事を踏まえて解説していきます。


商社の信用力が求められる時

前回記事の大半を割いて説明した商社の提供する「信用力」、商社社員はこれを個人として体現し社会に提供していくことが求められます。いかに会社としてお金やネットワークがあろうとも、担当社員が毎回遅刻してきたり、ルール違反をする様では信用できませんし、その社員を介して商売をする気が起きません。

お客さんの立場として、この信用力がありがたいのはいつでしょうか。色々な状況あると思いますが、恐らく人に言えないくらい困った時でしょうね。

例えば、自前で用意した貨物にダメージが見つかって、新たに再輸入するには2週間かかってしまう。材料がないので数日間工場を止めると1日100万円かかってしまうなんて状況。お客さんとしても自分の上司に手ぶらで相談するなんて怖くてできない。その時に親しい商社に相談し、その商社が翌朝までに補填貨物を見つけてくれられたら、少し高くつくけど最悪の事態は免られ、商社としてもうまく保険・信用を売れたことになります。次からこんなことにならないよう、その商社を懇意にしようと思ってもらえるでしょう。

逆に、商社としてはこういった事態を引き起こさぬよう最善を尽くさねばなりません。世界中に展開する事業や世界中の海に浮いてる船を取り扱うトレードでは、アフター5に電話の電源を切るなんてできませんね。いつ何時新しい情報が入ってくるか分かりませんし。この仕事が9時-5時で終わら無いことは明らかでしょう。

これが商社を「残業」体質にする致し方ない理由です。

接待の真の狙い

さてここでもう一度お客さんの立場になってみますと。人は本当に困っている時、人に相談するのが怖くなるものです。こんな話をしたら上司に怒られる、足元を見られる、馬鹿にされる、色んな理由があります。なのでいつでも相談してもらえる関係を作っておくのが商社パーソンの仕事です。普段から客先に足を運んだり、接待に行くのは困った時に自分のところに帰ってきてもらうためです。

また非常事態に一人で対応するわけではありません。商社ビジネスの規模になると部署横断的に対応することは珍しくありません。社内の人脈もあなたの大切な財産です。私は2度も転職していますが、人はどこで誰と繋がるかわからないなぁ、と度々思わされます。これが社内ならどこでも誰とでもつながりますので、しっかり関係を構築しておくのが大切です。

余談ですが、私は若い頃、社内の関係なんて上を通せばどうにでもうまくやれるでしょう、と勘違いしていたこともありました。けど実際には、いちいち上を通す時間なんかないし、上同士の会話で出てきづらい情報もあるので担当者の関係構築が日々の業務に困った時ほど重要な役割を果たします。なので本当は会社がお金を出して、社員の交流会を開催できればいいのですが、時代の流れでこう言った交流会は淘汰され自費開催になってます。そうするとみんな来なくなっちゃいます。昔はそんなふうに考えていた私も、今もし商社に戻ったら自費でも参加すると思います。単純に楽しみ方を知っているだけでなく、数ヶ月に数千円の会費で楽しい職場が作れ、ストレスが減るならお得だと思えるからです。ストレス解消は結構お金がかかりますから。社内飲みの上手な楽しみ方も今度記事にしてみます。

長くなりましたが、これが商社の「飲み会」が多い実態の理由です。

国際的 < 日本企業文化

さて残るは「勢い」と「駐在」です。前回の記事で、商社の風土は国際的というよりも伝統的な日本企業とお伝えしました。日本のビジネスを稼ぎ頭にしているので、国内への安定供給を実現するための調達面での海外進出機会は多いと思います。この海外進出する際に勢いが必要になります。

例えば、エネルギー分野での海外進出を想定した場合、世界の巨大企業と勝負することになります。三菱商事全体の総資産額が凡そUSD 150 Bilに対し、エネルギーメジャーのExxonMobilの総資産額は USD 300 Bilを超えます。三菱商事の様々な事業の合計総資産額が150ですから、エネルギー事業だけで比べたら規模差はもっと大きいことがわかります。資産額が全てではありませんが、日本で巨大だと思っている総合商社のが世界ではそこまで大きくないことが一眼で分かるでしょう。

出資先の優良企業やパートナー企業の目線に立つと、母体のしっかりしたメジャーからの出資を好むのは理解できるかと思います。すると海外に出た総合商社には金のなる木案件は降ってこないのです。普通の木がくればラッキー。倒れそうな木を育てることが多いのです。いつ倒れるか心配しながらも、成長する姿を描く商社パーソンには必然的に「勢い」が必要になります。逆張り、な訳ですから。堀江さんの言うように結構バカになれる人じゃないといけません。小利口が一番良くないと私も思います。

では、この倒れそうな木を再生させるのに重要な能力=駐在員に求められる力とはなんでしょうか。よく経営力という言葉を耳にしますが、ここではより一歩踏み込んだ議論をしてみたいと思います。

みなさんなら、どんな倒れそうな木であれば投資してみようと思えますか?

倒れるそうな木を再生する

私なら、販売能力やネットワーク(営業力)は少なくとも欲しいです。駐在先では基本的に現地の社員が販売を担うため、駐在員が営業を統括することはありますが、本人が急に営業力を補填できるわけではありません。

営業力はあるのになぜこの会社は倒れそうなのでしょうか?

恐らく資金繰りや法規制遵守など管理面に弱みがあるんでしょう。ルールを遵守できず罰金が課せられる、管理会計や管理がうまくできないから、お金の入り以上に出も多く資金繰りが圧迫されてしまっている。逆にルールを守っていて、資金が尽きさえしなければ会社は倒産しません。

Financeを生業とする商社にとって管理業務は18番です。商社の若手時代、仮に営業配属になっても、決算、リスク管理、法務、税務など、膨大な管理業務を経験をします。もちろん会計士や弁護士らの専門家からは程遠い知識量ですが、専門家と議論ができる程度の能力は身につきます。逆に管理部門配属になると、商社の事業の範囲においては専門家を代弁する機会があったり、彼らを説得できる程の能力が付きます。

管理業務能力が駐在員として目立って必要とされる力だと言うことがお分かりいただけたでしょう。なので、最初の配属先で「もっとビジネスがしたい」と腐らず、将来のための筋トレだと思って前向きに取り組むのもいいと思います。

もう一つアドバイスをすると、事業投資先・駐在先では管理能力に加えて戦略的思考力や人を伸ばす力も大切です。これは、駐在するまでの若手期間に様々な形で習得できます。先輩達の会話やメールから業界全体を俯瞰しアプローチする手法を学び、インストラクターとして後輩の能力とモチベーションを高める経験は将来世界のどこに行っても汎用性のあるかけがえのない財産になります。私も若手時代に学んだこれらの知識や能力は転職後やMBAでも役立ちました。

まとめ

「残業」「飲み会」「勢い」「駐在」について私なりの所見をシェアさせていただきました。昨今の働き方改革が進む中では「残業」「飲み会」は嫌疑されており、今後DXが進むと自然な流れで「残業」「飲み会」は加速的に減っていくと私は考えています。まだ一般的な企業では、AIが前線に立って仕事をする姿を見ることは少ないかもしれませんが、AIのオフィス進出は我々人類組織の構造と求められるスキルの変化をもたらすからです。この変化については、次回号「AIとの共生に向けて」にて掘り下げて解説していきます。


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