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アナログ巌流島【ショートショート】

「10分後、巌流島に着陸します」

 アナウンスを聴いた途端、夫は、防護服のグローブで、私の手を握りしめた。

「巌流島だ! アナログの巌流島!」

「痛いよ。落ち着いて」

「あ、ごめん」

 夫は慌てて手を離し、深呼吸した。こういう素直なところ、可愛いよな。




 古代、人類が防護服無しで、地表で生きていけた頃も、新婚カップルは旅に出たらしい。

 バーチャル旅行全盛の昨今も、新婚旅行は、アナログと呼ばれる地表世界の、リアル旅行が定番だ。

 行き先を巌流島に決めたのは、古代小説ファンの夫だ。

 新居は全て、私の好きにした。旅行は、彼の希望を叶える番だ。



 アナログの空は、黄色く濁っていた。

「宮本武蔵が見た空は、青かっただろうね」

「残念?」

「ううん、最高」

 夫は私を見た。防護マスクからのぞく瞳が輝いている。

「世界一好きな人と、世界一来たかった場所に来てるんだもん」

 こういう事、さらっと言えちゃうところ、ずるいよな。

 私は黙って、夫の手を握った。


(イラスト:清水はこべ)



 田原にかさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しました。

 お題は「アナログ巌流島」。

 ……パワーワード過ぎませんか? 

 田原さん、難易度の高い、大変燃えるお題をありがとうございます!



 タイトル絵は自作しました。

 こんな感じの絵を、みんなのフォトギャラリーに探したんですが、見つけられなくて。

 でも、自作の物語に合わせて絵を描くのも、楽しかったです。

 いずれ、音楽も作ってみたいなあ。

お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。