十六夜の贈りもの【短編小説】【#シロクマ文芸部】
銀河売りの仕事は、今が書き入れ時だ。それは分かっている。
でも、待ち合わせに百年も遅れてくるのは、どうかと思う。
「悪い悪い、立て込んでて、連絡できなくてさ」
兄は、大して悪びれもせずに笑った。
銀河売りの兄にとっては、百年など、ほんの一瞬でしか無いのだろう。
でも、星飼いの私にとっては、そうじゃない。
「あのね、百年も経つと、ヒトなんて、一世代が丸ごと全部消えちゃうんだよ」
手持ちの星の中で、一番綺麗な子が、この百年で見せてくれた景色は、本当に見事だった。
兄にも見せたかったのに。
「相変わらず、儚くて綺麗なものが好きだね、お前」
兄は、笑顔を深めて私を見ると、懐から何かを取り出した。
「やるよ、遅刻して悪かったね」
兄から受け取ったそれは、儚くて綺麗で、私は一目で気に入った。
私のお気に入りの子に飾ってみよう。きっと、気に入ってくれる筈だ。
⭐︎
少女は目を覚ました。
先程までの夢が、ぼんやりと残っている。
眠る自分の頭上で、誰かふたりが、仲良く話をしていた。それが誰なのかは分からない。
少なくとも、去年、亡くなった両親ではない。いちばん夢に出てきて欲しいふたりなのに。
寝直そうとしたが、眠りはなかなか訪れない。
諦めて起き上がり、窓を開けた。空を眺めると、少し悲しみがやわらぐ。
窓辺に頬杖をついて、ぼんやり空を眺めていた少女は、不意に声を上げた。
「お月様が、ふたつ?」
少女の頭上に、十六夜の月がふたつ、優しく輝いていた。
小牧幸助さんの企画「#シロクマ文芸部」に、初めて参加しました。
お題は「銀河売り」。
小牧さん、素敵な企画をありがとうございます。
この企画、鈴懸ねいろさんの作品を拝読して知りました。
きっかけとなった作品はこちらです。綺麗で切ない物語。
お目に掛かれて嬉しいです。またご縁がありますように。