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記憶の中の物語、記憶のような物語

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随想、或いは、私小説と呼ぶのが一番近いかもしれません。 でも出来れば、物語と呼びたい。
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#記憶

淡い憧れだけで

 中古の小さな鍵盤は、四千円もしなかった。  ハノンの楽譜は千円ちょっと。表紙には「大人…

清水はこべ
3か月前
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紫陽花と中学生

自宅近くに、こんなに紫陽花が沢山咲いているなんて、知らなかった。 ---★--- 在宅勤務が始…

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木曜日の陽射し

先週の木曜日、突然、春が来た。 ---★--- 家を出た途端に、あ、前日までと、陽射しが明らか…

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信じられないままでいてくれてありがとう

「はこ、これあげる。最近、はこが明るくなって、嬉しいの」  学級委員の夢ちゃんから手渡さ…

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ふたつの町

 五月は、通勤が楽しい。  新緑の中だと、バスを待つのが苦ではない。バスに乗り込んでから…

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歌と祈り――そうじゅもりおさんと、ティル・ナ・ノーグの事

 歌姫は、杖を突きながら、ゆっくりとステージに立った。  長いスカートのワンピースで、華…

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噴水と鐘の木、そして、ソフトクリーム

 ニュースの見出しに、懐かしい場所の名前を見掛けた。幼い頃を過ごした町にあった、象徴的な建物の名前。  名前を見た瞬間、沢山の思い出がよぎった。私が住んでいた町の、少し大きな駅のすぐ側の、変わった形の建物。少しおすましして出かける場所。  昨夏、報じられていたのは、その思い出深い建物の取り壊しが決定した、というニュースだった。  ---★---  生まれたその町で暮らしていたのは、小学校五年生までだった。昭和四十年代から五十年代にかけての事だ。四十年から五十年くらい前

呑んだり呑まなかったりする人の話

「え? 清水さん、お酒呑むんですか?」  日本酒を頼んだら、同僚に驚かれた。無理もない。…

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流星群へ宛てた手紙

 元気ですか?  今、どんな景色を見ていますか?  そこからは、私が見えるかな。どんな風…

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ゴブガリータで乾杯しましょう

 友人が結婚した。嬉しくてたまらない。  久しぶりに、友人達と食事をする機会を持つ事にな…

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ちょっとしたお知らせ

 寒くなりましたね。お元気でいらっしゃいますか?  私は元気です。  毎朝、どのくらい厚…

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夢をあきらめない

 高校三年生の時のクラスは、ひとことで言うと熱かった。  私は人から「熱い人ですね」と、…

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彼女はそれでも海を嫌いになれないと言った

 海沿いのその家は、ふたりの生き方が全部詰まっていた。  笛を吹き、絵を描き、物語を作り…

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遠い電車の子守唄

 子供の頃、「21世紀」という言葉には、浪漫があった。  実際に21世紀を迎えてから、二十年近く時間が経ったけれど、それでも今はまだ、車は空を飛ばないし、透明チューブの超高速道路も無いし、誰も銀色の服なんて着ていない。  でも、空想していた未来と同じくらい、浪漫のある現実を生きている。  二十代後半以降に知り合って、深い友人になった人達は、ほぼ全員、インターネットが無かったら、そもそも知り合う事も無かった人達だ。  もしも、小学校六年生くらいの私が、この事を知ったら、