smook

詩を書くひと ポール・オースターとカポーティーをこよなく愛する

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最近の記事

愚か者

かみさまは ひとをつかって わたしに罵声をあびさせた わたしに投げかけられた ことば 愚か者 その言葉はかみのことば 発したのは悪魔 ひとの形をした ひとの形をしたわたしが その言葉に言い返すとき わたしは 本当の愚か者になる

    • 楽園

      何を食ってんのかわからないおばあさんだね あの人 多恵子はひそひそ呟かれる近隣の主婦の話を聞き流していた ほんとどうやって生活成り立たせているのか不思議よね キッチンでたくあんを切る多恵子 ざっく、ざっく 多恵子は自分がおばあさんと呼ばれることにピンとこなかった ざっく、ざっく たえちゃーん!ともくんが呼びに来たわよー なぁに?まま たえちゃんは 母に促され玄関を開ける あっそぼ!たえちゃん ともくんがそこにいた 汚れた帽子をまぶかにかぶり 八重歯をだして

      • 竹ぼうき

        ひとはよ ちょいとしたことでも 傷ができる たとえあなたがよかれと思っていったことでも ちょうど庭に積もった枯葉を竹ぼうきで集めた 時のように よかれと思ってしたからいいんだけど ばあちゃんの家の庭は 竹ぼうきのスジが残るんだ はき清めても傷 はき清めても傷 つけねえわけにはいかねえんだ

        • 魔法があるのなら

          魔法があるのなら 君の前から姿を消してみせる いない、いない~っ ばぁ~(笑) 君の目には僕はもううつらない 魔法のせいだ 僕は一生懸命 ばぁ~っ とするが、君には僕が見えない ばぁっ ばぁーっ 振り向いてよぉ ばぁっ 君はすたすたと部屋を出てしまう 僕はあきらめて部屋を出て雑踏に消える さようなら 長い長い時間 長い長いまばたき 君はある晩、夢をみる 忘れてしまった 消えてしまった僕を思い出す 君はコップの水を吹き出す いたなぁ~あんなひと 僕は

        愚か者

          野薔薇

          思考せし野薔薇のような 自我 その思考を続けることは まるで野薔薇を掴んでそのまま歩くように 皮膚を切り裂き 血を滴らせる それが棘のような自我をそのまま思考しているがゆえ 点々とある 滴 掴んでいる思考 俺の思いどおりにならなければ意味がないじゃねえか という棘の羅列 通り通り 思い通り 強く握りしめていればいるほど叶わないとは露知らず 離せば野薔薇を失ってしまうという恐怖 喩えそれが薔薇とは言えない程の代物だったとしても いつかの同級生の女子のうなじ い

          野薔薇

          舌打ち

          自分の歩みが ひとより早いと気づかず 駆け出すスーパーの 出口で 前を歩く老女の歩みの遅さ にいらつきし 混雑時 ただ杖をつき遅く歩く老女に叱咤せず追い抜いて ちいさく舌うち せし我が身 そして駐輪場の方に向かいし 老女より遅れてやってくる 慚愧の念 再び舌打ちして 我が軽薄な仕打ちを謝罪するか否か 迷いし そのスーパーに戻る自分の足は その舌打ちした 老女の歩みよりもさらに遅い

          舌打ち

          南天の実

          教会で説教をききし 少年の手はかたく握られている うつむきながらチラチラと周囲を伺って 陽のかげる教会で彼は飢えに堪えていた 寄付を募る黒い布がまわされ、つぎつぎと小銭や紙幣が入れられる みなさま食事を用意いたしましたと 牧師の一声で椅子から立ち上がる人々 おずおずとその黒い布袋に 手を入れ 頭をさげし少年は 今日の糧を得るためにここに来ていた 食事をみなととる少年は慚愧の念に囚われていた 寄付する金もなく 円卓を囲むその身の飢えを満たすためにした 罪 牧師は

          南天の実

          胡瓜

          じいちゃんが 緑でおおわれた 小さな用水路にまたがり 野良仕事で汚れた手を洗っている じゃぶじゃぶ じゃぶじゃぶ 「おい、食ってみるか?」じいちゃんが胡瓜を差し出す 「きたねえからいい」 「汚ねえか…」 じいちゃんは泣くように笑って ズボンで手を拭いてまぶしそうに天を見上げた じいちゃんごめん

          おや

          野鳥の雛が口をあけ おやの野鳥がやるエサは 虫くれ それでいいと育てし おやは それしか口に入らなかった それしか手に入らなかった じぶんと同じように 雛にエサをやる そのみみずは 雛のいのちを繋ぐ点滴 の管 野鳥のおやが雛をいだき駆け込みし 野戦病院で渡された いのちの管 ひっしに呑み込む 雛 みみずの生きているが 雛の生きているにつながっていた 大きくひろげた口に いきている をおしこむ おや

          LOVE

          愛を置き換える 恋人への愛を 家族への愛を 隣人への愛を 置き換えて地球をまもる その置き換えてつながる輪のなかに暮らしている LOVE 輪のなかにいるから 守られている 誰かの愛で 愛でつながれば ひとはひとつの生命 ひとつの生命は かみの一部 つながるかみの螺旋 LOVE LOVE LOVE 終わりのことば そして はじまりのことば LOVE

          ウグイ

          テトラポッドのある 清流 木々の陰、光る水面 蒼い川面の底に 泳ぐウグイ テトラポッドに膝を付き 水中メガネでその切り取られた水槽をのぞく 水族館 らぷらぷ、とおよぐ水音 らぷらぷ、とゆれる水面 ああっ!ウグイの紅い頬が 素早く反転して物陰に らぷらぷ らぷらぷ 耳朶に入る水も構わず 海女のようにテトラポッドの隙間に顔を突っ込み 見ていた すべてのこと あの立方体の陰に入り込んだウグイは 度の入った水中メガネ越しにはとても大きく大きく 見えた でっけぇ!魚

          ウグイ

          たばこ

          たばこを吸うことはわるいこと? 他のひとにめいわくがかかるから? でもぼくは たばこを吸うときは河原で吸うよ たばこを吸いながら 夕日に輝く川面を眺めるんだ そうするとね たばこのけむりが朝もやみたいに河原に消える ぼくはね そのたばこのけむりみたいに ゆっくりと消えていきたいんだ ほかのひとにはめいわくでもね

          たばこ

          財布

          あるものを あるだけひとに与えていた ばあちゃん あるものを あるだけわたしに与えていた ばあちゃん ひとに施すな、癖になると 言いし誰かに 逆らうかのように なにもかも与えていったひとの 貧しいこぎたねえ財布を だれがわざわざ奪うかよ だまってても与えてくれるのに あるものをあるだけ 悪人のわたしに与えて 死んだばあちゃん だれがわざわざ感謝するかよ きたねえ財布遺して死にやがって だれがわざわざ奪うかよ 札の代わりに入っていた おれの幼い頃の写真なんかよ

          こころを鬼にして

          こころを鬼にしたとき 鬼にかわったあたしのこころで ひとはすくえるか? 鬼がひとをすくうのか? 鬼があやまちを正すのか? 誰かをさばいた悪は また誰かにさばかれる あたしは正しかった でも鬼にはなるべきじゃなかった こころを仏にして諭すべきだった 誰しも鬼にはなれる 誰しも仏にもなれる ただあなたはあのとき 鬼になった あたしはあなたを責めない だれもあなたを責めない

          こころを鬼にして

          野球グランド

          河川敷の野球グランド ひとのけはいはない あたたかい光が溢れる ただ外野の向こうに 風に吹かれてひっそりと揺れている 菜の花の群生 観客のいない グランドに広がる声援 ためらいがちな がんばって が揺れている

          野球グランド

          夏帽子

          夏帽子を被り 猛々しい草むらの陰に身を隠す 肩を張って威圧するかのような茂み その隙間から見える 向こうにあるはずの 向こうにあるはずの 小さな村を探すが 見つかったのは 音 音だけ スイッチョん スイッチョんという うまおいの鳴き声 その透き通る鳴き声は 正確にわたしの耳に届き どの辺にうまおいがいるかもわかりそうだ だけど夏の乱反射の太陽 と、遠くからやって来るバスの音が聞こえたせいか うまおいは一斉に鳴き始める スイッチョん スイッチョん 夏帽子をとり

          夏帽子