夏帽子
夏帽子を被り
猛々しい草むらの陰に身を隠す
肩を張って威圧するかのような茂み
その隙間から見える
向こうにあるはずの
向こうにあるはずの
小さな村を探すが
見つかったのは
音
音だけ
スイッチョん
スイッチョんという
うまおいの鳴き声
その透き通る鳴き声は
正確にわたしの耳に届き
どの辺にうまおいがいるかもわかりそうだ
だけど夏の乱反射の太陽
と、遠くからやって来るバスの音が聞こえたせいか
うまおいは一斉に鳴き始める
スイッチョん
スイッチョん
夏帽子をとり、その音をしっかりと閉じ込めると
バスに駆け込む
夏帽子を胸に押し抱き
しっかりと押し抱き
ハンカチで何度も汗を拭う
スイッチョん
スイッチョん
バスの中に紛れ込んだ音は
耳に微かに残っていた
とおい過去から響く音のように
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