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第1話 写真部の相棒が実は女の子だった話: 柾輝(マサキ)


「さて、それでは新生写真部の第一回活動を始める!」
「って言っても、2人きりじゃな……」

 うちの写真部は、はっきり言って弱小だ。
 これまでも人数は少なかったが、取り仕切っていた3年生が夏で引退、加えて2年にはいわゆる「ユーレイ部員」のみ。なので、今後は1年部員の自分と柾輝、2人体制で運営していくことになる。
 ぶっちゃけ、このままでは部の存続も危うい状況。そんな中、「その時はその時」というスタンスの俺に対し、一方の柾輝は「写真部の再興」を目標に息巻いていた。

「おいおい〇〇、キミはもうちょい危機感を持ったらどうなんだ? 我らが写真部の危機なんだぞ?」
「そんなこと言われても、文化祭は終わったし、新歓までまだ時間あるし。今から慌てても、しょうがないと思うんよ。それに……」
「それに?」
「俺としては、マサキと2人で活動するのも充分楽しいんだよなぁ」
「き、キミはまたそういうことを言う!」
 柾輝は、顔を真っ赤にして怒り出す。何も、そんなに怒らなくても。
「いや、待てよ。キミはもしかして……」
 ところが、彼の怒りはすっと引いて、突然何かを考え始めた。
「な、何だよ?」
「決めた。ボクらの最初の活動。休日を丸一日使って、一緒に写真を取りに行こう」
「おお、いいじゃん。賛成」

 今まで、休日は部活も休みだった。
 平日、各自持ち寄った写真で写真集を作るのが主な活動で、一緒に写真を撮りに行くのは放課後の限られた時間のみ。
 まずそこを変えていくのは、お互いに納得のいく絶妙なポイントだと思った。
「決まりだな。それじゃあ、早速今週の日曜でどうだい?」
「ん、ちょうど予定ないしいいよ。空けとく」
「よし、その日は〇〇のことを驚かせてやるからな。ふふふ……楽しみにしとけよ、相棒」
 何かを企むような笑みを見せる柾輝。
 この時はピンと来なかったが、当日はその言葉通り驚くことになる。

   ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 やってきた、約束の日曜日。
 なんだかんだで今日のイベントを楽しみにしていた俺は、少し早めに待ち合わせ場所へと到着していた。
 柾輝も、予定時間より早めに着くと連絡があったが、今のところ彼の姿は見当たらない。
 不思議に思って、待ち合わせ場所周辺を歩き回る。しかし、それらしき人はいない。
 待ち合わせっぽい人でいるのは、スーツを着たサラリーマン風の男性と、小中学生くらいの4人組。それから自分と同い年くらいで、柾輝に似た雰囲気の女の子。

 女の子?

「……まさか?」
 すると、彼女と目が合った。
 彼女が歩み寄る。確信に変わる。
「ようやく気づいたか、この鈍感め」
 俺はしばらく何も言えずに、口をあんぐりさせた。

「で、でも一人称が……」
「昔から『ボク』って言ってるから、素だとついそっちが出るんだ」
「制服スラックスだったし……」
「うちは女子もスラックス選べるぞ」
「体育は……?」
「選択科目だからそもそも選んでない」
「マジか〜〜〜〜」

 俺は頭を抱えた。今思えば、気づけそうなシチュエーションは沢山あったはずなのに。
 これは、鈍感と言われても仕方ない。
「はははっ、いいリアクションだ! やはりこの企画、やってみて正解だったな」
「もしかして、こういう展開になる事を見越して……?」
 にやり、と笑うと柾輝は思い切り肩を組んできた。
「マサキ、お前いきなり近い……!」
「何だ何だ? 部活では〇〇から肩を組んでくることだってあったじゃないか」
 にやにやと笑いながら絡んでくる柾輝。部活でするように、いつも通り。
 そう、いつも通りだからこそタチが悪い。
 だって、これじゃあこれから始まるイベントの意味合いだって変わってくるじゃないか。
「今日は丸1日、よろしく頼むぞ。相棒」

 至近距離。とびっきりの美少女スマイルで、『相棒』は笑った。

<了>


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