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第4話 サッカーが上手い親友が実は女の子な話:蒼(アオ)

 小さい頃から地元の強豪サッカークラブに所属している蒼は、めちゃくちゃサッカーが上手い。
 決して背は高いわけじゃなくて、むしろ選手の中では小柄なほう。だけど、足元の技術とシュート精度がピカイチなストライカーだった。
 今日の午前中は、そんな蒼の自主練に付き合っている。

「いぇーい! ゴール!」
「やっぱりお前うますぎるんだって!」
 キーパー役の素人な俺に、手加減なしでゴールを決めまくる蒼。自主練なのにユニフォーム姿で、気合い充分だ。
「さっきのシュート、めっちゃ曲がってなかった?」
「曲がってた。中村俊輔のフリーキックみたいだった」
「褒めすぎじゃね?」
 蒼は嬉しそうに、にかっと笑う。

「とりあえず、休憩にするかー」
 練習に一区切りをつけて、ゴール脇で休憩タイム。しかし、休憩中も水分補給以外で、蒼はボールを手放さなかった。そのうち、地面に座りながらリフティングを始める。
 器用なもんだ、と水分補給しながら感心して見ていると、力加減を誤ったボールが俺に飛んできた。反射的にキャッチ。
「あ、ごめん」
「大丈夫。しかし、蒼はやっぱりサッカー上手いよ」
 ボールを投げ返すとそれを裏付けるように、足で器用に受け止めてリフティングを再開した。
「まだまだ、上には上がいるからなー。まずはバッチリレギュラーを確保して、チーム内得点王にならなきゃ……ねっ!」
 蒼の周りで跳ね回っていたボールを浮かせ、つま先で強めに蹴った。
 そのボールは高く浮き上がって、見事に斜め前にあったゴールへと吸い込まれた。

「また明日には試合もあるし、点取らないと! てか明日、応援来てくれるっしょ?」
「会場って運動公園のコートでしょ、行く行く」
 断る理由はない。歩いて行けるし、言われなくても行くつもりだった。
「サンキュー! さて、また練習するから、〇〇はゴール前に行った行った!」
「うぇー、もう休憩終わりかよーしかもまたキーパーかよー」
「だって、〇〇は背が高いからキーパー役に丁度いいんだよ。あ、だったらフリーキックの壁役とどっちがいい?」
「うん……キーパーで」

 それから、蒼との自主練はみっちり昼まで続いた。
 こんな時間を過ごしていると、すっかり忘れてしまう。

 蒼は、女の子だということを。

   ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 自主練を終えた日の午後。
 俺は、親から夕飯の買い出しを頼まれた。
 家からスーパーまで、だいたい徒歩10分弱の距離。その途中に、運動公園と隣接する親水広場がある。

 残暑厳しい9月、気温の高い今の時間帯は水遊びに夢中な小さい子供達で賑わっていた。
 数年前は自分もあの水辺で遊んでいたけど、さすがにもうそんな歳ではなくなってしまった。
 歩きながら横目でそんな光景を眺めていると。
「ほら、そっちにボール投げるから、ちゃんとキャッチしなよー!」
 突然、聞き慣れた声が聞こえた。

 周りの子供に混ざって、頭1つ分高い身長。
 華奢でもしっかりと芯のある、アスリート的なスレンダー体型。
 ショートヘアの似合う、中性的できりっとした顔立ち。
 競泳水着を身に纏ったその姿は、間違いなく蒼だった。
 慌てて、俺は身を隠す。

「いや、何で隠れたんだ、俺……?」
 しかし、今の蒼に声をかけるのは気が引けて、一方で今の蒼が何をしてるのかも気になって。
 結局物陰からこそこそと、水着姿な蒼の様子を伺う俺。はたから見たら、どう考えてもただの変態である。
 だけど、俺は彼女から目を離せない。

 蒼は水辺に座ると、ボールを持ってきた男の子と何やら話をしている。そういえば、弟がいるんだっけ。
 言葉を交わしながら、弟の頭を撫でた。それから、再びボール遊びに付き合っている。その様子は絵に描いたような、面倒見のよいお姉ちゃん。

 今まで、見たことのなかった蒼。
 加えて、水着姿で意識させられる「女の子」の蒼。
 ただの友達として接していた、数時間前とのギャップに混乱する。何故か、サッカーの練習後みたいにドキドキする。だけど、やっぱり蒼から目を離せない。

「何だ、これ?」

 自分の感情に戸惑っていると、蒼がこっちを向いた。
 目が合った。ような気がする。
 反射的に身を隠した俺は、そのまま逃げるようにして立ち去った。
 まるで、見ちゃいけないものを見たような気分。
 明日の大会、ちゃんと友達として、応援できるだろうか。
 俺のドキドキはまだ収まらず、混乱が渦巻いていた。

<了>

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