大学の道 #3 民に親しむに在り(2)

為政者・指導者が”民を新たにする”という意味でも、政治のリーダーは国民を導き、新しい発想や方法で国を新たに改革していくことは重要です。しかし現代の日本政治で改革が成功した例よりも、むしろ失敗に終わった例の方が多いのではないでしょうか。
 例えば1993年と2009年の政権交代による非自民党政権による政治改革は、いずれも失敗に終わっています。古い自民党政治からの決別を謳っても結局は国民の失望を買い、再び自民党に与党の座を奪われています。他にも大阪都構想を目標とした大阪維新の会による地方政治改革も、決して成功したとは言えない部分があります。
 私たちの政策は正しい、といくら主張しても国民がそれを信頼するかは別問題です。いくら改革の重要性を国民の主張しても、過去の事例を見るまでもなく、それに対して支持を得るのは極めて困難な問題です。

 繰り返し言いますが、人(国民)を変える、新たにするのは本当に難しい問題です。
 私の仕事でもあるコーチングもそうで、相手を何かしらの方向に導くために、クライアントを良い方向に変えようと、つまり新たにしようとすればするほど上手くいきません。どんなコーチングスキルや心理テクニックを使っていても、変えようとする意識がある限りそれを見透かした相手に対し効果的に上手くいくことはありません。
 しかし相手を変えようとはせず、ひたすらクライアントの話に耳を傾け、心から相手の本音に寄り添うことが、かえって相手の考え方や発想、気持ちの持ち方を変える事が出来たりします。だからこそ誠意を持って人と親しみ相手からの信頼を得る関係を築くことが、民を新たにするための近道なのではないでしょうか。
 1980年代に中曽根内閣によって三公社民営化が行われました。この改革の立役者は首相の中曽根ではなく、民間人である元経団連会長の土光敏夫ではないでしょうか。土光はこの改革が日本の財政再建と政治改革において極めて重要な問題と位置づけ国民運動を行います。土光は石川播磨重工業や東芝の会長も務めた大物経済人でありながら、生活が質素なことから”メザシの土光さん”と国民から愛され絶大な支持を得ました。そして政治と距離を置いていたHONDA創業者の本田宗一郎、SONYの井深大といった大物経済人も、土光の為ならと無条件でこの政治改革の推進に一役買うことになります。この改革の成功の秘訣は、多くの経済人や政治家、メディアからも一目置かれる土光の実績と改革への熱意、そして誰からも愛される土光の人間性ではないでしょうか。この例の様に政治改革においても”親”が重要となってくるのです。
 孔子と並び称される哲人・孟子も”天の時は地の利如かず、地の利は人の和に如かず”と説き、古代日本の飛鳥時代、聖徳太子は17条憲法において”和をもって貴しとなす”と説きました。そして伝説的な剣豪・宮本武蔵も自身の剣の技術を追い求め、人生をかけてそれを磨き上げた先に見つけたものは人との和・調和にありました。
 親しみむ・親しまれることがいかに大切か、これが新民説より親民であるべき理由になります。つまり”民に親しむ”とはお互いの信頼関係を築くことであり、結果的にそれがお互いの成長を促し、共に未来を切り拓く為に新たに変化し成長していく事に繋がるのではないでしょうか。
 
  

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