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君が笑えば、世界は君と共に笑う。

第二章 発端

あと一週間でクリスマスだ。

目当ての本を探し街に出ていると、路上はクリスマス装飾で彩られていた。

しかしクリスマスには何の予定もない。強いていうならば、生きがいである本を読むことだ。

本は小さい頃から好きで、小学生の時はよく図書館に行って図鑑や小説を借りに行った。

周りとの関係を全く持てなかった僕にとって、本を読むことは唯一の楽しみであり、励ましでもあった。

本を読んでいると様々なことがわかる。ジャンルは多種多様、音楽・スポーツ・雑誌・漫画・小説などなど、数多くの著者が書いた本がある。

本を読んでいるうちに、著者の性格や特徴、考え方や人生観までもわかってくることがある。

この発見というものはとても新鮮な感じがして楽しい。そして何より自分までもが本の内容に共感できる。

学校では特に意見も言えず、感情を大きく出すこともない。

しかし本を読んでいるときは、主人公やヒロインの気持ちになってみたり、敵の立場で物事を考えたりなど、感情や心情をあらわにすることができた。

このおかげで僕は物事を客観的に見る力がついたと思う。

今日買おうとしている本は、アメリカのとある哲学者の本で、人生において幸せとは、生きる意味とは何なのかを問いている本だ。

哲学本や自己啓発本は中学生になってハマり、いろんな人物の考え方を知ることができた。

本屋に入り早速目当ての本を探す。

奥の棚に向かい、本を見つける。本を手に取ろうとした。

しかし先を越されたのだ。知らない大学生くらいの女性に本は取られてしまった。

あいにく、本を取るときに手が触れて運命を感じる。みたいな恋愛小説の展開にはならかった。

本をとった女性をまじまじと見ていると、女性が話しかけてきた。

「あ、もしかしてこの本欲しかった?」

いきなり話しかけられたことで動揺してしまった。何せ僕は学校でもあまり話さないので、話すことには慣れていなかった。

「は、はい…なんかすいません…」

オドオドと返事をすると、女性はその本を僕に渡しながらこう言った。

「こういう本わたし好きなんだ〜、いろんな人の考えがわかってなんか楽しいの。あ、ごめんね、これわたし今度買うから君にあげるよ。感想教えてね」

「あ、あの」

小さく呟いたが女性に聞こえることもなく、女性は立ち去っていった。

その場に立ちすくす僕を囲む数多くの本棚。

何かこう、運命とまでは言わないが、縁を感じたのはもしかしたらこの瞬間からだったのかもしれない。

気づけば自分の部屋のベッドに横たわっていた。

机の上にはあの女性が譲ってくれた本が置いてある。しかし何か申し訳ない気持ちがして読めないままでいる。

「名前くらい聞いとけばよかったかな…」

そう呟くとなぜか急な眠気に襲われ抵抗することもなく瞳を閉じた。



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