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日曜日の本棚#4『機龍警察』月村了衛(ハヤカワ文庫JA)【エンタメとしての警察組織を味わう】

毎週日曜日に読書感想をアップしています。前回はこちら

今回は、月村了衛『機龍警察』です。本作、長期シリーズの第1作とのこと。ネットでたまたま知った作品です。
本シリーズについては、こちらで詳しく紹介されています。

あらすじ

テロや民族紛争の激化に伴い発達した近接戦闘兵器・機甲兵装。新型機〈龍機兵〉を導入した警視庁はその搭乗員として三人の傭兵と契約した。警察組織内で孤立しつつも彼らは機甲兵装による立て籠もり現場へ出動する。だが事件の背後には想像を絶する巨大な闇が広がっていた……
(早川書房の紹介文より)

ありそうでなかったSFと警察小説の融合

元々警察小説があまり好みでないだけに期待値は低かったのですが、それが功を奏したのか、結構楽しめる作品でした。SFと警察小説の融合はありそうでなかったこともあり、設定の楽しさがありました。

警察小説である必然性

近接戦闘兵器・機甲兵装が登場しますが、この戦闘兵器はそこまでの意味を持ちません。サイズは、『機動戦士ガンダム』のモビルスーツのような大きさではなく、ロバート・A・ハインラインの『宇宙の戦士』の機動歩兵に近いですね。作者も述べていますが、本作のSF的実験的な要素は、警察組織に戦闘兵器のオペレーターという特殊な専門職とはいえ、外国人を入れていることでしょう。これによって、警察組織内に化学変化が生じる。作者が本作を警察小説としてこだわったゆえんはここにあるのでしょう。

細かなディテールは背景としてよい?

本作では、兵器などの詳しい描写がありますが、興味がなければ背景程度の理解で十分ではと思います。私はそのあたりはほぼほぼスルーでしたが、小説の理解に支障はありませんでした。この手のネタが好きな人はこだわって読めばいいということでしょう。これは作者の寛容さと現実的な読者への理解が垣間見えます。そのあたりも「大人」の小説らしくもあります。
 

多すぎる登場人物はさすがに疑問

海外ミステリーも読むことが多く、登場人物の多さは鍛えられてきましたが、さすがに本作は登場人物が多いですね。はっきり言っても多すぎるのではと思います。それだけ世界観の大きさを証明しているとも言え、シリーズを読み込めばさらに面白さが倍加するのかもしれませんが、本作は誰もが初心者であるシリーズ第1作です。さすがに絞り込んでほしかったなと思いました。
 

単純な構成は賛否がありそう

第1章籠城犯 第2章来訪者 第3章突入班という章立てですが、第1章がアクション、第2章が警察組織のセクション間の対立劇、第3章が再びアクションに戻り、結末という割とシンプルな構成になっています。
だからこそ、本作の評価が割れるかなと感じました。私は、単純さゆえに物足りなさを感じた方ですが、アクション的要素、警察組織の内幕を描いた要素もあり、盛りだくさんですので、幕の内弁当のような満足感があった人もいたかもしれません。
 

主張のないエンタメの難しさ

本作は主張というものがない作品かなと感じました。池井戸潤作品との違いを感じたのはこのあたりでしょうか。主張がなければ、焦点が定まらないというデメリットがありますが、本作にもそれがみられるように思います。物語をけん引する力こそが主張ですが、それがないがゆえに薄味の印象を与えたように感じました。本作の主人公を特定しにくいのも主張がないからかもしれません。

エンタメとしての塩梅

本作は、講談社から漫画化されていますが、お試しで読んだ範囲では、小説との落差が感じられないように思います。漫画は小説をビジュアライズした感じがしました。だからこそ、エンタメとしての価値があったと思うと同時に、私が感じた薄味の印象も納得感がありました。エンタメとしての塩梅は、読み手に依存し、相対的なものになります。本作にはまった読者が多かったからこそ、壮大なシリーズものになったのだろうと思います。私はいい読者ではありませんでしたが、この手のジャンルが好きな人は手に取るのはありの作品だと思います。


 

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