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日曜日の本棚#20『父が娘に語る経済の話』ヤニス・バルファキス(ダイヤモンド社)【カッコイイとは、こういうことさ】

毎週日曜日は、読書感想をUPしています。

前回はこちら。

今回は、アテネ大学経済学部教授のヤニス・バルファキスの『父が娘に語る経済の話』です。Twitterでフォローさせていただいている方がおススメされていたので、昨年の今頃に購入し、NHK・Eテレ「100分de名著forティーンズ」でも取り上げられていたこともあり、「読まねば・・・」と思っていたのですが、ようやく積読を解消しました(^^;

作品紹介(ダイヤモンド社HPより)

父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。

十代の娘の「なぜ、世の中にはこんなに格差があるの?」というシンプルな質問をきっかけに、元ギリシャ財務大臣の父が経済の仕組みを語る。「宗教」や「文学」「SF映画」など多彩な切り口で、1万年以上の歴史を一気に見通し、「農業の発明」や「産業革命」から「仮想通貨」「AI革命」までその本質を鮮やかに説く。。

所感

◆現代人にフィットした経済学の本

本書は、現代人にフィットした経済学を学べる本である。なぜ現代人にフィットしているかというと、それは学びのスピードである。経済学の歴史をここまで爆速で理解できる本はそうそうないと思われるからである。

本書は、経済の誕生から解説が始まり、現代の最新経済学へ駆け抜ける。そして、最後は未来予測までやってのける。しかも、それを平易な言葉で、専門用語を極力排して、やってのけるのだ。

経済学者は得てして、知識や権威を背景に経済を語る。その結果、経済は専門家でないと理解できないものであり、専門家に任せるのが一番合理的であると私たちは考えるようになる。

この国は、「失われたx年」と言われて久しいが、その間、経済学者の言うがままに、経済政策を推し進めてきた。異論や反論は、専門性の壁を盾に封じられ、今に至る。

それが良かったのか?

良かった人もいるだろうが、社会全体をみればそうはなっていない。なぜそうなるのかは、エピローグにちゃんと書いてある。かの人物が未だに言っている「生産性が低いからでも、正社員を解雇できないから」ではない。

◆本質を専門用語で語らない凄さ

本書は、経済学の重要な要素を専門用語で語らない点が最大の特長だ。まず、資本主義を「市場社会」とし表現した。
信用創造は、「ペン1本で、またはキーボードを2、3度叩くだけでおカネを生み出せる魔法の力」と表現し、その魔法は、「黒魔術」とも言い換えている。銀行(家)は、ツアーガイドとして重要性を説いた。その点は、シュンペーターと立場を同じくする。
 
とはいうものの、何でもかんでも自分の言葉に置き換えたのではない。
 
資本主義はなぜここまで広がったのか。マルクスの説明でいう、G-W-G′による価値(マルクスの定義した使用価値と区分した考え)増殖の最初のGが銀行(家)の黒魔術のなせる業と説明する。資本主義の誕生は、マルクスが『資本論』でいの一番で語った「商品」であることは、きちんとその通りに書かれている。本質を見極めたマルクスの慧眼にも敬意が払われている。
 
人間性を終始失うことなく、語りは続き、時に『オイディプス王』『マトリックス』というたとえを引いて読者の理解に努めていく。わかったような気にさせるのではなく、ちゃんとわかるようになるのが本書の凄いところだと痛感する。

◆超絶クールなバルファキス

本書を読み終えると、バルファキスの知的なクールさを実感することだろう。実物のバルファキスは、その印象を上回る超絶なクールなナイスガイである。
個人的な「偏見」として、パープルを着こなせる人は、男女を問わず、最上級のファッションセンスがあると思っている。自分が知る男は、トム・フォードだけだったのだが・・・。

 本書は、経済のこと、おカネのことが書かれている本であるが、「おカネの増やし方」は一切書かれていない。しかし、その代わりに娘に、そして読者には、幸福となる方法のヒントを与えてくれる。おカネが欲しい人には何の価値もない本書であるが、幸福になりたい人には、いろんな示唆を与えてくれる。

そこが、バルファキスが最もクールなところだろう。

まさに、「カッコイイとは、こういうことさ」ということなのである。
 
 



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