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日曜日の本棚#14『蒲生邸事件』宮部みゆき(文春文庫)【清張マニアの筆者のリスペクト】

毎週日曜日は、読書感想をUPしています。
前回はこちら。

今回は、宮部みゆきさんのSF小説『蒲生邸事件』です。

あらすじ

一九九四年、予備校受験のために上京した受験生の尾崎孝史だったが、二月二十六日未明、宿泊している古いホテルで火災に見舞われた。間一髪、同宿の男に救われたものの、避難した先はなんと昭和十一年の東京。男は時間軸を自由に移動できる能力を持った時間旅行者だったのだ。雪降りしきる帝都では、いままさに二・二六事件が起きようとしていた――。
大胆な着想で挑んだ著者会心の日本SF大賞受賞長篇!
(文春文庫作品紹介より)

SFを通して歴史的出来事に迫る

SFのジャンルの一つ、ヒストリカル・イフの作品です。ただ、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような個人史ではなく、二・二六事件という歴史的な出来事に迫る作品です。そのため、主人公・孝史に歴史を変えるようなヒロイズム的な役割は与えず、時代の目撃者としています。その点は宮部みゆきさんらしい価値観だと感じました、
また、SF的な要素は時代を遡る位しかなく、「広義のSF」といえるのかなと思います。
市井の人々に歴史を改変する力はなく、傍観し、受け入れるしかないという立場から歴史を見つめることがリアリティとして光を放つ作品といえます。

松本清張へのリスペクトから生まれた作品

宮部みゆきさんは、松本清張マニアとしても知られています。本作は、そのリスペクトから生まれた作品ともいえるのではと思っています。孝史を昭和11年に移動させた後は、松本清張『昭和史発掘』を底本とした思われる視点で、この時代を描いています。歴史の表舞台には出てこない市井の人々を描いています。これは松本清張が大切にした価値観で、筆者の清張先生へのリスペクトを感じます。当時の東京(赤坂近辺)の描写がリアルです。本作は歴史小説とSFを上手く融合させた作品と言えます。

王道のエンタメ小説

二・二六事を扱っていますが、だからと言って読みにくいということはありません。エンタメ要素として蒲生邸で働く「ふき」という女性と孝史の淡い恋が描かれる一方、蒲生大将にまつわる謎も提供されます。エンタメ作品としての王道の内容でもあります。
最後まで謎をのこし、読者を飽きさせない点も含め、完成度の高いエンタメ小説です。宮部作品に外れなしという私の理解は本作でも上書きされています。
 


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