見出し画像

いつもと違う疲れ方をした小説(ディーヴァーの「オクトーバーリスト」)

 October List



 ちょっと疲れました…

 いや、面白かったんですけどね...

 面白かったし、疲れる読書は嫌いじゃないんですが、なんかいつもとは違った疲れ方をする読書をしたので、そのことについて "note"していこうと思います。


+  +  +  +  +  +


 いつもと違う疲れ方をしたのは、ジェフリー・ディーヴァーの『オクトーバー・リスト』という本です。

本書は最終章ではじまり、第1章へとさかのぼる。

娘を誘拐され、秘密のリストの引き渡しを要求された女ガブリエラ。隠れ家にひそみ、誘拐犯との交渉に向かった友人の帰りを待っていた。しかし玄関にあらわれたのは誘拐犯だった。その手には銃。それを掲げ、誘拐犯は皮肉に笑った……。


 この小説は時間逆行ミステリーと銘打たれていて、紹介文にあるように、最終章ではじまって、第1章へ遡っていく構成になっています。
 なので、通常は巻頭にあるべき目次が最後に配置されてたりして、自分なんか、この章構成の仕掛けだけでワクワクしてしまうんですよね。


 映画の時間逆行もので言うと、クリストファー・ノーラン監督の「テネット」と「メメント」(2013年)が有名ですが、「テネット」は、映像を逆回転させるほんとの逆行もので、「メメント」は最終エピソードから、最初のエピソードに遡っていくタイプの逆行ものでした。
 言うなれば、この『オクトーバー・リスト』は、"メメント型"の時間逆行小説と考えてもらえればいいかなと思います。

 ただ、「メメント」を観た人なら解るとおもうんですが、このタイプは、物語中の出来事自体はそんなに複雑じゃないのに、観る方としては、すごく難解に感じるんですよね。
 この『オクトーバー・リスト』も、物語中で起きる事件は、それほど複雑ではないんですが、序盤はすごく読みづらいんです。
 

 これって、多分、人の頭の中での思考には、順行の流れみたいなものがあるからだと思うんですよね。

 時間が逆行する小説って、数は少ないけどないことはないんです。
 例えば、P・K・ディックのSF小説『逆回りの世界』なんかでも、時間が遡っていく世界が描かれています。

 ただ、『逆回りの世界』の場合、その逆行の様子が小説内の時系列では順行に描かれているので、決して読みにくいわけではありません。


 読みにくいと感じるのは、その思考の流れに沿わない場合だと思うんですよね。
 流れるプールで逆向きに泳ごうとすると、ひどく体力を使うと思うのですが、それと同じ理屈なのです。



 数学の問題で言うと、通常は、①リード文「次の問題を読んで○○を求めなさい。」があって、次に、②問題文「ここに○○があります。~を求めなさい。」を読んで、その中の情報から、③立式して、④解答を導き出すという流れで問題を解きます。

① リード文
② 問題文
③ 立式
④ 解答

 通常のミステリーでは、②問題文でいろんな情報を提示して、様々な推理(③立式)を行いながら、意外な④解答に至るというのが通常の流れです。

 ところが、この『オクトーバー・リスト』では、④解答→③立式→②問題文という順序で進めていくものだから、そもそもの問題文が分からないまま、答や途中の式を見せられても、解答や式の意味がうまく読み取れないのです。


 『オクトーバー・リスト』の序盤は、頭の中が整理できなくて、ちょっと読みづらいのです。
 まあ、中盤ぐらいまで読むと、その流れにも慣れてきて、面白く読めるようになってきます。
 ある章で起きた衝撃的な出来事が、章を遡ると、その出来事の背景が描かれてたりするので、読者としては「なんだ、そういうことか」と安心することができるようになるのです。

 最後(第3章~第1章)には、『ボーンコレクター』や『ウォッチメーカー』など、リンカーン・ライムシリーズのディーヴァーらしい仕掛けもあるので、面白く読み終えることができました。


 ただ、「いつもとは違う頭の筋肉を使った読書」なのは事実なのです。

 そういう、ちょっと違った読書体験をしたい人には、すごくお薦めなのです。

 読まれる方は序盤は読みにくくても、頭を慣れさせるため、できるだけ間を置かずに読んでいった方が良いと思います。


(追記)
 最終章からはじまる本書なんですが、じゃあ、第1章から読むとどうか? という疑問がありますよね。
 一応、そういう読み方もしてみたんですが、自分としては「まあ、普通かな… 」って印象だったことだけ申し添えます!