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データから見る、接戦の「本屋大賞」の年について(本屋大賞アレコレ①)

 HONYA AWARD


<本屋大賞>
 新刊書の書店で働く書店員の投票によって決定する文学賞。
 投票は2段階で行われ、1次投票で10作品をノミネートし、2次投票を行い総合ポイントで決定する。

 書店員さんの投票によって決めるという、ある意味、商業的なしがらみを持ちつつも、すっかり定着してきたのが「本屋大賞」です。
 著名な審査員の皆さんが選考する「直木賞」や「芥川賞」などの文学賞とは一味違って、読者と感覚の近い書店員さんの視点なので、面白い本たちが選ばれてるのは間違いないと思うのです。

 「2021年本屋大賞」の発表は4月14日に設定されていて、現在は、2次投票が行われている真っ最中なんで、ノミネート作品も絶賛販売中!です。

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 文学賞というと、よくも悪くも経済的な思惑が見え隠れして、踊らされるのはちょっと... と、いう人もいるのでしょうが、「いちばん!売りたい本」というキャッチコピーのとおり、「本屋大賞」って、とっても正直な賞だと思うんですよね。
 ミステリーやSFに傾倒しがちな私自身、この「本屋大賞」のおかげで出会うことのできた作家さんがたくさんいるのです。
 その感謝の意味もこめて、「2021年本屋大賞」の発表までの間、数回に分けて、この「本屋大賞」について ”note” していきたいと思います。


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 「本屋大賞」は2004年の第1回から、現在まで第17回を数えます。

(過去の大賞作品)
第1回 2004 小川洋子「博士の愛した数式」
第2回 2005 恩田陸 「夜のピクニック」
第3回 2006 リリー・フランキー 「東京タワー ?オカンとボクと、時々、オトン?」
第4回 2007 佐藤多佳子 「一瞬の風になれ」
第5回 2008 伊坂幸太郎 「ゴールデンスランバー」
第6回 2009 湊かなえ 「告白」
第7回 2010 冲方丁 「天地明察」
第8回 2011 東川篤哉 「謎解きはディナーのあとで」
第9回 2012 三浦しをん 「舟を編む」
第10回 2013 百田尚樹 「海賊とよばれた男」
第11回 2014 和田竜 「村上海賊の娘」
第12回 2015 上橋菜穂子 「鹿の王」
第13回 2016 宮下奈都 「羊と鋼の森」
第14回 2017 恩田陸 「蜜蜂と遠雷」
第15回 2018 辻村深月 「かがみの孤城」
第16回 2019 瀬尾まいこ 「そして、バトンは渡された」
第17回 2020 凪良ゆう 「流浪の月」

 

 毎回、2次投票に向けて10作品がノミネートされるわけなのですが、各年の獲得ポイントの様子を見てみると、けっこう違いがあって、興味深いんですよね。今回は、そんな獲得ポイントについての話です。

 

    なんか、これまでの大賞の中で、もっとも高得点だった本とか気になりませんか?

    毎年、投票者数に変動があるので、年比較は難しいのですが、これまでの大賞作品を調べてみると、だいたい370~420ポイントぐらいが平均的な感じです。

    そんな中、歴代でもっとも高得点だったのは

第15回(2018年本屋大賞)!

 大賞は、辻村深月さんの『かがみの孤城』でした。

 学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。
 輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――

 特殊設定のファンタジー風味の物語なんですが、辻村深月さんらしいミステリーの仕掛けもあって、ほんとに面白い本でした。

 この時の獲得ポイントは ”651.0点” で、「本屋大賞」史上、もっとも高い得点となります。その時の2位作品が283.5点だったので、実に倍以上の差がついた結果だったんですよね。

 ちなみに、次に獲得ポイントが高かったのが、第9回(2012年)三浦しをんさんの『舟を編む』が510点、その次が、第5回(2007年)伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』が509.5点でした。

舟を編む』や『ゴールデンスランバー』と比べても抜けた数字ですよね。この『かがみの孤城』は、それだけ書店員さんたちに愛された作品なのです。


 ひとつの作品が独走する場合もあれば、すごく接戦だった年もあります。それが

第10回(2013年本屋大賞)

 大賞は、百田尚樹さんの『海賊とよばれた男』でした。

 この時の獲得ポイントは278.0点で、平均よりかなり低くて、ノミネート作品それぞれに得票が散らばった感じですね。

 2位は、横山秀夫さんの『64266.0点で、12ポイント差という、かなりの僅差だったのです。
 その他の作品も、原田マハさんの『楽園のカンヴァス238.5点中脇初枝さんの『きみはいい子212.5点などなど、なかなかの接戦なんですよね〜。そんな年もあるんです。なんか大賞作だけでなく、競った他の作品も気になっちゃいますよね。


 その他、デッドヒートだった年もあって、それが

第4回(2006年本屋大賞)

 大賞だったのは、佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ

 そして、2位が森見登美彦さんの『夜は短し歩けよ乙女』だった年ですね。


 『一瞬の風になれ』は475.5点、『夜は短し歩けよ乙女』が455点と、けっこう接戦だったのですが、この年は、この2作が抜けていて、まさにデッドヒートだったのです。

 そのデッドヒートを征したのが、陸上をテーマにした『一瞬の風になれ』だったのが面白いとこなのです。


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 ポイントで見てみると、その年ごとに特徴があって面白いのです。ただ、他のノミネート作品が面白く”ないわけではない”んです!
 やっぱり書店員さんが「売りたい本」なので、すでに売れてる本や、話題になっている本、「直木賞」とかの受賞作は、少し敬遠されるような傾向を感じます。

 たとえば「芥川賞」を受賞して、売れに売れていた又吉直樹さんの『火花』なんかには、ほとんど投票されてなかったりして、すでにメジャーなものよりも、隠れたいい本にスポットライトを当てたくなるのが書店員さんらしいとこなんでしょうね。

 ただ、そのおかげで、あまり知られてなかった作家さんと出会う機会となっているのです。


 また、文学賞の中でも「芥川賞」と「直木賞」作品は「本屋大賞」には選ばれにくい傾向があるのですが、一度だけ「直木賞」作品が選ばれたことがあります。

 それが、第14回大賞作品、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』なのです。

 これって、やっぱり、傾向をくつがえすぐらい、面白い作品だったってことですよね。
 うん、確かに!って感じです。



 いろいろ紹介してきましたが、「本屋大賞」についての "note" は、②に続きます!

(関係note)
本屋大賞アレコレ②影の本屋大賞
本屋大賞アレコレ③お仕事小説編
本屋大賞アレコレ④エンタメ本屋大賞
本屋大賞アレコレ⑤いろんな家族のカタチ

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