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ゆるゆると、あくまでゆるゆると...(梨木香歩の庭には物語が生えてくる。)

 The garden of "Nashiki Kaho"


 自分の中で、ほんとに不思議な読み味の作家さんの一人が ”梨木香歩” さんだったりします。
 この方の本はとらえどころがなく、あくまで坦々としてる様だけれど、惹きつけられるのです。
 いつもというわけではないんだけれど、ふと、読みたくなる。
 ____そんな作家さんなのです。

 梨木香歩(1959年-)
 日本の児童文学作家、絵本作家、小説家。
 『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞、小学館文学賞を受賞


 梨木さんというと、なんといっても『西の魔女が死んだ』が有名なのですが、今回、紹介したいのは

『家守綺譚』

本書は、百年前、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の記録である。

 おそらく、この紹介文を読んだだけでは、どんな本なのか想像できないと思うんですが、たしかに”記録”みたいな本なのです。

 もう少し物語の補足をすると、行方不明になったままの友人の父親から、家の守りも頼まれた小説家志望の男が、その家で暮らす中で、いろんな不思議なことに出会うのですが、そのささやかなエピソードが坦々と、ほんとに坦々と綴られた物語なのです。
 サルスベリの木に惚れられたり、飼い犬は河童と懇意になったり、散りぎわの桜が暇乞いに来たり.... 等々、決してすごい事件が起きるわけでなく、不思議な話が語られるだけで、あまり起承転結もないまま物語は終わるのです。

 多分、物足りない!って思う人も多数いるはずなんですが、不思議と面白いんですよね。
 まさに、これが梨木さんの世界なのでしょう。

 守りをしている家の庭のものをはじめ、たくさんの植物たちの生態?が出てくるのですが、なんか身の回りには生命がいっぱいなのだなと思ってしまいます。読み終わった後は、自分ちの庭に勝手に生えてきてる草花でさえも気になってしまったりするのです。


 さて、この『家守奇譚』には続編があって、それが

『冬虫夏草』

亡き友の家を守る物書き、綿貫征四郎。姿を消した忠犬ゴローを探すため、鈴鹿の山中へ旅に出た彼は、道道で印象深い邂逅を経験する。

 前作と同じく、小説家志望の綿貫が主人公なのですが、違っているのは、いなくなった忠犬ゴローを探すため、家を出て冒険するってところです。
 冒険と言っても、読み味は変わりません、こちらも坦々と進んでいくのです。

 とはいえ、この本を読み終わる頃には、綿貫やゴローたちの世界に、どっぷりと浸ってしまうに違いないのです。

 ただ、残念なことに、この後、続編はないんですよね。

 それでも、この『家守』ワールドに触れたいという方は、『村田エフェンディ滞土録』を読むことをお薦めします。

『村田エフェンディ滞土録』

時は1899年。トルコの首都スタンブールに留学中の村田君は、毎日下宿の仲間と議論したり、拾った鸚鵡に翻弄されたり、神様同士の喧嘩に巻き込まれたり…それは、かけがえのない時間だった。だがある日、村田君に突然の帰還命令が。そして緊迫する政情と続いて起きた第一次世界大戦に友たちの運命は引き裂かれてゆく…

 こちらは続編ではなく、外伝的な扱いの作品です。
 『家守奇譚』で名前だけ出てきた村田の物語で、舞台はなんとトルコの話です。
 異国の地の下宿での交流が描かれる本作ですが、奇譚でなくとも面白く、そして余韻のあるラストが心に残る作品なのです。


 どれも短めの本なので、1日で読んでしまうと思うのですが、できれば”ゆるゆる”と、のんびり読んでもらいたい本なのです。



(関係note)