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日本でしか生まれ得ない作品:月村了衛の機龍警察シリーズ(国内SF作家シリーズ)

 Police Dragoon


 今回は国内のSF系の小説「機龍警察」シリーズに関する”note”です。

 「機龍警察」は、月村了衛さんが2010年に発表したデビュー作です。
 「機龍警察」というタイトルの響きが、すでにそれっぽいんですが、近未来を舞台とした警察小説になっています。

 小説の中で出てくるのが”機甲兵装”と呼ばれる近接戦闘兵器で、いわゆるパワードスーツ系の人が着こむように装備する兵器です。これらの兵器に対抗するために、警視庁でも最新型の”機甲兵装”を配備した特捜部を設置し、その特捜部の活躍を描くのが、この「機龍警察」なのです。

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 スタート10周年ということなのですが、これまで長編5作、短編集1作の6作が発表されています。

 機龍警察(2010年)
 機龍警察 自爆条項(2011年)
 機龍警察 暗黒市場(2012年)
 機龍警察 未亡旅団(2014)
 機龍警察 火宅(2014年)※短編集
 機龍警察 狼眼殺手(2017年)


 ”機甲兵装”という兵器を使って治安を守るってとこは、自分たち世代からすると、アニメ「機動警察パトレイバー」の世界観を、もっとハードにしたような感じです。

 私も、最初に手に取った時は、そういう”ノリ”だったのですが、続編の『自爆条項』を読んだ頃から、その印象は変わっていきました。
 その”ノリ”というのは、いわゆる近未来兵器が主役のSFアクションのイメージのことなんですが、このシリーズは、魅力的な ”機甲兵装” が活躍するものの、物語の主役はそこだけではなかったのです。

 これは、ちょっと違うタイプの小説だと....

 もし、私と同じように、このシリーズがそういう”ノリ”の作品だと思って手に取らない人がいるとすれば、ぜひ、次のポイントを読んでみていただければと思います。

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ポイント① ストーリーの重厚さ

 とにかくストーリーにいろんな謀略が絡んでいて面白いのです。
 主役の特捜部自体、警察組織の中では疎まれていますから、いわゆる警察小説の構図はもちろんですが、公安や内閣官房、経産省や、正体不明の影の組織の存在など、国家レベルの謀略も感じさせたり、各巻で絡む相手も、裏の有る中国の国際企業、IRAなどのテロ組織、ロシア裏社会のマフィア、チェチェン系テロ集団、などなど、現在の世界情勢をふまえた至近未来が描かれているのです。

 正直、 ”機甲兵装” が活躍するアクションは巻を追うごとに少なくなり、むしろフレデリック・フォーサイス顔負けの重厚な国際謀略サスペンスが繰り広げられるわけです。

ポイント② 個性的な登場人物

 ①の重厚なストーリーの中で生きてくるが特捜部の人物たちなのですが、特捜部の成り立ち自体にいわくがあるようで、集められたメンバーもかなり個性的です。
 まず、 ”機甲兵装”の搭乗員は、傭兵、元IRAの殺し屋、元モスクワ警察官と、日本の警察とはかけ離れた存在だったりします。
 せっかくの新兵器に警察官を搭乗させないのは何故か?という謎は『自爆条項』で明らかにされます。
 次に搭乗員を指揮する特捜部の部長は、いろいろと謎を持ってるような元外務省官僚で、脇を固める副官たちが、警視庁の官僚という布陣です。

 特捜部の中でもたくさんの軋轢があって、元々の警察官たちであっても、今の特捜部を信頼できずにいたりして、いろんな葛藤の中で職務にあたっているのですが、メインの事件を柱としながら、それぞれの人間ドラマが展開されていって、読む側としては、そのドラマに引き込まれていくのです。

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 読み始めの印象とは違って、巻を重ねるごとに変化しながら、より面白くなっていくシリーズなのですが、やっぱり日本のSFアニメやマンガ文化を背景としたものだと思うのです。「ガンダム」「パトレイバー」「アキラ」「攻殻機動隊」などが誕生してきた日本だからこそ、生まれた小説に違いないのです!
 SFにカテゴライズされていますが、いろんな要素がミックスされていて、かつてないエンタメ小説となっているので、普段はSFを読まない人も手に取っていただければと思います。

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