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有機栽培×スマート農業への挑戦。2023年・北船路プロジェクトレポート②

滋賀県大津市・北船路集落の棚田で、2022年から始まった『スモールファーマーズ・北船路プロジェクト』。3年かけて実践し、経験と結果を積み重ねていくというこの企画。

『有機栽培×スマート農業』で、新しい環境保全型の水稲栽培と野菜栽培に取組み、更に地元農家や道の駅の協力体制のもと、農業の新たな魅力を創出して発信する、その2年目の試みをレポートする第二段です!

データを活かした2年目の米づくり

水稲の慣行栽培と有機栽培を同時並行で比較検証していく北船路プロジェクト。9月17日はその稲刈りの日。
5月に訪ねたときには小さく青々としていた苗たちが、すっかり大きくなり黄金色に実った姿に思わず息をのみます。

黄金色に実った稲

昨年の有機栽培では雑草の多さに随分と悩まされたと言いますが、さて今年は…と尋ねると「去年に比べてかなり作業削減に成功して、最初のチェーン除草と、機械除草の1回ずつで済みました」とのこと。田んぼを見まわしてみると確かに稗などの雑草はほぼ見当たらず、稲がそよそよと風を受ける風景が広がります。

昨年に比べてグンと雑草や除草回数が減少したという田んぼ

「今年はまず、昨年のデータを見ながら田植えの時期を後ろにずらすことから始めました。また水門をコントロールして浅水になるように調整しています。そうやって水温と水位管理をすることで、初期成育がかなり良くなったし、除草のタイミングも計れました。
除草方法もチェーン除草に切り替えたことで、根への刺激が生まれて分決に良い影響があったし、昨年のように何度も田んぼに入って稲を傷めることもありませんでした」と、データを活用した2年目の管理結果は上々のようです。

チェーン除草や、水温・水位センサーの様子は、北船路プロジェクトレポート①にて紹介しています。是非ご覧ください。

やがで続々とプロジェクト参加者が集まり始めました。北船路の農家で、農作業コーディネーターを担う吹野(ふきの)さんの指導の下、いよいよ稲刈り開始です。

プロジェクト参加者にコンバインの仕組みを説明する吹野さん
ふち刈りの説明図
コンバイン操作のお手本

人と自然、共にある農の姿

「こっちの田んぼの稲は、天日干しにするよ」と向かった先に『稲木』が見えました。

北船路プロジェクトでのお米の乾燥方法は二通り。ひとつは乾燥機にかけ、もうひとつはこの稲木を用いた天日干しをするのだそうです。

古くは神様への奉納のために行われたとも言われる米の天日干し。束ねた稲を稲木に架け約2週間、天日(太陽光線)と自然風によってゆっくりと乾燥させることで、米粒がギュッと締まり籾摺りの際に砕けにくくなります。また粘り・こし・ツヤの元であるデンプン粒の状態が良く、お米のもちもち感をより保ってくれると言います。

昔ながらの伝統と技、スマート農業という先端技術、そんな新旧二つの『農』を目の当たりにできるのも、このプロジェクトの面白さです。

また、稲木は田のすぐ傍にそびえる山々に対して直角に立てるのだそう。
「山の風が吹き降りて来るやろ?山と平行に立ててると風で倒れてしまうねん」と吹野さん。なるほど、ひとつひとつに理由があります。

吹野さんによるバインダーでの刈り取り講習
稲束を力を合わせて稲木まで運びます
次々と稲束を架けていきます

作業の傍ら、ふと畔に目をやると、何とそこには一羽のキジが。更に良く見ると、田んぼにはいつの間にか鳶やツバメたちが飛び交っています。
不思議に思って見渡していると「稲を刈った後の虫を狙ってキジやツバメが来るんですよ。鳶はカエルを狙ってるかな」とプロジェクト参加者のひとりが教えてくれました。

そして「人間は、自分たちの為の米をつくっているって思っているけど、実は虫や鳥、いろんな生き物がこの土地に生きている。だからこの田で作られたものが自分たちだけの食べ物じゃなく、実はいろんな生き物の為のもので、人間はいろんな生き物と一緒に生きているんだってことを、忘れずにいたいなって。この風景を見ていると、そう思います」とも。

自然によってもたらされる循環があってこその、豊かな実り。その摂理をすぐに忘れてしまいそうになるけれど、こうして都度都度、目を向けなければならないとなと、飛び交う鳥たちを見ながら感じたのでした。

何とキジが姿を現しました!
地表近くを飛び交う鳶やツバメたち

-稲木の転倒と復旧。力を合わせて!-

「稲木が!」という声に駆けつけると、何と稲木が転倒していました
どうやら、組んでいた竹が折れたようです
「しゃぁないわ~。立て直そう!」と声を掛け合い、みんなで復旧作業開始
再び稲を架けていきます
完成です!

実りと課題、世界とつながる農

コンバインでの刈り取り作業も完了し、早くも脱穀されたお米がトラックの荷台で待機していました。コンバインは稲刈りだけでなく、脱穀・選別も同時に行えるツワモノです。「まさに文明の利器って思うよね」と言って笑うのは、先ほどまで手作業で稲束を運んでいた参加者たち。

ズシリと積みあがったお米

そして「もしこの先自分が水稲栽培をやる日が来たとして、やっぱり機械は必要だなって思います。広い田んぼを機械無しで管理することは難しい」とも。農業の近代化と大規模化、そして省力化は、こうした機械たちの活躍も重要な要素のひとつ。「でも機械は高額だし、維持も大変だと聞くので、どうしたものかって思いますね」と、進む道には課題も多いようです。

やがて「そしたら行くで~」と、吹野さんの声かけでトラックはゆっくり進み始めました。これからお米を吹野さんの倉庫に運び、乾燥機にかけていきます。

倉庫に向かって出発進行!
お米の乾燥機
乾燥機の中に次々とお米が入っていきます
ゴウゴウと燃える炎

乾燥機に吸い込まれていくお米を眺めながら、今年の出来はどうでしたか?と尋ねると、「そうやなぁ、有機栽培の方で言うと六俵か、もうちょっとありそうやなぁ。去年が五俵半やったから去年より良い出来やと思うわ」と吹野さん。

そして「でもなぁ、今年の夏は暑すぎた。農業そのものが厳しい状況やったやろ。世界で色々起こって肥料も高騰してるしな。こういう状況は、農家も消費者もみんなで協力して乗り越えなあかん」と。

「トラクターもコンバインも乾燥機も。農作業には機械が欠かせないから、燃料高騰は本当に深刻な話。世界の動きは直接僕たちの農業に関わってるって思いますね」
「今年の米はしっかり育ってくれたけど、3年目がどうなるか。今回みたいにデータを活かした管理ができれば、スマート農業の効果も見えてくると思います。それと併せて緑肥も準備して、土をしっかり作っていくようにしたいですね」と話してくれる参加者も。

担い手不足や、世界情勢による物資の高騰、急ピッチで変動していく気候、様々な事情に左右される食糧事情。そんな課題に囲まれながらも、考え、実りを喜び、また来年に向けて歩を進める。そうした一歩一歩を3年間の取組みの中で実践し、経験と結果を積み重ねていくこの『スモールファーマーズ・北船路プロジェクト』。

11月には畑でタマネギの植付も計画され、バターナッツに続いて地元・道の駅との販売協力も予定しているのだとか。
人と地域、自然、そして世界へとつながる農を前に、またこの北船路を訪れ、スモールファーマーたちの歩みに出会える日を思い、今日一日を終えたのでした。

今日も仲間と共に味わう昼食
吹野さんお手製、バターナッツシチュー
地域の特産化に向け、地元の道の駅『妹子の郷』と協力して栽培・販売を行うバターナッツもよく実りました。
北船路プロジェクト名物、地元の女性農産加工グループがつくるお弁当
色合いも美しく栄養たっぷり!

北船路プロジェクトのインスタはこちら♪


レポートする人
今井幸世さん

2021年の夏から野菜づくりの勉強を始める。はじめての土、はじめての野菜、これまで想像もしなかったたくさんの経験と自然のふしぎを通じて、環境と状況の中にある自分を発見。自然の摂理に沿って生き、はたらき、出会い、食べる暮らしを目指し自給農に挑戦中。


NPO法人スモールファーマーズでは、農を通してより良い世界をつくる活動に共感いただける「仲間」を募集しています。
ご自分のペースで、ゆっくりゆる~く関わっていただけたらと思います!

Small Farmersサポートメンバー

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