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有機栽培×スマート農業への挑戦。2023年・北船路プロジェクトレポート①

滋賀県大津市・北船路集落の棚田で、2022年から始まった『スモールファーマーズ・北船路プロジェクト』。
3年かけて実践し、経験と結果を積み重ねていくというこの企画。
『有機栽培×スマート農業』で、新しい環境保全型の水稲栽培と野菜栽培に取組み、更に地元農家や道の駅の協力体制のもと、農業の新たな魅力を創出して発信する試みです。

担い手の減少や高齢化によって、労働力不足が深刻な農業分野。その生産現場の課題を先端技術で解決すると注目のスマート農業。そんなスマート農業と有機栽培のコラボって?地域と協力して進める農活動の魅力って?3年間でどう変わっていくの?…と興味津々、プロジェクト2年目となる北船路を訪ねました。


皐月の空の下、いざ田植え

北船路プロジェクトの水稲栽培では、従来の慣⾏栽培と有機栽培を同時並⾏し、作業時間や収穫量などの⽐較や検証をしています。
今日は、その有機栽培区画の田植えの日。たくさんの鳥たちの声が響く棚田で「慣れてくると、何の鳥か分かるようになりますよ」と笑うプロジェクト参加者たちが、着々と田植えの準備を進めます。

田植え日和、今日も暑くなりそうです

水面が静かに佇む棚田の面積は、慣行・有機栽培ともに各々約10アール。
昨年の収穫量は、慣行栽培で約600キロ、有機栽培で約400キロだったそう。
「今年はどうなるかな~」と言いながら、着々と苗が田植え機にセットされていきます。

「始めるで~!」と皆に声をかけるのは、プロジェクトに協力されている地元・北船路の農家で、農作業コーディネーターを担う吹野(ふきの)さん。子どもの頃から、父の後をついて田植えに勤しんできた水稲栽培のプロです。

スルスルと進む田植え機。真っすぐに植えられていく苗。吹野さんが進む後ろに整然と緑が広がります。
やがて吹野さんが「ほら、やってみ」と声をかけ、選手交代。参加者が初の田植え機に挑戦です。操作を教わる顔は真剣そのもの。

田植え機のレクチャーをする吹野さん(右)と、プロジェクト参加者

徐々に操作にも慣れ、次々に選手交代していきます。「最初は緊張したけど、すっごく楽しかったですよ!真っすぐに植えられたかどうかは、ちょっとアレやけど笑」と、皆さん興奮覚めやらぬ様子。欠株になった箇所には、一箇所ずつ手植えで丁寧に補植していきます。

欠株部分を探して、手で補植していきます

気になるスマート農業機器について尋ねると「設置は次の作業の日」とのことで、残念ながら本日の対面はならず。昨年の様子を聞いてみると、
「水温や水位のセンサーで、除草のタイミングを特定しようとしています。これが分かれば、農薬を使わない、除草必須の有機水稲栽培で大きな省力化につながりますからね。でも実際に作業してみて分かる課題もあって、今年はまた作戦を立てています」

取材の一週間後、今年も水温・水位センサーが取付けられました
比良山系からの冷たい水が流れる水路。水温管理はイネの生育に欠かせません

「去年は除草作業の度に田んぼに入りすぎた影響で、苗を傷めてしまった。そうすると収量にも影響が出ます。だから今年は作戦変更で、チェーン除草という方法で除草する予定です」

教えていただいたのは、苗の上からチェーンを引っ張ることで、水田全体の表土をかき混ぜて除草する方法。田んぼの両端の畝からロープを通しチェーンを引くことで、田んぼに入らなくて済むのだそうです。

吹野さんお手製のチェーン除草具
田植えの一週間後、頭をのぞかせ始めた雑草(左)
除草具をロープに沿わせて引いていきます(右)

何年季節が巡っても、新しい課題に日々直面する農作業。その中で昔から伝わる知恵と技術を用い、新世代の機器や道具を取り入れ、また新たな発見をする。
繰り返し巡る季節の中で自然の摂理を感じながら、より良い業を追求できる魅力が、農にはたくさんあるのかも知れません。

慣行栽培区画。左からもち米・日本晴・コシヒカリ
もち米は滋賀羽二重餅用で、そのワラは質が良くしめ縄に使われるそうです

地域の農を守るために

お昼は吹野さんのご自宅で、地元の女性農産加工グループがつくっているお弁当をいただきます。強い日差しから解放され、ホッと一息。

「今日もお弁当美味しいねえ」「あの米、早く食べたいねえ」と舌鼓を打ちながら、田植えを終えた米たちに思いを馳せます。

「でも、年々作り手が減ってるねん」と吹野さん。吹野さんは北船路地域の農事組合法人の理事を務めながら、地域の変化をヒシヒシと肌で感じていました。日本各地で、農地の集約化・法人化が図られているものの、高齢化や人手不足、米価の下落など、地域の棚田を守るための課題は枚挙にいとまがありません。それは北船路でも同じだと言います。

地元の女性農産加工グループがつくるお弁当

課題は米だけでなく野菜にも。北船路の作物を販売する、道の駅『妹子の郷(いもこのさと)』は、より多くの地元農産物を販売したいと思いながらも、生産者不足により供給が追い付いていないと言います。

「昨年は地域の特産化への取組みとして、『妹子の郷』からバターナッツの栽培依頼もありました。プロジェクトを通して地域の農家さんに学びながら、自分たちも地域に貢献する。そんなお互いの力を出し合える関係づくりも、このプロジェクトの大事な特徴です」
と言う参加者から、ここが自分たちにとっても“ただ学ぶだけの場所ではない”という思いが垣間見えました。


プロジェクトへの思い

「今年は、野菜の作業も増やしたんですよ」と案内していただいた畑。
昨年のバターナッツに続き、今年はタマネギ、ショウガ、サトイモなども妹子の郷で販売するのだとか。
今日はプロジェクトで耕作する二箇所の畑のうち、山の上方の畑でサトイモとショウガを植付けます。車で移動し、林を抜けた先に現れたその畑…

そこからの眺めのすごいこと!

「昔々から、山を開墾してきた歴史そのもの」と言う、古い古い、穴太(あのう)積みと呼ばれる石垣が残る畑。琵琶湖と近江富士を臨み、鳶が眼下を飛ぶ。冷涼な山水が滔々と流れ、静かな山の気配が漂ってきます。
「すごい眺めでしょう?この風景はどこにも負けない」と言う参加者からは、1年間で培われた、この土地への愛着のようなものを感じます。

琵琶湖と近江富士を見下ろす
穴太積みの石垣
冷涼な山の水。お茶を冷やして休憩時間に飲むと最高!

そして今日この畑に植えるのは、サトイモ200個とショウガ50個。
「順番にいくで~」という吹野さんの声に合わせて、参加者はそれぞれ畝を整え、植穴を掘って植付け、土を被せ…と慣れた手つきで作業を進めます。

共同作業で次々と植付けられていくサトイモ

このプロジェクトの目的のひとつ、リモートワークや二拠点居住、複業、半農半X…と多様な働き方やライフスタイルの中で、平日は都会に住んで働き週末は農村で農業に従事する、そんな新しいスタイルの兼業農家を発掘・育成していくという試み。参加者はプロジェクト期間(3年間)で学び、体験し、その後それぞれの地域で活動することを目指しています。
休憩の合間、参加者の皆さんになぜこのプロジェクトに参加されたのかを聞いてみました。

木陰で休憩。山の水で冷やしたお茶が体に染みわたります

「いつか実家の田んぼをやることになったとき、作業ができるようになっておきたくて」
「子どもに向けて、お米づくり体験ができるようになりたいと思っていて」
「将来は移住して、そこで田んぼや畑をやりたいので」

参加理由はそれぞれですが、一人ひとりが農と関わって生きていくために学びたい、という思いが感じられます。その中にはこんな言葉もありました。
「この先自分が水田を確保できるのかなっていうのが課題です。ひとりで農地を確保していくのって難しいことも多いから、ここで知り合ったメンバーで、協働するのも良いんじゃないかなぁ、と考えたりもします」

多様なライフスタイルや農への関わり方が広まる中で、課題も様々。
このスモールファーマーズ・北船路プロジェクトで出会う仲間、得る経験が、スモールファーマーたちにとっての新しい農の魅力となることを願い、今日一日を終えました。


北船路プロジェクトのインスタはこちら♪


レポートする人
今井幸世さん

2021年の夏から野菜づくりの勉強を始める。はじめての土、はじめての野菜、これまで想像もしなかったたくさんの経験と自然のふしぎを通じて、環境と状況の中にある自分を発見。自然の摂理に沿って生き、はたらき、出会い、食べる暮らしを目指し自給農に挑戦中。


NPO法人スモールファーマーズでは、農を通してより良い世界をつくる活動に共感いただける「仲間」を募集しています。
ご自分のペースで、ゆっくりゆる~く関わっていただけたらと思います!

Small Farmersサポートメンバー

NPO法人スモールファーマーズ公式ライン

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