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〖本紹介〗後悔病棟

こんにちは。6回目の投稿です。

皆さんはどんな内容の小説が好きですか?ラブストーリー、サスペンス、ハートフル、ミステリーなどなど。私も色んなパターンの小説を読みますが、個人的にどうしても手に取りたくなってしまうのは「リアル」な小説です。

今この世界のどこかで、この小説のできごとが起こっているんじゃないか。この主人公はこの世界のどこかにいるんじゃないか。そんな風に思えるリアリティのある小説が好きなんです。

もちろんTheファンタジー!みたいな小説も読みますが、あまりにも現実とかけ離れ過ぎていると、こんなことある訳ないよなって1歩引いて小説を読んじゃうわけです。それはそれで小説の良さなので、ファンタジー作品も好きなんですけどね。
だから、この本もあらすじを読んだときは、ファンタジー作品だなと思って、最初は1歩引いて読み進めていきました。でも、ただのファンタジーじゃなかったんです。
そんなファンタジーに抵抗がある人にも読んで欲しいのがこの作品!

【後悔病棟】      垣谷 美雨


裏表紙より

【おすすめポイント】

①ファンタジーとリアリティの絶妙なバランス

あらすじを読んでもらえばわかる通り、主人公のルミ子は、患者の心の声が聞こえる聴診器を拾います。さらにその聴診器で、もうひとつの人生を見ることもできます。ここだけ読むと、めちゃくちゃファンタジーっぽいなと。
ドラえもんの道具にありそうな、「そんなのあるわけないじゃん!」という言葉がぴったりの現実離れしている設定だなーと。

でも、この作品はファンタジーとリアリティのバランスが絶妙なんです!
確かに、心の声が聞こえる聴診器自体はファンタジーだと思います。でも、その聴診器を通して患者さんが話す内容、見ることが出来るもうひとつの人生は、とってもリアルなんです。

聴診器の力で、自分が後悔している日に戻れた患者さんが、もしその日に別の行動を起こしていたらどうなっていたのかを見ることができます。
つまり、ファンタジーな不思議な力を持った聴診器を使うけれど、見ているのは現実みたいな。このファンタジーとリアリティが混ざった感じが個人的にはとっても好きです。

異世界に迷い込んだとか、タイムスリップしたとかっていうお話はけっこうあるけれど、聴診器の力でもうひとつの人生を見るっていうのも面白いなーと。患者さんが今の世界に戻してください!って言えばすぐに現実に戻れるのがファンタジーとリアリティの絶妙なバランスを生み出してるのかなと思います!

②主人公の変化

お話の最初、主人公のルミ子は、患者の気持ちが分からないことに悩んでいます。
言葉足らずな部分があり、無意識に患者さんを傷つけるような言葉を言って怒らせたり、少し空気が読めないところがあったり。
そんなルミ子が、人の心の声が聞こえる聴診器を手に入れることで、人の気持ちが分かるようになっていきます。(心の声が聞こえちゃうんだから人の気持ちが分かるのも当たり前なんですけどね笑)

私は、こんな便利な道具を手に入れてしまったルミ子がどうなっていくのかを考えながら読み進めていきました。だって、今まで人の気持ちが分からなくて悩んでいた人が、人の心の声が聞けるようになる道具を手に入れてしまったら、その道具に頼りきりになりたくもなるじゃないですか。だから、この聴診器を使ううちに、行動がエスカレートしてしまう展開なのかなと。

もし、このお話に出てくる最後の患者さんに出会わなければ、道具に支配されてしまう展開も有り得たのかもしれません。
最後の患者さんというのは、ルミ子の父親です。といっても、父は家を出ていってしまい、長い間ルミ子と会うことはありませんでした。
あれだけ聴診器を使って患者さんと接していたルミ子が、この父親とはとことん直接話をします。
恨みつらみ、怒り、今思っていること全てを直接父親にぶつけるんです。

「あの聴診器がなくても、父の気持ちは確かに伝わってきた」

この言葉がルミ子から出てきたのがすごく良かったなと。患者さんの気持ちがわからず、患者さんを怒らせることまであったルミ子が、聴診器を手に入れて、物理的に人の気持ちが分かるようになり、最終的には聴診器がなくても人の気持ちが分かるまでに成長する。
聴診器を拾って使った意味がわかる、素敵な一文だと思います。
結局は直接しっかり話し合わなければ人は生きていけないんだなと。

私は、この変化の流れを、ルミ子の昼食でも表しているんじゃないかなと思いました。

普段の昼食である「パンと牛乳」→「社員食堂」→「ハンバーガーと肉まんと牛乳」

昼食に変化があるタイミングで、ルミ子自体にも変化があって。ルミ子の成長を昼食の変化でも表したりしているのかなーと。個人的にはそう感じました。
こういうことを考えながら読み直すのもいいですね。

③患者さんの言葉の重み

このお話に出てくる患者さんは、全て末期の癌患者です。つまり、余命間近の患者さんばかり。
自分の死ぬタイミングがわかった上で、様々な後悔をしています。その患者さんの後悔を取り除くためにこの聴診器が使われるんです。

死期がわかった患者さんだからこそ出てくる言葉の重みも、この本の魅力の一つだと思います。

ーこんなに早く死ぬとわかっていたら、好きに生きればよかったよー

ー人間誰しも明日死ぬかもしれないと思って生きているくらいがちょうどいいんじゃないかと思いますー

もし自分の死ぬタイミングが分かっていたら、自分は今の生活を変えるのかなと。明日も確実に生きている保証なんてどこにもないのに。
まあそんなことを思っても、明日になればまた呑気に、のほほんと生活するんでしょうけど。笑

患者さん一人一人に後悔や伝えたい思いがあって。その言葉の一つ一つに重みがあります。
その言葉を、今健康に生きられている自分はどう受け止めるのか、自分の今の生き方を考えさせられる内容です。

最後には、こう終わるのか!(こう続くのか!と言うこともできるのかな)というシーンもあるので、そこも楽しみながら読んでいってほしいなと思います。

以上!後悔病棟の紹介でした!

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