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こころの拠り処〜手帳の佇まい(24)

誰もが不安を抱く。
それは人間なら当然で、
あのフーテンの寅さんだって
何の不安もなく旅していたわけではない。

片や、映画「ブリッジ・オブ・スパイ」。
アメリカにスパイとして潜入し、
CIAに逮捕されたソ連人アベル
(マーク・ライランス)は、
死刑宣告の可能性について、
彼に着いた弁護士ジム(トム・ハンクス)に言う
「不安があるかって?それは役にたたない」。

実に知性的で合理的。
感情は関係ないと。
不安に思ったところで、
何も解決しないのなら、
それは抱かないと。無の境地。
でも、人はそんなに簡単にはいかない。

「先回り不安」「取り越し苦労」では、
楽しい時間が過ごせず、
人生の時間が勿体無い。

内田樹氏は著書のなかで
「(中略)取り越し苦労は、
怒りや嫉妬と同じくらい人間の心身を
蝕む有害なものなんです。
(中略)未来予測の中のネガティブな
ファクターだけを拾い出してゆくのが
取り越し苦労。
(中略)無限の可能性の中から
限定した不幸な選択肢だけをよりのけて、
「これが私の未来だ」と思い込むこと。」
と言う。
(「身体の言い分」内田樹、池上六郎共著、毎日文庫)

勿論、何かに備えること、
懸念材料を予防しておくことは大事。
それは「取り越し」ではない。
要は、過剰な不安や心配を避けるべきと。

もう20年以上前から僕は不安なことを
システム手帳のリフィルに書き、
その瞬間で手放すことにしている。
結構、効果がある。
最近は、スマホのメモアプリに
入力することもある。
オフィスや自宅の書斎にいるときは
手帳を開けるが、
駅のホームや食事中、あるいは
トイレや風呂にいるときは、
スマホのメモ欄が最適。

不安や心配を吐き出すように
書き込むと、自ずと頭が整理されて、
その不安の解消方法や問題の解決策が
ふと浮かんでくるから凄い。
断然、楽しく嬉しくなる。

よしんば浮かんでこなくても、
今自分に出来ること、
これからすべきことを、
列挙するだけでも、
かなり開放感、安心感が味わえる。

そんなふうにして、
もう手帳の数は膨大になった。
このリフィルの多くには、
不安や怒り、モヤモヤの解決策がある。

まあ結局は、悩んでも仕方ないこと、
怒っても独りよがりなことばかり。
成り行き任せ、レット・イット・ビーで
収束していくのだ。

心の落ち着き処。
それが、手帳であり、メモアプリ。

人は不安を打ち消すために
とことん努力を重ねるべきと、
根性論の書にはある。
一理あるが、そうとも限らない。
ある程度真面目に誠実に、
自分に正直に生きてきたのなら、
あとは人の評価など気にせず
成り行き任せ、天運自在で良いと
僕は思う。

先程の映画「ブリッジ・オブ・スパイ」で、
ソ連上空を撮影していたアメリカ空軍の
パイロットのパワーズは、
ソ連に逮捕された後、何とか帰国したが、
CIA等のアメリカ人の反応、対応が冷たい。
パワーズは、彼の帰国に寄与した
弁護士ジム(トム・ハンクス)に
打ち明ける。
「俺は国家の機密をソ連に話していない。
どうか信じてほしい」。
ジムは言う
「自分が確かなら、それでいい。
人からどう思われようと気にするな」。

僕はたまに手帳たちを蔵出しして、
読み返す。
思えば、自分にとっての、
お悩み事や不安ごとって、
何年経っても変わらないものだと、
つくづく自分を知ることになる。

手帳で思考や感情を整理している割には
何年も成長していないが、
これらの手帳記入があったからこそ、
今、自分は何とかこうして
生きていられるのだと確信している。

この手帳こそ僕が歩いてきた道。
不器用ながらも生きてきた足跡。
我が手帳たちに深謝。

明日からも前へ行ける。

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