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才能が「クロスする」喜び

東京オペラシティのアートギャラリーで開催されている「和田誠展」に行ってきました。

和田誠さん(1936-2019)はイラストレーター、グラフィックデザイナーとして大変な活躍をされました。一般的になじみがあるのは『週間文春』の表紙絵でしょうか。40年間、2000号分を描いたというのもすごいですし、和田さんの死後も過去の作品が再掲載されていることから「代え難い」存在感があることが分かります。

今回の展覧会ではイラスト、商業デザイン、絵本、装丁、アニメ、映画など様々な分野で創作を行った和田さんの全貌に迫ろうというものです。会場に入るとすぐに迎えてくれるのが有名人の似顔絵。
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和田誠展4

ビートルズが目立ちますが、ジャズ・ミュージシャンも・・・分かるかな?

ユニークだったのが和田さんのプロフィールの紹介。
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和田誠展

四角い柱のようなものに和田さんの実績と作品が載せられています。1面に1年分。柱を一回りすると4年分です。私の目を引いたのがこちら。
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和田誠展3

1958年、まだ大学生だった和田さんがデザインしたレコードジャケットです(会場の照明で色合いが実際に見た感じと違うことをお許しください・・・)。
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和田誠展2

どうでしょう。
私はこれを見てモダン・ジャズ・カルテットの個性をこれほどまでに引き出したイラストは他にないだろうと思いました。

クラシックに通じる抑制された演奏で「品格」を感じさせたグループ。黒人への偏見が強かった時代に細身のスーツをビシッと着こなし、スタイリッシュな印象を与えた4人を「あおり」の構図で捉えている。彼らの自信、余裕が伝わってくる見事な作品です。これを22歳で描いたとは・・・。

自宅に帰って早速、CDを取り出しました。モダン・ジャズ・カルテットの「At Music Inn With Sonny Rollins」です。

このアルバムには和田さんがデザインしたジャケットと同じ
「At Music Inn」というタイトルがついています。しかも、録音されたのが1958年と同じ年。この作品にインスパイアされてジャケットを制作したのか・・・と思ってしまいますが、MJQは1956年の夏にクラリネットのジミー・ジェフリーと「At Music Inn」という作品を収録しており、当時の流通状況を考えるとこちらを参考にした可能性が高いです。

たまたま私の手元にあるのが「At Music Inn」シリーズの第2弾にあたる
ソニー・ロリンズ(ts)との共演盤ということでご紹介するのですが、和田さんのイラストと同じ年の制作ということでお許しを。

本作は佳作と言える出来栄えですが、面白くしているのはやはりソニー・ロリンズ。当時28歳のロリンズがライブということもあり、若さを出して気ままにブロウしますが、音楽性が極めて高い。そして特にミルト・ジャクソン(vib)が触発されて仕掛けてくるところが聴きものです。

1958年8月3日と9月3日、アメリカ・マサチューセッツ州レノックスでのライブ録音。
John Lewis(p)   Milt Jackson(vib)   Percy Heath(b)   Connie Kay(ds)
Sonny Rollins(ts)

⑤Bag's Groove
お馴染みのミルト・ジャクソンのオリジナル。ゆったりとしたテンポでゲスト参加のロリンズによってメロディが提示され、まずミルトのソロへ。ブルース・フィーリングたっぷりのソロですが、ミルトがテンポを上げて連打するタイミングが早い。このアルバムのMJQだけの演奏にはない奔放さで、やはりロリンズの参加が刺激となってるのは間違いないでしょう。これを受けたロリンズのソロは意外に抑制的です。訥々とした語り口で、「俺は急いでいない」とでも言いたげです。メロディを引用しながら慎重に進んでいくのですが、4分50秒ぐらいから何かをつかんだとでもいうようにテンポが上がりゆらゆらと揺れるような独特のフレーズをつないでいきます。このライブらしいドキュメント感がいちばんの聴きものでしょう。「不思議フレーズ」のアイデアはどこから降ってきたのでしょうね・・・。

⑥Night In Tunisia
これもお馴染み、ディジー・ガレスピー(tp)の作品です。ジョン・ルイスが音を絞り込んでグルーブを作り出す見事なイントロをつけ、ロリンズとミルトでメロディが示されます。最初のソロはロリンズ。ここでは冒頭から出し惜しみすることなく、肩の力を入れずにスイスイとフレーズを紡ぎだしていきます。全てが歌になる、とでも言えばいいのか・・・聴ける節回しになっているのがすごいです。続くミルトは高速フレーズで流れるようなソロを取ります。あまりにスムーズなので速さを意識しないといいますか、さらっとやってのけるところが名人芸です。ジョン・ルイス(p)のソロの後、メロディが提示された後にカデンツァに入って、ミルトとロリンズが2人でかけあいを行います。それぞれが単独でソロをぶつけあう展開は実にスリリング。短いのがちょっともったいないぐらいです。

モダン・ジャズ・カルテットが自信あふれる演奏を繰り広げていた1958年。和田さんは彼らと直に会ったことはなかったのに(MJQの初来日は1961年)、その姿を写真と音楽をもとに描き出したのでしょう。想像力の豊かさに驚くばかりです。

和田誠展は12月19日まで行われています。コロナ禍で「交わる」感覚が遠のいている中、それぞれのジャンルの才能がクロスする喜びを味わうのもいいかもしれません。

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