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GIGA・BITE 【エピローグ】

【前回】


3ヶ月後。

ゾンビ騒動が収束し、鷹海市の封鎖は解かれた。

新鷹海総合病院の再建にはまだまだ時間がかかりそうだ。怪物が好き勝手に暴れたせいで、建物も設備もめちゃくちゃだ。

政府機関から派遣された特殊部隊は、一連のゾンビ事件の重要参考人として、真中一哉、並びに桐野仁蔵の身柄を拘束した。鷹海市の地下で暗躍していた秘密結社の悪事、そしてその幹部らによる身勝手な内部抗争が明らかになった。

本来なら然るべき場所に送致する手筈なのだが、越中隊長らの証言により、桐野博士は拘束を解かれ、保護観察処分となった。博士のサポート無くしてこの事件は終息しなかっただろう。

そして、その監視役として任命されたのが特殊部隊のメンバーだった。彼等は肩をがくりと落とした。

「まぁ、そう暗い顔をするな」

地下研究所。
モニタールームで桐野博士が越中隊長に声をかけた。
「ここもなかなか良いもんだろ?」

彼等が監視を任された理由は他にもある。旧組織が使っていた研究所の調査だ。
幸いここには古い資料も残されている。博士の証言を裏付ける物も見つかるだろう。

真中は近々精神病棟に移されるらしい。証言はひとつも得られず、ずっと“超獣”という言葉を繰り返すのみだという。
それ故、組織の情報を持つ者は事実上桐野博士しかいない。博士は包み隠さず全て伝えたが、ものの言い方がなっていないのか、聴取の際も越中隊長と喧嘩になっていた。

「あーあ、こんなに散らかしやがって。おい、お前も手伝えよ」
隊長が博士に文句を言う。
初めのうちは事情聴取や施設内の調査を入念に行なっていたのだが、監視を続けるうちに、いつの間にか掃除や口喧嘩ばかりになっていた。

『ホントーにごめんなさい、こんなポンコツで』
中央のモニターからノーラが博士に代わって謝罪した。
「構わん。コイツに問題があるんだ」
隊長が博士を睨みつけた。

「アンタも言うようになったなぁ」
「やるか、おい? 俺が掛け合って務所にぶち込んでやっても良いんだぞ?」
「それが政府機関のすることかよ!」
「うるさい、化け物!」
「だから、それはもうとっくに……」
『んああっ! 2人ともうるさいわっ!』

部屋の汚さ、博士の口の悪さ、隊長の細かいところ。本当に小さなことからすぐ口喧嘩が始まる。似た者同士。それがノーラの印象だ。

『ほら、笑顔! クソみたいな顔してんじゃねーよ!』
「何だよクソって!」
『その顔のこと言ってんだよ! 全く。そんな顔で出迎えるつもり?』

ノーラに叱られて、博士と隊長は黙って俯いた。

秘密結社も怪しい研究も、今日は関係なし。
博士らにとって、何よりも大切な要件がある。
その要件とは……。

◇◇◇

魚市場の一角にある喫茶・北風。

白いヘルメットを被り、カゴを後ろに備えた自転車を漕いで、1人の若者が帰ってきた。
ヘルメットを取ってハンドルにかけると、メロは短く息を吐いた。

戦いからかなり時間が経った。オリジナルと繋がっていたためか、傷も元通りだ。左腕の鎧と融合炉も無い。

メロが降らせた発光体。レイラの群体の特性を利用し、オリジナルが分散・放出されたものだった。
町中でゾンビ化した市民が意識を取り戻したのも、飛び散ったオリジナルの作用によるものと思われる。意思の乗っ取りを危惧して博士が検査を担当したが、その様子はなかった。

無害な微生物になったオリジナルは、今頃世界中を見て回っていることだろう。笠原のネストのように人間を変えようとするだろうか。否、少なくともメロは心配していなかった。

見た目や内面が違っても、全てが生きている。そしてそれぞれが、異なる目線で世界を見ている。オリジナルも長い旅の中で実感するだろう、この世界には沢山の面が存在すると。メロはそう信じている。

さて、こうしてオリジナルと別れたメロだったが、その反動で意識を失ってしまった。メロの容態を案じ、桐野博士が研究所に連れ帰って処置を施したいと特殊部隊に頼んだ。
越中隊長らも事情聴取どころではないと判断し了承、約1ヶ月の処置の後、メロは目を覚ました。

長い間トキシムに近い性質を宿していたため、彼が負った深い傷は癒えていた。そうなると、いよいよ左腕と胸を守る鎧が不要になる。研究所では超獣システムの切除手術が行われた。ノーラのサポートもあって処置は成功。メロも命に別状はなかった。

かくして、超獣は消滅し、ごく普通の青年・綾小路メロは自分の家に帰ることができた。店先で彼を待っていたのは翠。生きて再会出来たことを共に喜んだ。

処置が終わってから約2ヶ月。久々の仕事だと意気込んでいたが、店に戻る頃にはもうヘトヘト。自分がただの人間に戻ったことを改めて実感した。
「ただいまー」
喫茶店のドアを開けると、店内は今日も常連客で賑わっている。彼等に会釈してレジ奥の厨房に向かうと、翠が腕を組んで仁王立ちしていた。

「20分遅刻」
この言い方。不意にレイラを思い出した。
「あんた、また田所さんとお喋りしてきたんでしょ? あの人は喋ると長くなるからって何っ回も言ったわよねぇ?」
「だからぁ、喋りが上手いんだって!」
「大体ね、もっと早く帰れるでしょ? 怪物なんだから!」
翠が少しニヤけてメロを小突いた。

「だからそれも昔のことだっての!」
2人の口論は常連客にも聞こえている。数ヶ月ぶりに店に活気が戻り、客らも楽しそうに笑っている。
「そうそう、あんた、これからもう1件行ってもらうからね」
「またぁ? たまには叔母さんが行けばいいじゃん」
「ごちゃごちゃ言わない! 住所、スマホに送っといたから」

わざとらしく溜息を吐き、メロが送られてきた住所を確認した。その位置情報を見て、メロは気持ちを切り替えた。
「それにしても、何か場所が変なのよねぇ。電波が悪いのかしら?」
「俺、行ってくる!」
「え? ああ、そう。じゃ、よろしくね」

叔母から商品を受け取ると、メロは再び店を出て自転車に跨った。普段は地図が無いと道に迷ってしまう程だが、今回は地図は必要なかった。
目的地に向けて自転車を走らせる。途中、1人の老婆とすれ違って声をかけたが、返事は無し。しかし老婆の方は笑みを浮かべ、軽快な足取りでその場を去った。

住宅地を抜け、人通りの少ないエリアに出た。メロの目的地はすぐ目の前にある。
巨大な鉄のカーテンに覆われた廃病院。新たな注文はそこの管理人から入ったものだった。

敷地に入り、建物の裏手に回る。本来なら掌紋認証が必要だったはずだが、彼を待ち構えていたかのように、地面が勝手にスライドして地下への階段が現れた。

慣れた足取りで暗い階段を降り、地下に広がる施設の廊下を突き進む。
向かうのは、馴染み深いあの部屋。近づくにつれて大人の口喧嘩が聞こえてくる。
商品を大事に持ち、モニタールームに顔を出すと、

『あっ! おいポンコツども! いい加減静かにしな、みっともない!』
ノーラが口喧嘩を続ける桐野博士と越中隊長を叱った。2人も揃って入口の方を見る。そこに立っていた、爽やかな表情の若者を見て、博士と隊長も笑みを浮かべた。

『おかえり、メロ君!』
「ああ。おかえり」と隊長。
「何でお前が先に言うんだよ。……待ってたぞ、青年!」
博士らの歓迎にメロは頬を赤らめた。

「ただいま!」
長い戦いを通じて出来た大切な仲間達に、メロも挨拶を返して駆け寄った。




第1話〜最終話(+登場怪人のイラスト)はこちらから

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