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那美様の足 その2 お前は、オナニーの道具だからね

 イタリアントマトを出ると、りょうじは那美様の一歩後ろに従いました。
 那美様は想像していたよりも長身です。タイトスカートからきれいな脚が伸び、その先にある10センチほどのヒールの黒いパンプスが歩道をコツコツ打つ音が聞こえます。

 -あの足で踏まれたい。

 もうパンプスに釘付けでした。エナメルの優美な曲線は艶めかしい生き物のようでもあり、逆に行き交う通行人は薄っぺらな絵のパーツにしかすぎませんでした。

 リモコンバイブや拘束具が入ったりょうじのスポーツバッグに加えて、那美様のトートバッグをお持ちすると、那美様に間接的に触れられたようでうっとりしました。

 青森にしては大きな商業施設に入りました。
 まず1階のドラッグストア。
 りょうじがカゴを持つと、那美様が商品を入れていきます。
 防水シートと極薄のゴム手袋。そしてシェーバーとクリーム。

「男もこれでいいのかな」

 那美様はそういいながらがら、いくつかのシェーバーを比較なさいました。
 会計のときに「これで剃毛していただくんです」とレジの女性に告白したい衝動にかられたのを覚えています。
 エスカレーターで地下におりると土産物や菓子店が並ぶコーナーで立ち止まり「ケーキ食べたいよね」と微笑まれました。
 那美様は洋酒を使ったのをふたつ。「りょうじも選んでいいよ」と言われたのですが、無難なイチゴのショートケーキに決めました。

ホテルに入ったのは昼前です。

 いつ拘束されるのかと思いつつ部屋の前まで来ましたが一向にその気配がありません。
 「拘束しなくていいんですか?」。尋ねると那美様はそれに直接答えることなく「ドアを開けてくれる」とおっしゃるのです。
 かなり大きなベッドを二つ備えた部屋でした。
 命じられるまでもなく、りょうじは自ら全裸になり、着衣の那美様の足下で跪き頭を床に擦りつけました。
 「那美様。きょうはりょうじのためにこのような機会をもうけていただき、心より感謝しております。どうぞ、ご調教をよろしくお願いいたします」
 SMクラブの女王様の前で何度も繰り返したごあいさつです。

 どれほど時間がたったでしょう。頭を踏んでいただけるのか、どんなお返事が聞けるのかと身を固くしていながらじっと待ちました。そのあまりに長かったこと。

 「なんか勘違いしてない?」
 「きょうはわたしが試す日よね。お前の望みをかなえてやるんじゃないから」

 「わかったら、返事は?」

 小さな声でしたが「わかりました」とこたえたつもりです。

 「かまげん」

 何のことかわかりません。方言だろうか。でも那美様は「かまげん」ともう一度おっしゃったのです。

 ぽかんとしてると「Come again.」と、こんどはゆっくり発音しました。英語だとわかりましたが、「もう一度来い?」ってなんだろう。 

 「わかんない? 小さい声で聞こえなかったから、もう一回言って。そういう意味」。あきれたような表情で説明してくれました。

 りょうじは多少、英語に自信があったのですが、全く知りませんでした。
 そして、これをきっかけに那美様によって新たな世界に導かれたのを実感したのです。

 それまでは新しい辱めや責めを経験するたびにM度が高まっと言ってもいいと思います。
 例えば大学のときに「家畜人ヤプー」を読んで飲尿という行為を知り興奮する自分が恥ずかしくなりました。その後1980年代のビデオ「美しき女王様」をみたときには、「変態」に墜ちていく感覚と、これが許されるんだという思いが交錯し、さらに興奮してオナニーをしました。実際に体験したのは就職してから、札幌のSMクラブです。
 90年代には、あるストリップ劇場が行っていたファン向けサービスの舞台に上がり、踊り子さんの聖水をいただくまでになっていました。

 ただこうしたM度の上昇は階段を一段ずつあがるようなものでした。欲望の階段です。
 那美様の言葉でその階段から別な世界に突然放りこまれ、目覚めたのです。どうしていいかわからない。でもそのまま自分より優れた女性の意のままになりたい。この方に服従したいと。

 「わたしのオナニーための、お前は道具」
 「おもちゃじゃできないことを、お前の舌や指や鼻にしてもらう」「お前が望むことは多分、しないと思う」

 そして、りょうじの陰毛を自分で剃るよう命じられたのです。那美様は手慣れたようすで剃毛をするクラブの女王様とは違っていたのです。


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