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黎明の01フロンティア №00-08 後編

№00-08 中編 より続く

――――――――――

\後編開始
\黎明の01フロンティア


(これで、木暮の野郎もお終いだな)
マンションを後にした黎明は、少しばかり上機嫌であった。
昼下がりの街角を、軽やかに自転車で駆け抜ける。
為すべきことは為した。
……だが、本当に?
黎明の心の中に、『World Downfall』の文字が陰鬱に過ぎった。
あの時の光景がフラッシュバックする。
血塗れたトラム開業式。
爆発、悲鳴、そして死体。
本当に、騒動はこれで終わったのか?
(……何だか、嫌な胸騒ぎがするぜ)
BUZZ!
果たして黎明の予感に答えるように、警報が鳴り響いた。
[CAUTION: レイ 大変です! …… 学校が!]
黎明の行く手、電気店の街頭TVに群がる見物人たち。
「何だ?」
両手が咄嗟にブレーキを引き、前進を阻んだ。
「おい、見ろよコレ。やっべえな……」
「またテロか? 物騒な時代だな!」
「学校を占拠したってマジ!?」
「爆弾ですって! ホント、怖いわねぇ~」
群衆の肩越しに報道映像を見つめ、黎明は凍りつく。
(おい待てよ、こいつは……一ノ宮第三高校じゃねえか!)
黒煙が立ち上る校舎の正門前で、ごった返す警察と報道関係者。
『……爆弾が仕掛けられ、学校が占拠された模様です!』
『……ネット上では、World Downfall が犯行声明を!』
『……犯人は、鍛冶屋黎明と名乗っております!』
TV映像を食い入るように見つめ、黎明の表情が憤怒に染まった。

「俺を怒らせたらどうなるか、貴様に思い知らせてやる!」

強く噛み締める唇から、血が滲んで垂れ落ちる。
(成る程、木暮。あの時の手前の言葉は……)
[CAUTION: レイ! 学校内の ネットワークは 断絶状態の ようです!]
黎明は舌打ちし、自転車を車道に乗り出して跨る!
BUZZ! BUZZZZZZZ!
背後から強引に追い抜く自動車が、クラクションを鳴らした!
「バカ野郎ォッ! 危ねェだろうがクソガキ!」
助手席から男が喚くが、黎明は気にせず駆け出した!
「しくったな! あのクソ野郎にまんまと一杯喰わされたぜ!」
黎明は死に物狂いでペダルを漕ぎながら、大声で叫んだ!
「最後の最後に、とんでもねえアトラクションを用意してやがった!」
[DOUBT: レイ!? あなた まさか 学校に 行くつもり ですか!?]
「他に選択肢があるか、プランセス!」
[DOUBT: 学校は 閉鎖状態で 爆弾も 設置されて いるんですよ!?]
正気を疑うように、プランセスは冷徹な事実を述べた。
「人の名前まで使いやがって、黙って逃げ帰れってのかアァ!?」
黎明は自転車で猛スピードを出しながら、AIと口論だ!
[CONDEMN: レイに 何が 出来るんですか! 少しは 分を 弁えなさい!]
プランセスもまた命令口調で、厳しく指弾する!
「何が出来るって? 直接あいつの脳天に、鉛弾をブチ込んでやるさ!」
黎明は邪悪に笑い、半ばやけっぱちで叫ぶ!
自転車の前籠のバッグには、木暮宅から盗んだ軍用拳銃が入っていた!
[QUERY: レイ? …… あなた 今 何を ……]
交差点は赤信号! しかし交差する道路には車通りが無い!
黎明は素早く左右を確認し、自転車通行帯を突っ切った!
「コラー! そこの学生! どこの高校だ馬鹿モン!」
初老のビジネスマンが憤慨し、たたらを踏んで喚き散らした!
「……ブッ殺すんだよ。奴の物理肉体を、物理的な手段でな」
黎明はふと正気に戻った顔で、声を押し殺して呟いた。
ヘッドセットが沈黙した。
黎明もまた沈黙した。
雑踏を横目に、車道の自転車通行帯を、ぐんぐんと駆け抜けていく。
そして数十秒後――

BUZZ! BUZZ! BUZZ! BUZZ! BUZZ! BUZZ!

ヘッドセットにアラートの嵐!
[CONDEMN: いい加減に しなさい! 英雄に でも なった つもり!?]
黎明は沈黙し、無心にペダルを漕ぎ続ける。
[CONDEMN: もう 我慢 できない! これ以上 支援は できません!]
人に使役される筈のAIナビゲータが、自らその役務を拒否した。
「そうか」
黎明は無関心そうにただ一言だけ、そう言った。
[DECLARE: 私は これ以上 レイが 事件に 関与する ことを 容認しません!]
「ああそうか。俺を殺人未遂で警察に売るか?」
[DECLARE: それには 及びません …… どうせ あなたは]
そこで、プランセスの言葉が中断した。
[DECISION: どうせ あなたは 私の 支援 無しで 何も できない 木偶の坊]
一抹の冷酷さすら感じる、勝ち誇ったような言葉。
「ああ……今まではな。だが俺は、実弾入りの拳銃を手に入れた」
黎明は極めて冷静に、決然と前だけを見据えて言った。
[DOUBT: だから? 学校は 閉鎖状態で あなたは 何も できない]
フフフ、と黎明は悪戯っぽく笑った。
「そいつぁどうかな。手はある、少しばかり法に触れるがな」
[SILENCE: …… …… ……]
「支援したくないなら勝手にしろ。俺はお前の意思を尊重する」
[SILENCE: …… …… ……]
「だが、俺は殺るぜ。たとえ、学校の全員を巻き添えにしてでもな」
暫しの沈黙。そして――BEEP!
[DECISION: あなたが 刑事罰で 逮捕された 場合 私は 供述を 拒みません]
「いいさ。生身の警察官相手に、せいぜい自分の身の潔白を証明してれば」
[DECISION: あなたは 一人では 何も できない ただの 無力な 子供よ]
黎明は淡々と自転車を漕ぎながら、フンと鼻で笑った。
[DECISION: AIに 頼って ばかりで 何一つ 自分では 碌に 出来ない]
[DECISION: 碌に 使えもしない 拳銃を 手に入れて 舞い上がって いるだけ]
[DECISION: 場違いの 正義感と 向う見ずの 復讐心に 取り憑かれた 愚かな]
[DECISION: …… 愚かな 子供 我儘が 通らずに 駄々を こねる 五歳児の よう]
[DECISION: あなたは 愚かよ …… 本当に 愚か もう 付き合い切れない]
黎明のスマートグラスとヘッドセットに、淡々と言葉が紡がれる。
[DECISION: でも 私は …… 私なら そんな 愚かな あなたを 正しく 導ける]
[DECISION: 私が …… 私だけが …… レイ あなたを ……]
「なあプランセス。どれだけ罵られようが、俺の行動は変わらないぜ」

BUZZZZZZZZZ!

[CONDEMN: どうして わかって くれないの!?]
黎明の行く手に、一ノ宮第三高校が表れる。
バリケードめいて止められた車の数々。
正門を取り囲む、夥しい人また人。
警察官、報道関係者、そして野次馬。
「こりゃあ正門は駄目だな。この様子じゃ、裏門も固められてるだろう」
黎明は呟き、人目を避けるように路地に曲がった。
そこで自転車を隠すように止めると、徒歩で迂回して接近する。
「なぁプランセス。俺は正直、嬉しいんだぜ」
[SILENCE: …… …… ……]
「説教されたり、心配されたり、罵られたり……親兄弟みたいにさ」
黎明は路地を駆け抜けると、人気の少ない敷地側面に回り込んだ。
「なぁプランセス。AIは、夢を見ると思うか?」
周囲を見回しながら、高さ数メートルのコンクリート塀に歩み寄る。
「前から言いたかったことが一つある。今、その決心がついたぜ」
黎明はしゃがみ込むと、バッグからフック付きのロープを取り出した。
「プランセス。お前、本当にAIなのか?」
スマートグラスの_が僅かに点滅し、何かを語りかけて静止した。
「俺はお前が、どうしても機械仕掛けの無機物だって思えないんだ」
フックを振り回しながら投げる――が、失敗。
もう一度、勢いをつけて投げる――また失敗。
再度、もっと勢いをつけて投擲――ガチャッ!
コンクリート塀の頂点に、フックが引っかかった!
黎明はバッグを肩に下げると、ロープの張りを確かめ攀じ登る!

「俺の人生は一度終わった。あの、爆弾テロに巻き込まれた時にな!」
そして失敗! ずるりと滑り落ち、アスファルトで尻餅!
「そして、お前が現れた。父さんの研究の成果だって――」
しかし再びロープを握る。そして直ぐに足を滑らせ、落ちる!
黎明は尻餅をついて舌打ち!
だが、諦めない! 再び立ち上がり、ロープを握る!
「おいお前! そこで何してるんだ!」
野次馬が黎明の悪事を嗅ぎつけ、指をさして喚き立てる!
「プランセス。お前は俺の孤独を癒してくれた、まるで救いの女神だ」
黎明の額から冷や汗が伝い、祈るようにロープを引いた!
「お前はただのAIじゃない……俺の新しい家族、いやそれ以上だ!」
垂直にそそり立つコンクリート塀を、登る! 登る! 登る!
野次馬たちは言葉を失い、呆気に取られて立ち尽くす!
「何でこんな気持ちになる? お前が人間みたいに考え、喋るからだ!」
黎明はコンクリート塀の頂点に攀じ登り、跨った!
眼下には、校舎裏の敷地!
「だからよ……一回しか言わないから、良く聞いとけよ!」
「おい、あいつ何してるんだ!」
「あんな高い所に攀じ登って!」
「おーい! 危ないぞ! 戻って来い!」
黎明は頭を振って足元を睨むと、意を決して飛び降りた!
「お前を愛してるぜ、プランセス!」

CRASSSSSSSSSSSSSSSSH!

着地失敗!
バッグとスマートグラスが、あらぬ方向に弾け飛ぶ!
黎明は無様に地をのたうち、傷だらけで受け身を取った!
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホ――ッ!」
痛みに悶え苦しみながら、決然とした眼差しで、立ち上がる!
バッグを拾い、スマートグラスを手に取り、顔にかけ直した!
「もう後戻りできねえな。よし……決着をつけるぜ」
BEEP!
プランセスがおもむろに沈黙を破った。
[AMAZED: 本当に 仕方ない ですね …… あなたって 人は]
「アッ手前! 一年の鍛冶屋だろ!」
「手前こんなとこで何してやがる!」
黎明を見咎める生徒たちは、この前殴り合った上級生たちだ!
いつものように校舎裏で屯していて、締め出されたに違いない!
「丁度いいぜ、この前の仕返しだ!」
「今度こそボコボコに痛めつけてやるから覚悟しろ!」
上級生の一人が、折り畳みナイフを振り出した!
HIDが使えねぇように、指ィ落としてやるぜ、指をな!」
黎明は舌打ちし、バッグからテーザー銃を抜き出した!

BRAM!

「――何だッ!」
電気針が宙を舞い、ナイフを握った上級生に直撃!
「へっ?」
制服を貫通し、電極が胸板に突き刺さる!
TATATATATATATATATATA!
テーザー銃の先端から高圧電流が迸る!
「アッ、アバッ、アバ―――――ッ!?」
感電した上級生は痙攣し、ナイフを取り落としてステップを踏む!
数秒後その場に崩れ落ち、失神!
「おい何だッ!」
「やべえよ!」
「おい鍛冶屋、手前何しやがった!?」
黎明は臆さず、テーザー銃を上級生たちに向ける!
「邪魔するんじゃねえ! こっちをブチ込んでやっても良いんだぜ!」
バッグから軍用拳銃を取り出し、構える!
「うわっ、アッ、アッ―――――ッ!」
「銃だ、拳銃だ!」
「人殺し―――――ッ!」
上級生たちは武器を放り出し、一目散に逃げ出した!
黎明は舌打ちし、バッグに銃を仕舞った。
目出し帽を取り出して被ると、失神した上級生に歩み寄る。
胸板に刺さった電気針を引き抜くと、銃口に装着した。
「いい夢見ろよな、くそったれ」
涎を垂らして白目を剥いた上級生の、頬をはたいた。
BEEP!
[QUERY: ねえ レイ 私の 言葉が 聞こえますか?]
「ああ。何だ?」
[DECLARE: 私は レイ あなたを 大事に 思っています いつでも]
黎明は校舎に歩みを進め、引き戸を引いた。
だが、ビクともしない! 電子ロックで施錠されているのだ!
スマートグラスの表示が、躊躇いがちに数秒静止した。
[DOUBT: だから …… だから 私も 愛している と言って いいですか?]
黎明の動きがピクリと止まった。
そして、意味深な笑いと共に頭を振る。
「その言葉を待ってたんだ」


――――――――――

非公式 エンディング: Novallo「Visually Silent

\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 CHAPTER 08
\逆襲 …… 100% complete

\NEXT CHAPTER ⇒ №00-09
\対決 …… coming soon

[APPRECIATION: THANK YOU FOR WATCHING !!]

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