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黎明の01フロンティア №00-LAST

№00-09 後編 より続く

\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 LAST CHAPTER
\終局

――――――――――

「やれやれ……随分とまた、派手にやってくれたようだね」
「その声はッ――義父(とう)さん!?」
驚きの声とともに、黎明はベッドから身を起こした。

病室だ。
目の前には、義父・鍛治屋誉と、掛川原直仁が佇んでいた。
「起きたか、黎明くん」
誉は電子タバコを咥え、ケミカルリキッドを燻らせた。
直仁は、その姿に非難の一瞥をくれてから、黎明に向き直った。
「遂にお前も終わったな。鍛治屋黎明」
全身の銃創がズキリと疼痛を発し、黎明は苦笑いで応じた。
「後悔はしてねえよ」
「フン……口の減らねえ野郎だ」
黎明は咄嗟に、ベッド脇のテーブルを手探って眉根を寄せた。
プランセスが居ない……いや、HIDが無い。
「プランセスは”何もかも”喋ってくれたよ……黎明くん。君の行いを」
黎明は諦めの表情で、溜め息と共にベッドに沈んだ。
「まあ、そうだろうね……そういう約束だったんだ。別に恨んじゃいないよ」
「君には失望したよ……黎明くん」
誉の言葉に、黎明は幾ばくかの違和感を覚えた。
しかし、次の瞬間頭を振って、笑った。
「済まなかった、義父さん」
直仁は傍らで肩をそびやかし、皮肉笑いと共に背を向けた。
「なあ、掛川原! 俺は一体、何年食らい込むんだ!」
誉と直仁は踵を返し、歩く……一歩、二歩。
「最後なんだ、掛川原! 教えていけよ!」
直仁の足が止まる。
顔だけがこちらを振り向き、黎明を尻目に見た。
「それには及ばないぜ……鍛治屋黎明」
言葉と共に、二人は病室の外の闇に消えた。

黎明は再び、違和感に顔をしかめた。
そして唐突に、無数の視線と息遣いを知覚した。
黎明の眼前に居並ぶ、無数の見舞人……見舞人?
顔は翳って見えないが、その姿は全員、女性であった。
「ご、ごめんなさいね……鍛治屋くん」
聞き覚えのある声が、見下ろす人々の中から黎明を呼んだ。
スーツ姿の女が、一歩進み出た。
窓の外の日差しに照らされ、顔の翳りが晴れる。
「……なんだ、剱持先生ですか。脅かさないでくださいよ」
担任教諭・剱持麻衣子は、引き攣った笑みで黎明を見た。
「ごめんなさい……」
「許して……」
「あなたに恨みはないの……」
「ありがとう……」
「ありがとう……」
「ありがとう……」
無数の言葉と共に、女たちが一歩踏み出した。
「……でも、ごめんなさい」
制服姿の女子生徒・左右田夏目が、言葉を締め括った。
「――な、何だ?」
黎明の戸惑いと、一瞬の静寂。
女たちは、半ば統制されたような動きで、懐から何かを取り出した。
薄暗い病室の中で煌めきを放つのは――白刃。
「ヒヒヒ……ヒヒヒ……クックック……」
聞き覚えのある薄笑い。
「アヒャ、アヒャヒャ……クハーハッハッハ!」
不快な高笑いと共に、靴音高く、歩み寄る男が一人。
「手前は――木暮! 木暮彌市!」
「お前の負けだ、鍛治屋黎明! ……そいつを殺せ」
女たちは手にした刃物を振り上げる。
「木暮ッ――」
黎明が言い終わるより早く、無数の刃物が、殺意を持って黎明を貫いた。
手足に胴体、首……そして顔面。
「ぐぼぁああああッ!?」
グッ、グッ、グッ……。
「ごめんなさい……」
女たちは突き刺した刃物に、殺意を持って体重をかけ、押し込んでいく。
「アヒャーッヒャヒャヒャ! 俺の! 俺の勝ちだ!」
木暮は、懐から取り出したHIDに口づけした。
(木暮……そいつは、俺の……ッ!?)
黎明は抗うように、右腕を伸ばした。
刃物を握った麻衣子は、歪な笑みで黎明の顔を覗き込んだ。
「私の……私達の、秘密を守るためなの。だから、殺すしかないのよ」
振り上げ、そして突き刺す。
「鍛冶屋くん……あなたを」
黎明の、額のど真ん中を。
(何でだ……お前たち、お前たちはもう、自由なんだ……俺が、俺が……)
頭蓋骨と脳を貫かれる痛みに、黎明は身悶えた。
(俺が、何もかも消し去った筈なのにッ……!)


「アアアアア―――――ッ!!!!!」
絶叫! 黎明は目を剥き、病床から身を起こす!
PEEP …… PEEP …… PEEP …… PEEP …… PEEP ……
集中治療室。
黎明の身体を繋ぐチューブ類と、周期的な電子音を放つ医療機器。
「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……!?」
黎明は怪訝な面持ちで、周囲を見渡した後、両手で顔を覆った。
心臓が早鐘を打つように、激しい動悸を続ける。
自動ドアが開く音。
見慣れぬスーツ姿の中年男数人が、黎明の元に歩み寄る。
明らかに年若い……文字通りの少年が、一歩進み出た。
「起きたか、鍛冶屋黎明」
掛川原直仁だ。
(ってことは……こいつら、警察ってワケだな)
「義父さんはどうしてる」
黎明は、咄嗟に脳裏に過ぎった疑問を口に出した。
「誉博士か……フムン。それより貴様は、貴様自身の心配を――」
直仁は、そこで黙して平手を出した。
何やら、病室の外が騒がしい。
「おい! お前たち、一体何の権限で――ッ!」
「邪魔デス! そこヲ、どきなさイ!」
自動ドアが開き、押し問答が漏れ聞こえた。
(妙なアクセントだな……外人か?)
取り巻く警官たちを振り払いながら、更に複数の闖入者。
(見舞客、ってワケじゃなさそうだぜ)
物々しい制服に身を包んだ、数人の職業軍人。
その姿に、直仁の背後に居並ぶ警官たちが気色ばんだ。
「何だお前ら! ここは警察の管轄だ! 今直ぐ出て行け!」
「我々ハ、日本警察の指図は受けまセン」
屈強な制服軍人は、澄まし顔で断言した。
言葉遣いは丁寧だが、抗弁を一切聞き入れない傲慢さがあった。
直仁は眉根を寄せて、背後を振り返った。
若白髪の白人男が、掛川原の前に一歩進み出た。
「現時刻を持っテ、彼の身柄はアメリカ合衆国の管理下におかれマス」
在日米軍が何の用だ!? 一体何の権限で!」
年季入りの中年警官が、拳を握って食い下がる。
「話は既に通してありマス。何ナラ、ご確認ヲ」
白人男は表情を変えず、鷹揚に肩を竦めて答えた。
直仁たちは舌打ちし、支給品のスマートウォッチを操作する。
「日米地位協定による、犯罪者の――身柄引き渡しだと!?」
「どういうことだッ!?」
「クソッ、上は何をやってるんだ!」
「合衆国の権益に関わる重大事項デス。速やかに、お引き取りヲ」
黎明はただ一人、双眸を細めて軍人たちを見据えた。
白人男は直仁を一瞥して鼻を鳴らし、黎明の前に歩み出た。
「コニチハ、レイメイ・カジヤ。我々の用件ハ、お解りデスネ?」
男の背後で、取り巻きの軍人たちが、直仁ら警官たちを追い出す。
直仁は苦虫を噛み潰したような表情で、最後に黎明を睨んだ。


白人男は、懐から軍人手帳を取り出し、開いて見せた。
「私ハ、アメリカ合衆国情報軍アジア方面司令部、司令部付隊、特殊検索群所属のブライアン・マコーネル准尉デス」
(軍人ってヤツは、どうしてこう肩書が長いのかねぇ)
黎明は冷たい無表情のまま、マコーネル中尉に相対した。
「レイメイ・カジヤ。あなたにハ、在日米情報軍内のPCへのクラッキング、並びに重度の機密を含んだ戦術資源――戦術的プログラムのことを、我々はそう呼んでいマス――を盗み出した容疑がかかっておりマス」
マコーネル中尉の背後に、取り巻きの軍人たちが整列する。
中尉はそれを肩越しに伺うと、黎明に視線を戻した。
「あなたの行為ハ、合衆国の権益(プロパティ)を不当に侵害スル、重大な違法行為でアリ、連邦法にヨリ、極めて厳格な処罰を受けマス」
黎明は溜め息まじりに、中尉の冷たい眼差しを真っ向から受け止めた。
「よっテ、貴方の身柄は現時刻を持って在日米軍基地内に移送の上デ、我々情報軍によっテ、尋問を受けることになりマス。貴方の罪状の重大さにより我々ハ、貴方が子供であろうト、一切手加減はしまセン」
(やれやれ、何れこうなるだろうとは思ってたが……)
黎明は無表情のまま沈黙して頷き、溜め息をこぼした。
中尉は咳払いすると、灰色の双眸を鋭く細める。
「先頃のテロデ、我々の保有する戦術資源が使用されタ、という調査報告がありましタ。貴方の自宅のPCハ、既に我々情報軍が押収済みデス。HIDハ、現段階では警察の掌握化にありますガ、引渡要請を出してありマス」
「義父さんは……鍛冶屋誉は、どうしてるんですか」
中尉は顎鬚を手でなぞり、視線を逸らして唸った。
「プロフェッサー・ホマレ……アー。彼もマタ、我々に尋問されることとなることとなるデショウ。在日本合衆国情報軍は、プロフェッサー・ホマレには多大なる協力を受けてオリ、非常に残念な話ではありますガ」
(何だって……義父さんが、在日米軍に協力だと!?)
黎明は、思わぬ新事実に目を見開いて驚いた。
思えば家族生活を初めてこの方、仕事の詳細を聞かされたことは無い。

唐突に徒労と無力感が押し寄せ、黎明はガクリと項垂れた。
「何にせよ、弁明する気はありません」
「あろうが無かろうガ、我々のやることは一切、変わりありまセン」
中尉は口角を上げ、冷ややかに断言した。
黎明は力なく何度も頷き、中尉と背後の軍人たちを見回す。
「……銃殺刑だろうが、終身刑だろうが、好きにすればいいさ」
中尉は、値踏みするような目で黎明を見据えて唸った。
「いい根性デス。最後に何カ、言い残したことはありませんカ?」
黎明は表情を引き締め、マコーネル中尉の顔を見つめた。
「俺のHIDAIナビゲータには、気を付けた方が良いですよ」
中尉の表情がその時、明らかに変化した。
Pomme Prisonnière……フムン、フランス語はどうにも発音しにくくテ、いけませんネ」
狼狽するのは黎明の方だった。
「あ、あんたたち、プランセスのことを――!」
「当然デス。あれは合衆国と日本が、共同で開発した物なのだかラ」
黎明の言葉を遮るように、中尉は言葉を続けた。
そして、中尉は意味深な笑みを浮かべた。
「実の所、我々もあれニ、多大なる興味を持っておりマス」

――――――――――

非公式 エンディング: Novallo「Angle of Perception

\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 LAST CHAPTER
\終局 …… 100% complete

\ORDER №00 …… 100% copmlete
\NEXT ORDER ⇒ №01 …… to be continued

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