![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/8471897/rectangle_large_type_2_ba4073adeda959c1c221f4e86fe188a9.jpg?width=1200)
黎明の01フロンティア №00-02
――――――――――
一ノ宮駅の4番ホームに溢れ返る、夥しい人また人。
華々しく舞い踊る紙吹雪。くす玉から飛び出す垂れ幕。
新型トラム1号車のお披露目式だ。
(やめろ……やめてくれ……)
トラムのボックス席に少年が立ち、歓声を上げて窓の外を見ている。
若い夫婦が隣に腰掛け、少年の様子を微笑んで見つめている。
一組の家族は、初運行の乗車権を、幸運にも手に入れた。
(もう嫌だ……もう見たくねえんだ……)
小学校1年生になって間もない時の出来事だった。
発車を知らせるベルが、ホームに鳴り響く。
トラムがゆっくりと走り出す。
(やめろ……やめろ……やめろ……)
BUZZZZZZZZZZZZ!
車内の電光版が、突如としてジャック映像に切り替わる。
『君たちと我々の 血塗れた地獄の門出を ここに祝して』
(頼む……お願いだ……これ以上はもう……)
『我々は誇り高き闘士』
CIK, TOK, CIK, TOK, CIK, TOK……
『我々の名は WORLD DOWNFALL』
CRA――TOOOOOOOOOOOOOM!!!!!!!
\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 CHAPTER 02
\学園
「あああああああああああああ゛ッ!!!!!」
鍛冶屋黎明(かじや・れいめい)は叫び、ベッドの上で半身を起こした。
PI-PI-PI! PI-PI-PI! PI-PI-PI!
枕元のテーブルで、黒縁の5インチ型HIDがアラームを響かせている。
「……ハァーッ! ハァーッ! ハァーッ!」
首の後ろの脊髄ユニットが、火花を散らすようにズキリと痛んだ。
黎明は反射的に手を伸ばし、HIDのアラームを停止させた。
[MORNING: おはようございます レイ いい夢が 見られましたか?]
黎明は口の端を吊り上げ、不穏な笑みを浮かべる。
……そう、これは夢だ。
分かっている、分かっているとも。
[<MASTER>: ああ……いい夢、見たぜ]
ソフトキーボードを滑らかに指がタップし、文章を入力した。
[RESPONSE: そう それは 良かったです]
HIDに実装された、AI「Pomme Prisonnière」は即座に応答する。
黎明はベッドの上で少し考え、文章を入力した。
[<MASTER>: 君はいい夢見たかい? プランセス」
有機EL画面に、数秒のタイムラグ。
[AFFECTION: レイ 私は いつでも 夢を 見ていますよ]
黎明は苦笑まじりに頭を振り、ベッドの三段ハシゴを飛び降りた。
[<MASTER>: やれやれ……まるで頓知だな]
[SECRET: …… …… フフフ]
黎明を乗せた自転車が、朝の通学路を駆け抜ける。
シャフトドライブは高周波めいた微音を発し、快調に回り続ける。
学生鞄が前カゴから突き出し、カタカタと揺れ動く。
[RECOMMEND: 自転車移動は 時間の 浪費かと]
左耳のヘッドセットで、中性的な合成音声が告げた。
「好きなんだよ、自転車。行き帰りでいい運動になるんだ」
[RECOMMEND: 二輪車は 事故遭遇 リスクを 飛躍的に 増大させます]
スマートグラスに、生々しい電光文字が流れた。
「おっと、赤信号か」
黎明は減速し、自転車をゆっくりと停止させた。
[INTEL: トラムを 使えば 安全かつ 通学時間を 理論上 15分 削減可能]
「知ってる。その話、何度目だ?」
黎明はヘッドセットを左手で押さえ、マイクに囁いた。
[QUERY: ではなぜ トラムを 使わないのですか?]
黎明は頭を振って、溜め息をこぼした。
「嫌いなんだよ……電車」
青信号。黎明はローギアでペダルを漕ぎ、走り出す。
背後から聞こえるエンジン音。
アウディのSUVが自転車に接近し、後部座席の窓ガラスが開いた。
「邪魔だ、ヴァーカ! ゆっくり走ってんなよ、貧乏人!」
学生服姿の少年が、胡乱な大声で囃し立てた。
同じクラスの社長令息・日當瀬將太(ひなたせ・しょうた)だ。
BUZZ!
プランセスは黎明の指示も無く、即座にカーナビをハッキングする。
…… ZAP!
[WARNING: 幅寄せ 運転は 道路交通法 により 禁止 されています]
「ウワッ何だ急に!」
お抱え運転手が、カーナビの電光文字に慌てふためく。
「ヴァーカヴァーカ貧乏人! トラムにも乗れねえ貧乏人~!」
將太の高笑いと共に、紺色のアウディが走り去っていく。
「ンッン~。いつ見ても、いい車乗ってんねェ」
[AMAZED: 感心してる 場合ですか!]
「見せびらかしのアホさ……放っとけ」
黎明は冷笑と共にシフトアップし、ペダルを漕ぐ足に力を込めた。
一ノ宮第三高校。
黎明は正門をくぐると、自転車置き場に向かった。
センタースタンドを立て、自転車のスマートロックを作動させる。
[LOCKING: 施錠完了 盗難防止装置 作動確認]
「了解。さて、今日も一日、頑張るか」
黎明はスマートグラスを外して畳み、ブレザーの内ポケットに納めた。
[VOICE ONLY: 御用が ある時は いつでも お呼びください]
「おうよ」
黎明は呟き、校舎の入口へと足を向けた。
教室へ続く廊下。
一人で歩く黎明の横を、生徒の大群が追い越した。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……。
長身の美少女を取り囲むように、10名弱の女子生徒が歩いていた。
中心を歩くのはクラスのマドンナ、旅川愛里沙(たびかわ・ありさ)。
剣道の有段者で、背筋の通った姿勢には凄味がある。
(まるで大名行列……いや、歩兵の一個小隊だな)
ザッ……!
愛里沙が立ち止まると、指揮官の号令めいて全員が立ち止まる。
戦国武将めいて、愛里沙が流し目で黎明を見据えた。
その鋭い表情は、迂闊なことを口走ったら叩っ切らんばかりだ。
「おはよう、鍛冶屋くん」
黎明は動ずることなく、その冷たい眼差しを真っ向から見返した。
「おはよう。旅川さん」
取り巻きの女子生徒たちが、敵意丸出しの視線で黎明を射抜いた。
愛里沙の真横に立つ美少女の眼差しは、一層厳しい。
彼女の盟友で、剣道部の僚友・午頭芽依(ごとう・めい)だ。
愛里沙の派閥は、取り巻きが武道を嗜む者ばかりという点で特異だった。
(やれやれ。物騒な連中だゼ)
黎明は無言で肩を竦め、「旅川一家」の行脚を見送った。
1年A組。教室の引き戸を引き開け、黎明は自分の席に向かう。
「おい! 貧乏人のお出ましだぜ!」
「ヒョホー!」
「貧乏人! 貧乏人!」
「自転車通学は楽しいでちゅかー?」
教室の片隅で、將太と取り巻きたちが喚声を上げた。
黎明は彼らを一睨みすると、冷ややかに鼻で笑う。
「おい、お前ら止めろよ!」
一際騒々しい声が教室に反響する。
クラス1の人気者を自称する、江熊匡平(えぐま・きょうへい)だ。
匡平は数人の取り巻きを伴って、素早く黎明に歩み寄った。
「なあ鍛冶屋、新しい『挑戦』を思いついたんだけど――」
「また今度な」
黎明は匡平らに苦笑を返し、勧誘の手をひらりと躱した。
『挑戦』とは、匡平らの一派が企てる悪戯・迷惑行為のことだ。
彼はあらゆる人に迷惑を撒き散らす、言わば厄病神。
関われば碌なことが無い。
『金持ち』の將太。
『美少女』の愛里沙。
『人気者』の匡平。
それらが、1年A組を三分する派閥(クラスタ)だ。
(お宅らの派閥争いなんかにゃ興味ねぇんだよ……)
匡平の取り巻きの冷ややかな視線を背に、黎明は席に着いた。
入学から2ケ月。
1年A組は、着々とクラスの秩序を確立しつつあった。
関わりたくないというのが、黎明の偽らざる本音だった。
黎明は、今までの人生で常にはぐれ者だった。
\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 CHAPTER 02
\序章 …… 100% complete
\NEXT CHAPTER ⇒ №00-03
\予兆 …… coming soon
[APPRECIATION: THANK YOU FOR WATCHING !!]
頂いた投げ銭は、世界中の奇妙アイテムの収集に使わせていただきます。 メールアドレス & PayPal 窓口 ⇒ slautercult@gmail.com Amazon 窓口 ⇒ https://bit.ly/2XXZdS7