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黎明の01フロンティア №00-02

№00-01 序章 より続く

――――――――――

一ノ宮駅の4番ホームに溢れ返る、夥しい人また人。
華々しく舞い踊る紙吹雪。くす玉から飛び出す垂れ幕。
新型トラム1号車のお披露目式だ。
(やめろ……やめてくれ……)

トラムのボックス席に少年が立ち、歓声を上げて窓の外を見ている。
若い夫婦が隣に腰掛け、少年の様子を微笑んで見つめている。
一組の家族は、初運行の乗車権を、幸運にも手に入れた。
(もう嫌だ……もう見たくねえんだ……)

小学校1年生になって間もない時の出来事だった。
発車を知らせるベルが、ホームに鳴り響く。
トラムがゆっくりと走り出す。
(やめろ……やめろ……やめろ……)

BUZZZZZZZZZZZZ!
車内の電光版が、突如としてジャック映像に切り替わる。
『君たちと我々の 血塗れた地獄の門出を ここに祝して』
(頼む……お願いだ……これ以上はもう……)

『我々は誇り高き闘士』
CIK, TOK, CIK, TOK,
 CIK, TOK…… 
『我々の名は WORLD DOWNFALL』
CRA――TOOOOOOOOOOOOOM!!!!!!!


\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 CHAPTER 02
\学園


「あああああああああああああ゛ッ!!!!!」
鍛冶屋黎明(かじや・れいめい)は叫び、ベッドの上で半身を起こした。
PI-PI-PI! PI-PI-PI! PI-PI-PI!

枕元のテーブルで、黒縁の5インチ型HIDがアラームを響かせている。
「……ハァーッ! ハァーッ! ハァーッ!」
首の後ろの脊髄ユニットが、火花を散らすようにズキリと痛んだ。
黎明は反射的に手を伸ばし、HIDのアラームを停止させた。

[MORNING: おはようございます レイ いい夢が 見られましたか?]
黎明は口の端を吊り上げ、不穏な笑みを浮かべる。
……そう、これは夢だ。
分かっている、分かっているとも。
[<MASTER>: ああ……いい夢、見たぜ]
ソフトキーボードを滑らかに指がタップし、文章を入力した。
[RESPONSE: そう それは 良かったです]
HIDに実装された、AI「Pomme Prisonnière」は即座に応答する。
黎明はベッドの上で少し考え、文章を入力した。
[<MASTER>: 君はいい夢見たかい? プランセス」
有機EL画面に、数秒のタイムラグ。
[AFFECTION: レイ 私は いつでも 夢を 見ていますよ]
黎明は苦笑まじりに頭を振り、ベッドの三段ハシゴを飛び降りた。
[<MASTER>: やれやれ……まるで頓知だな]
[SECRET: …… …… フフフ]

黎明を乗せた自転車が、朝の通学路を駆け抜ける。
シャフトドライブは高周波めいた微音を発し、快調に回り続ける。
学生鞄が前カゴから突き出し、カタカタと揺れ動く。
[RECOMMEND: 自転車移動は 時間の 浪費かと]
左耳のヘッドセットで、中性的な合成音声が告げた。
「好きなんだよ、自転車。行き帰りでいい運動になるんだ」
[RECOMMEND: 二輪車は 事故遭遇 リスクを 飛躍的に 増大させます]
スマートグラスに、生々しい電光文字が流れた。
「おっと、赤信号か」
黎明は減速し、自転車をゆっくりと停止させた。
[INTEL: トラムを 使えば 安全かつ 通学時間を 理論上 15分 削減可能]
「知ってる。その話、何度目だ?」
黎明はヘッドセットを左手で押さえ、マイクに囁いた。
[QUERY: ではなぜ トラムを 使わないのですか?]
黎明は頭を振って、溜め息をこぼした。
「嫌いなんだよ……電車」
青信号。黎明はローギアでペダルを漕ぎ、走り出す。

背後から聞こえるエンジン音。
アウディのSUVが自転車に接近し、後部座席の窓ガラスが開いた。
「邪魔だ、ヴァーカ! ゆっくり走ってんなよ、貧乏人!」
学生服姿の少年が、胡乱な大声で囃し立てた。
同じクラスの社長令息・日當瀬將太(ひなたせ・しょうた)だ。
BUZZ!
プランセスは黎明の指示も無く、即座にカーナビをハッキングする。
…… ZAP!
[WARNING: 幅寄せ 運転は 道路交通法 により 禁止 されています]
「ウワッ何だ急に!」
お抱え運転手が、カーナビの電光文字に慌てふためく。
「ヴァーカヴァーカ貧乏人! トラムにも乗れねえ貧乏人~!」
將太の高笑いと共に、紺色のアウディが走り去っていく。
「ンッン~。いつ見ても、いい車乗ってんねェ」
[AMAZED: 感心してる 場合ですか!]
「見せびらかしのアホさ……放っとけ」
黎明は冷笑と共にシフトアップし、ペダルを漕ぐ足に力を込めた。

一ノ宮第三高校。
黎明は正門をくぐると、自転車置き場に向かった。
センタースタンドを立て、自転車のスマートロックを作動させる。
[LOCKING: 施錠完了 盗難防止装置 作動確認]
「了解。さて、今日も一日、頑張るか」
黎明はスマートグラスを外して畳み、ブレザーの内ポケットに納めた。
[VOICE ONLY: 御用が ある時は いつでも お呼びください]
「おうよ」
黎明は呟き、校舎の入口へと足を向けた。

教室へ続く廊下。
一人で歩く黎明の横を、生徒の大群が追い越した。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……。
長身の美少女を取り囲むように、10名弱の女子生徒が歩いていた。
中心を歩くのはクラスのマドンナ、旅川愛里沙(たびかわ・ありさ)。
剣道の有段者で、背筋の通った姿勢には凄味がある。
(まるで大名行列……いや、歩兵の一個小隊だな)
ザッ……!
愛里沙が立ち止まると、指揮官の号令めいて全員が立ち止まる。
戦国武将めいて、愛里沙が流し目で黎明を見据えた。
その鋭い表情は、迂闊なことを口走ったら叩っ切らんばかりだ。
「おはよう、鍛冶屋くん」
黎明は動ずることなく、その冷たい眼差しを真っ向から見返した。
「おはよう。旅川さん」
取り巻きの女子生徒たちが、敵意丸出しの視線で黎明を射抜いた。
愛里沙の真横に立つ美少女の眼差しは、一層厳しい。
彼女の盟友で、剣道部の僚友・午頭芽依(ごとう・めい)だ。
愛里沙の派閥は、取り巻きが武道を嗜む者ばかりという点で特異だった。
(やれやれ。物騒な連中だゼ)
黎明は無言で肩を竦め、「旅川一家」の行脚を見送った。

1年A組。教室の引き戸を引き開け、黎明は自分の席に向かう。
「おい! 貧乏人のお出ましだぜ!」
「ヒョホー!」
「貧乏人! 貧乏人!」
「自転車通学は楽しいでちゅかー?」
教室の片隅で、將太と取り巻きたちが喚声を上げた。
黎明は彼らを一睨みすると、冷ややかに鼻で笑う。
「おい、お前ら止めろよ!」
一際騒々しい声が教室に反響する。
クラス1の人気者を自称する、江熊匡平(えぐま・きょうへい)だ。
匡平は数人の取り巻きを伴って、素早く黎明に歩み寄った。
「なあ鍛冶屋、新しい『挑戦』を思いついたんだけど――」
「また今度な」
黎明は匡平らに苦笑を返し、勧誘の手をひらりと躱した。
『挑戦』とは、匡平らの一派が企てる悪戯・迷惑行為のことだ。
彼はあらゆる人に迷惑を撒き散らす、言わば厄病神。
関われば碌なことが無い。

『金持ち』の將太。
『美少女』の愛里沙。
『人気者』の匡平。
それらが、1年A組を三分する派閥(クラスタ)だ。
(お宅らの派閥争いなんかにゃ興味ねぇんだよ……)
匡平の取り巻きの冷ややかな視線を背に、黎明は席に着いた。
入学から2ケ月。
1年A組は、着々とクラスの秩序を確立しつつあった。
関わりたくないというのが、黎明の偽らざる本音だった。
黎明は、今までの人生で常にはぐれ者だった。

\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 CHAPTER 02
\序章 …… 100% complete

\NEXT CHAPTER ⇒ №00-03
\予兆 …… coming soon

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