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黎明の01フロンティア №00-07 前編

№00-06 より続く

――――――――――

啜り泣きと共に凌辱される女性の動画を見ながら、男は愉悦する。
撮影したのは、他ならぬ男自身だ。
この情報化社会では、情報の流出は何より恐ろしい生き地獄。
暴き出した秘密は、芋づる式に新たな財産を産み出す。
……しかし彼の「ビジネス」を邪魔する者がいる。
【検索:鍛冶屋 黎明】
ネット新聞のアーカイブと共に、内部リークされた動画。
【再生:動画 ミラーリンク】
「……へえ~……ふうーん……成る程ねェ……」
男の顔が、嗜虐的な愉悦に染まる。
「見つけたぜ、お前の弱点」
BEEP! BEEP! BEEP!
暗号化されたネット電話の呼び出しだ。
PC画面の片隅に表示されたその名は――
『World Downfall』


\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 CHAPTER 07
\追跡

非公式 オープニング: Novallo「Angle of Perception

――――――――――

2時限目、1年A組は数学の授業中。
BUZZ!

[ALERT: 不正接続を 感知! ハッキングの 可能性あり!]
プランセスが、本日3回目のクラックアウト警報!
(またか! 一体何なんだ!)
[CLEAR: ミートクリーバー 隔離 …… 接続切断 逃げられました] 
黎明のスマートデスクに、淡々と報告が表示される。
ピンポンダッシュかよ……ったく)
最近、監視するような視線を、そこかしこで感じる。
教室最前列の、横山多計夫を見遣った。
先日の乱闘騒ぎ以来、多計夫はすっかり大人しくしている。
脅威は去ったかに思えたが……蓋を開けてみれば、この始末だ。


「やあ、君は確か……」
「鍛冶屋です」
「そう! 鍛冶屋くん」
休み時間、黎明は教育実習生・木暮と顔を合わせた。
「最近、先生の『呼び出し』はご無沙汰のようだね!」
「はぁ……まぁ、何事も起こらないのが一番ですよ」
木暮は笑いの張り付いた顔で、双眸を細めた。
BUZZ!
[ALERT: 不正接続を 感知! ハッキングの 恐れあり!]
ヘッドセット越しの警報に、黎明は顔を歪めて舌打ち。
「おや? どうしたんだい、何か心配ごとでも?」
[CLEAR: ブッチャーズフック 隔離 …… 接続切断]
「いえ。何でもありませんよ、先生」
「いやぁ!『先生』だなんて照れるなァ!」
「最近は、ハッキング遊びが流行ってていけませんね」
木暮のスカした笑いが止まる。
「誰か、インスタントにハックできるウィルスでもばら撒いてるのかも」
「はぁー。そりゃあまあー、大変だねぇー」
黎明は木暮を見つめ、口角を上げた。
「先生も、HIDのセキュリティだけは、用心した方が良いですよ」
「そうだねぇ。ニュースとか見るとさー、本当怖いよねー」
「じゃ、俺は授業がありますんで、これで」
「頑張ってねぇー」
木暮は黎明の背中を、凍りついた笑みで見送った。
「……本当にこれで良いんですか……先生」
物陰から、一人の女子生徒が表れ、木暮に問うた。
「お前は黙って、俺の言うことを聞いてりゃいいんだよ」
「……はい」


3時限目は理科の選択科目。
化学実験室は、第1校舎の3階、突き当たりの部屋だ。
「……それじゃあ各自、バーナーに点火して実験開始!」
数人ずつの班に分かれ、試験管をバーナーで加熱する。
黎明の班は、派閥に属さない者たちのはぐれ者グループだ。
「あれ? ……あれ? おかしいな?」
同じ班の男子生徒、幟建哲久(のぼりたて・あきひさ)が首を傾げた。
「どうしたのさ」
哲久と仲が良い、因貴信(ちなみ・たかのぶ)が口を挟んだ。
「いやさ、バーナーが点かないんだよ」
「ヘッタクソ。ちょっと貸してみ?」
「うーん、ガスは出てると思うんだけど……」
カチッ……カチッ……。
「何か、火花が出てないっぽい?」
黎明は同じ卓上で、その光景に危なっかしい物を感じていた。
「なぁー鍛冶屋くん! ちょっち、試してくれない?」
「おう」
黎明は頷くと、哲久と貴信の間に入った。
テーブルの反対側で、紅一点の女子生徒が無言で成り行きを見つめる。
彼女の名前は……確か、左右田夏目(そうだ・なつめ)。
黎明は滞留したガスを吹き飛ばそうとしたが、躊躇した。
バーナーの電子スイッチに手を伸ばす。
BUZZ!
[ALERT: 不正接続を 感知! ハッキングの――]
(何だ、こんな時にッ!)
バチッ――FVOOO!!!!!
突然噴き上がった火柱が、黎明の顔と前髪を焙った!
「「ウワッ!」」
黎明の隣で、哲久と貴信が同時にたじろぐ!
「大丈夫か、鍛冶屋くん!?」
「あぁ……今のはちょっと危なかったがな。心配無い」
黎明は哲久と貴信を交互に見て、頷きかけた。
夏目はテーブルの反対側で、その光景を無感情に見つめていた。

\前編終了
\黎明の01フロンティア

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