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黎明の01フロンティア №00-03 後編

(筆者注・この記事は2018/11/12 18:05に、前・後編に分割されました
№00-03 前編 より続く

――――――――――

\後半開始
\黎明の01フロンティア

一ノ宮第三高校・A棟。2階東側、第1職員室。
「失礼します」
入室した黎明に、岸川が遠くから、フランクに片手を振った。
「あーキタキタ、待ってたよ鍛冶屋くん」
教員用サーバの前で、数人の教師が立ち尽くしている。
「よっ、鍛冶屋先生! おつかれさーん!」
落ち武者ヘアーの第1教頭、新喜光春(しんき・みつはる)が陽気に言う。
「またすか。日当、出ませんかね?」
「ハッハッハ! 子供の内から、あんまり金・金って言っちゃ駄目だぞ!」
新喜教頭がからからと笑い、黎明の肩をばしばしと叩いた。
(いってぇ……このクソジジイ)
黎明は心中毒づくと、胸ポケットのスマートグラスを引き出した。

「仕事だ、プランセス」
[STANDBY: レイ お呼びですか!]
「職員室サーバの修復作業。これもう何度目だ」
[QUERY: 今月に 入って 3回目 です …… 内部に 侵入者の 疑い 濃厚]
(だよな……幾らなんでも、このペースはおかしいぜ)
「いやーははは。良く解らないんだけど、何か最近調子悪くてサ!」
背後で見物する、暢気なオッサン連中は無視する。
「仕事はいつも通り。取り敢えずスキャンしてリブートだな。頼むぜ」
[READY: 了解 HID 接続待機]
「よっ、社長日本一! 頼りになるねえ!」
懐からHIDを取り出すと、プロ仕様の高級ケーブルでサーバと接続した。
[CONNECT: 接続確認 …… パスコード入力 …… !?]
BUZZ!
[ERROR: ログイン拒絶 <理由:パスコード 不適合> ]
「おい待てよ、パスは正規の教師権限だぞ。接続できねえってのか!?」
[CONNECT: 接続再試行 …… ログイン拒絶 <理由:パスコード 不適合>]
(何だってんだ。誰か勝手に、パスを書き換えやがったのか?)
黎明は眉根を寄せ、不機嫌に舌打ちした。

「どうしたんだい? えーと……」
黎明の背後から、白髪の国語教諭・亜門新吉(あもん・しんきち)が問う。
「鍛冶屋です」
「ああ、鍛冶屋くん。何があったんだい」
「誰か、サーバパスワードを書き換えた人は居ませんか?」
教師たちが唸り、考え込む。
「これに触れるのは……パソコン担当の沓間(くつま)先生ぐらいだろ?」
「あーそう。でも沓間くん、交通事故の怪我で長期入院中でしょ?」
「ですよねぇ。生憎、ボクらはこういうのはサッパリで」
(やっぱおかしいぜ。こいつはマジに、内部犯の仕業が臭ぇな……)
「よし、わかったぜ。プランセス、”マスターキーを使え”」
[AMAZED: "勝手口"を 使うんですか? 設置が 発覚したら 怒られますよ?]
「この際、已むを得んだろ」
[DETOUR: 了解 …… ロック ストック & 2 スモーキング バレル …… 展開]
「……ところで、鍛冶屋くんは一体誰と話をしてるのかね?」
「なんでもエーアイなんとか……が、喋れるんだそうですよ」
「鍛冶屋くんのケータイには、きっと妖精が住んでるんだな!」
「「「アッハッハッハッハ!」」」
(うるせえ……もう消えるか、黙ってるかしてろよな)

「おや、先生方。もう少しで授業時間ですよ? どうしたんですか」
「おぅおぅ、いい所に来たね木暮くん! 君もちょっと見てくれよ!」
「はぁ……」
戸惑いがちに頭をかきながら、一人の青年が姿を現した。
[CONNECTED: 接続完了 サーバ 停止 全パーティション スキャン 開始]
「おや、何で生徒なんかがサーバを触ってるんです?」
青年の言葉には、冷笑と侮蔑が見え隠れしていた。
黎明は青年に一瞥もくれず、冷ややかに鼻を鳴らした。
「生徒の分際でただ働きですよ。何なら先生、変わってもらえませんか?」
教育実習生・木暮彌市(こぐれ・やいち)が、先輩教師の顔を見回す。
「え……え? あ、いやぁ……僕は、そういうのは、うん、ちょっと」
(できねえなら、偉そうにつべこべ言うな、くそったれ!)
木暮は黎明の背後で、へらへらと笑いながら頭をかいた。
「どうだ? プランセス」
[ANALYSE: 現在 スキャン中 …… データ 異常 確認 現在 1256]
「良くねえな。つーか何か、前より段々増えてきてねえか?」
[ANALYSE: 1回目 201 / 2回目 637 / 3回目 現在 1309 / 明らかに 増殖]
(誰だ……こうまで執拗に攻撃し続けるヤツ……絶対何かあるぜ)
「うわー、凄いねえこれ。君、こういうの得意なんだ?」
「鍛冶屋です。得意とは違います。俺より腕利きなら幾らでもいる」
「謙遜だね、鍛冶屋くん。将来の夢はプログラマかな?」
「フ、まさか」
木暮は肩透かしを食って苦笑い。
「えーそうなんだ意外。それで、君、これ治せるの?」
「断言はできません。恐らく、まだ対処可能な範囲かと」
「そうだぞ! 何たって、鍛冶屋くんはパソコン博士だからな!」
「ナッハッハッハッハ!」

[ANALYSE: …… スキャン 終了 / 総数 5145368967 / 異常 1389]
「よし、取り敢えずセーフモードでリブート。修復はそっからだ」
[REBOOT: 了解 全接続遮断 セーフモード 設定 サーバ 再起動]
「へえ~手慣れてるねえ。今までも、君が直してくれたの?」
黎明の動きがピタリと止まった。
まるでホラー映画の幽霊のように、緩慢な動きで背後を振り返る。
「……!?」
木暮の薄ら笑いが凍りついた。
肩越しに木暮を見据える視線は、野生動物めいた殺気を放っていた。
「ええ、まあ一応。ただ……」
黎明は瞬き一つせず、良く通る声でゆっくりと問い返した。
「……え? なに、なに? どうしちゃったの急に」
木暮は、その曖昧さを許さない「視線」に固唾を飲む。
「どうして、俺が今までも直してたって、思ったんですかね?」
背後では、職員用サーバがセーフモードで再起動した。
木暮はもはや薄笑いを止めて、口を半開きで黎明を見返す。

[ANALYSE: 不良データ 検索 …… 呆れた ピープホール だらけですね]
黎明はサーバに向き直り、ディスプレイで進捗を確認する。
「おったまげるぜ。よくもまあ、こんなに沢山仕込んだもんだ……」
[AGREEMENT: 同感です 不良データ 隔離 パスコード 再設定 します]
「よし。もう少しだが……授業時間は、とっくに始まっちまってるな」
そう言って、黎明は背後の教師たちを振り返った。
「ン、ああ! 大丈夫大丈夫! 黎明くん、これ出席扱いだからね!」
「なーに、心配するな!」
新喜教頭が、嬉しそうに笑って黎明の肩を叩く。
(当然だ。授業内容を聞けてねえ分が痛いぜ……時間、返せよな)
「あっ、そうだ! 授業授業!」
「マズイですよ亜門先生!」
「じゃあそういうことだから、黎明くん、あとお願いね!」
教諭たちは慌てた様子で、足早に職員室を去っていく。
(この……クソジジイどもが……)
最後に職員室を出る木暮が、去り際に黎明を一瞥し……笑った。
冷ややかな笑いだった。

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【非公式 エンディング: Novallo「Visually Silent」】

\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 CHAPTER 03
\予兆 …… 100% complete

\NEXT CHAPTER ⇒ №00-04
\決闘 …… coming soon

[APPRECIATION: THANK YOU FOR WATCHING !!]

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