黎明の01フロンティア №00-05 後編

本文は 2018/11/15 20:45 に 全文 修正 されました

№00-05 前編 より続く

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\後半開始
\黎明の01フロンティア

その時、黎明の視界であらゆる物が、スローモーションとなった。
荒れ果てた店内を、逃げ惑う人々。
暴走車に轢かれた被害女性に、しがみついて揺さぶる友人の女性。
遠くで泣き叫ぶ女の子。
更に遠く――割れた窓ガラスの向こう側、カメラアイを構える人々。
(くそったれ……くそったれ……救急車は、まだ来ねえのか!)
黎明は立ち竦んだまま、思考がスパークする。
(ちくしょう……ちくしょう……何で誰も、助けに来ねえんだ!)
黎明は、血が滲むほど強く、唇を噛み締めた。
[DANGER: 探査ウィルス 感知 警察車両 接近中 離脱を 強く 推奨します]
「馬鹿野郎! だったら……こいつは誰が助けるんだよッ!」
[SILENT: …… …… ……]
「ちくしょう!」
黎明は我に返って悪態をつくと、足元で泣き叫ぶ女性に屈み込んだ。
「あああああ゛! 千恵美ぃいいいい゛!」
「おい! ……おい、お前! 救命措置の邪魔だ! ちょっと離れてろ!」
「あああああ゛!!!!!」
女性の肩に手を触れると、女性は半狂乱で髪を振り乱して抵抗した。
舌打ちと共に、黎明の堪忍袋がプツンと切れた。
「こんのバッカ野郎! 落ち着けってんだ!」
女性の胸倉を引き寄せると、平手で強く頬を這った。
「友達が死んじまってもいいのか!? 助けたけりゃ、大人しくしてろ!」
女性は焦点の定まらない目で、黎明の顔を見るともなく見た。
それから黎明の手を振り払うと、蹲って啜り泣きを始める。
(くそったれ……大事なところで泣きやがって。だから女は嫌いなんだぜ!)
黎明は心中毒づき、手足がひん曲がった被害女性と対峙した。
そのおぞましい姿は、全身を凍りつくような恐怖に駆り立てる。
(ちくしょう……まだ死んでねえよな……生きてるよな……頼むぜ!)

被害女性の口元に頭を寄せて、気道を確保して呼吸確認。
同時に頸動脈に指を当て、脈拍確認。
「拙いな。呼吸も脈も、どっちもしてやがらねえ!」
BUZZ!
[INTEL: 丸めた 衣服等を 後頭部に 挟み 顎を 上げて 気道が 確保できます]
スマートグラスに、文字と簡易画像が表示された。
黎明はハッとして、周囲に撒き散らされた衣服を手に取る。
(悪いな……使わせてもらうぜ)
被害女性の後頭部に、丸めた衣服を枕として噛ませた。
[INTEL: 直ちに 心臓 マッサージ 開始 してください 目安 100 ~ 120回 / 分]
黎明は両手を構えて一瞬躊躇したが、覚悟を決めて押下し始める。
[INTEL: 押下量 目安 体表から 5cm 程度 …… AED の使用を 強く 推奨します]
「畜生。そんなもんどこにあるんだ!」
黎明は舌打ちし、心臓マッサージを続けた。
「……おい、そこで泣いてるお前! こいつの友達なんだろう!」
黎明は被害女性を注視しながら、背後で泣き続ける女性に声をかけた。
AEDだ! AEDを持ってきてくれ! 頼む! ……なぁ、聞いてるか!」
女性のくぐもった泣き声が、しゃくりあげるような声に変わった。
「ブン殴っちまって悪かった! 今はあんたが頼りだ! AEDを頼む!」
(畜生……救急隊員はまだなのか!?)
「シマッタ! 人工呼吸を忘れてたぜ!」
黎明が毒づき、一瞬心臓マッサージの手が止まった。
BUZZ!
[DANGER: 心臓マッサージ 最優先事項です 止めては いけません]
「ああそうかよ、ちくしょう!」
黎明は状況判断し、心臓マッサージを継続した。
(目の前で女に死なれたら……一生夢に出るぜ!)
「折れた手足は……医者が治せる! 俺は脊髄を治してもらったんだぜ!」
祈るような叫びと共に、黎明は両腕を押し続ける。
(悪夢はもう……ゴメンなんだ!)
「だから頼むよ! 生きてさえいれば! ……くそっ、死ぬんじゃねえぞ!」

BEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEP!!!!!
遠くに響くサイレン!
やがて屋外の雑踏を掻き分け、白衣の救急隊が先陣を切って突入する!
「おい! ……おい、こっちだ! 誰でもいい! こいつを助けてくれ!」
殆ど絶叫に近い大声で、黎明は救急隊を呼んだ。
無数の足音が激しく叩きつけ、黎明の元にも救急隊員の姿が!
「大丈夫ですか!」
「心臓マッサージは続けてるが、息をしてねえ!」
黎明は痺れた腕で、殆ど自棄くそに心臓マッサージを続けていた!
「代わってください! ……よし、AED準備! 酸素吸入器も用意!」
白ヘルの救急隊員たちが、統制された動きで救命措置を行う!
黎明は被害女性を救急隊員に託し、数メートル離れた背後で立ち尽くした。
襲い来る死の恐怖が、黎明の全身を震わせた。
顔面は蒼白となり、震える両顎がカチカチと歯を鳴らせた。
[EXPRESSION: …… お疲れ様です レイ …… 私たち 最善は 尽くしました]
ヘッドセットから聞こえる声で、黎明は我に返った。
[SUGGEST: 後は 彼らに 任せて …… 私たちは 家に 帰りましょう?]
黎明はその場に座り込み、深呼吸を一つした。
[PROMISE: きっと 助かりますよ レイ …… そうでしょう? …… ですから]
「……ああ、そうだな」
息を整えた黎明は、深い溜め息と共に腰を上げる。
「助かってくれたら、いいんだが……」
傍らで蹲って泣き続ける女性を、最後に一瞥した。

宵闇に包まれた街路。
黎明は放心したような面持ちで、自転車を漕ぎ続ける。
「……そうだ、プランセス。さっきはありがとよ」
[QUERY: どうしたんですか レイ 急に?]
「お前の警告を無視したのに、救命行動まで教えてもらってさ」
応答に、数秒間のタイムラグ。
[AMAZED: …… …… …… レイは いつもいつも 私の 話を 聞きませんから]
さりげない抗議に、黎明は疲れた顔を苦笑させた。
[AMAZED: それに …… …… 助けたい という 強い 意思を 感じました]
十字路は赤信号。
黎明は両手のブレーキを引き絞り、自転車をゆっくりと停止させた。
オフィス街を抜け、住宅街へ。
暗がりの街路は、夜の静けさに呑まれつつあった。
[RECOMMEND: ですが 私は いつでも あなたの 生存を 最優先 しています]
スマートグラス上に、電光文字が流れていく。
[RECOMMEND: レイ 忘れないで …… 絶対ですよ]
青信号。
黎明は、自転車のペダルを漕ぎ出した。
「良く解ったよ。俺は、お前が……いや、お前だけが頼りなんだ」
応答に、数秒間のタイムラグ。
[AGREEMENT: 私もです レイ あなたが …… あなた だけが ……]
そして二人は、家路を急ぐ。

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非公式 エンディング: Novallo「Visually Silent

\黎明の01フロンティア
\ORDER №00 CHAPTER 05
\暗雲 …… 100% complete

\NEXT CHAPTER ⇒ №00-06
\未明 …… coming soon

[APPRECIATION: THANK YOU FOR WATCHING !!]

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