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短編:近未来リボルバー刑事・ジャック

――01――

ID紐付け型のスマホ『AIフォン』は、現代市民の必需品であり生命線だ。
人工知能入り携帯端末が個人を証明する時代、スマホ泥棒は人気の裏稼業。
盗品は情報を抜いて『洗浄』され、違法な白ROMとして高値で取引される。

2059年。AI技術の進歩が、自律型アンドロイドの普遍化をもたらした世界。
悪徳の街・ニューボルティモア。それは富豪と貧民に別たれた階級社会。
NBPD13分署の刑事、ジャック・ヴォーカンソンもまた当然貧乏であった。

ジャックは時代遅れのロングコートにソフト帽を被る、35歳の男やもめ。
10年前に前妻と離婚。以後は仕事漬けで、娘の養育費を払い続ける日々。
彼の頭頂はクレーターめいて禿げ、中年白人の例に漏れず太鼓腹であった。

NBPDの屋内射撃場。LED灯の冷たい光と、換気扇が陰気に響かせる低音。
射台には第13世代のグロック 22が置かれ、ジャックが握るはリボルバー。
ズドーンッ! 塗装の禿げかけたパーカライズド銃身が、激しく火を噴く!

3インチ銃身のマニューリン MR73は、ジャックが肌身離さず持ち歩く相棒。
装填された357マグナムTHV弾は、サイボーグの軽装甲をも貫く切り札だ。
懐古主義の嘲笑を込めた彼の仇名は、誰が言ったか『リボルバー刑事』。

ジャックは反知性主義者ではなかったが、熱烈な文明信仰者でもなかった。
彼はスマホ窃盗の専任捜査官で、機械の脆弱性を痛感していたのが理由だ。
昇進とは無縁。女には軽んじられ、唯一モテる相手がAIなのは皮肉だった。

――02――

相棒の新人刑事・レオナルドは、ジャックにしばしば頭痛を催させる。
水色の長髪と、つけ過ぎの香水と、いつも着ているロックTシャツ。
彼の場違いな存在感は、仲間内から厄介者扱いされるに申し分なかった。

ゴーンゴーンゴーン! 中央広場の時計台が、午後3時の鐘を響かせる。
日曜日の公園。空模様は、ジャックのコートのように灰色がかった曇天。
ジョギングに励む中高年の姿を、ジャックとレオナルドが遠目に見守る。

大通り。カフェテリアのテラス席。鼻を衝くスカルプチャーの香り。
羽織ったスタジャン、胸元で微笑むイングヴェイ・マルムスティーン。
レオナルドは見渡す限りの熟女を眺め、不服そうにホットドッグを齧った。

ジャックはロングコートにソフト帽姿で、往年の私立探偵を彷彿とさせた。
道行く人は、同席する彼らが相棒の刑事だとは露ほども思わないだろう。
願わくば鼻栓がしたいと思いつつ、彼は新聞越しの見張りに集中した。

ジャックの親指がソフト帽を押し上げ、窄めた双眸が雑踏に注がれる。
紫パーカーにワークパンツの黒人青年。マークしているスマホ窃盗犯だ。
「レオ坊、ジェルヴェのお出ましだ」ジャックが顰め面で新聞を畳む。

通りでは、金髪美女がAIフォンを注視しつつタピオカティーを歩き飲み。
モデルめいて気取った足取りで歩き、迫り来るジェルヴェには無警戒だ。
「レオ坊、聞いてるのか!?」ジャックは返答を待たず、席を立った。

――03――

「ねぇねぇ君たち、これから暇?」レオナルドが肩越しに笑顔を投げる。
隣席に座る若い女の2人組が、冷ややかな表情でレオナルドを見返した。
「あんたさァ、話聞いてたの?」「隣のオッサン、行っちゃったわよ!」

「どうせトイレでしょ、気にしない気にしない……ねえ、俺と遊ばない?」
「キモ。何その恰好、ナードかよ」「ってか臭いし。話しかけないで!」
女にモテモテと勘違いしている彼は、つれない返事にも余裕の笑顔だ。

通りでは、AIフォンに夢中のインスタ美女と、冷笑して迫るジェルヴェ。
ドサッ! 2人は正面衝突し、女の顔面にタピオカティーが降りかかる!
「ファック! どこ見て歩いてんのよ!」ホットパンツで盛大に尻餅!

(馬鹿が。ちょろいもんだぜ)ジェルヴェは舌打ち一つ、颯爽と歩き去る。
彼は片手をポケットに突っ込み、もう片手で女のAIフォンを握っていた。
「ファッキンニガー! あれッ……AIフォンが無い……私のAIフォン!?」

インスタ美女は、デカすぎるサングラスからティーを滴らせて激しく狼狽!
ビガービガービガー! 盛大なアラート音に、雑踏の人々が立ち止まる!
「タスケテー! ツレサラレマシター!」AIフォンの盗難防止機能だ!

(チッ、セキュリティかよ。面倒臭ェ!)ジェルヴェが眉根を寄せた。
「ファック! 私のAIフォンを返しなさいよ!」追い縋るインスタ美女!
「失せな、スマホごときで命を亡くすぜ!」彼の手が懐から何かを抜いた!

――04――

ジェルヴェが握るは、銀色のマウスガン! 380口径のシーキャンプだ!
「私のAIフォン!」インスタ美女は銃口を向けられ、ヒステリックに絶叫!
「「「「「ギャーッ!?」」」」」悲鳴と怒号! 我先にと逃げ惑う人々!

グレーのロングコートをはためかし、人の波をかき分けて歩み寄る人影!
「警察だ! 銃を捨てて膝を突け!」両手に握るは、マニューリン MR73!
「手前まさか、リボルバー刑事!?」ジェルヴェが驚き、その名を呼んだ!

シーキャンプの銃口が、インスタ美女からジャックの顔面に逸らされる!
ドンッ! ヤケクソの一撃が、ジャックの帽子を貫いて弾き飛ばした!
ズドーンッ! てっぺん禿げが光り、ダブルアクションでリボルバー発砲!

銃弾は銃を直撃! ジェルヴェの親指、人差し指、中指が同時に吹き飛ぶ!
「ウガ――ッ!?」彼は右手から血をしぶき、泣き叫んで地をのたうつ!
「タスケテー!」ジャックの片手が、宙を舞うAIフォンを受け止めた!

「ウッワー何あれ、スゴ!」「スゲーっしょ! あれ、俺の上司の刑事!」
「バカ!」「アホ!」パン、パン! レオナルドの顔面に張り手が炸裂!
「サイッテー、自慢してる場合!?」「お前も行け! 仕事しろ仕事!」

ピピピ!「センキュー! アナタガウワサノ、リボルバー・ケイジネ!」
「フン、まあな」AIフォンの自律音声に、ジャックが淡々と答えた。
ピピピ!「ウレシー! アナタトッテモクールヨ!」「……ありがとよ」

――05――

ジャックがAIフォンを差し出すと、インスタ女が顰め面で引っ手繰った。
「ハッ、キモ……ハゲおやじ」女は足元のタンブラーを蹴って歩き出す。
「ねぇ君、俺とお茶しな」パン! 平手打ちの音に、ジャックは溜め息。

「はぁー今日は3連敗かぁ……俺、モテないのかな」へたりこむレオナルド。
「手前、過剰防衛だぞ! 人権団体が黙っちゃいねぇこのクソ野郎!」
ジャックは彼に構わず、ジェルヴェに屈み込むと彼をうつ伏せに裏返す。

「ジェルヴェ。窃盗、銃器不法所持、殺人未遂の疑いで現行犯逮捕する」
ジャックはジェルヴェの背中に両手を回し、淡々と手錠をかけて拘束。
それから彼は、傍らに転がるタピオカティーのタンブラーを拾い上げた。

「おいレオ坊、この給料泥棒。アホが逃げ出さないように見張っとけ」
ジャックは吐き捨て、タンブラーの氷をじゃらつかせて指を拾い集める。
レオナルドが顔を顰めて見守る中、タンブラーに3本の指が投げ込まれた。

「クソッ、かくなる上は!」レオナルドの膝の下で、ジェルヴェが暴れる!
ガコッ! 彼の脳天にハンマーめいて振り下ろされる、グロック 22の銃底!
「フヌッ!?」「暴れんじゃねーよバァカ。俺今機嫌悪いの、ワカル?」

「ホラ、指だ。手前の落し物はちゃあんと返してやるから、心配するな!」
ジェルヴェは眼前に指入りタンブラーを突きつけられ、白目を剥いて失禁!
「ウッワえっぐ……ジャックの旦那ァ、ンなモン見せないで下さいよ!」

――06――

NBPD13分署・刑事課。課長室のデスク前に並ぶ、ジャックとレオナルド。
ドカッ! 禿頭の課長・佐藤セバスチャンが、平手でデスクを叩いた。
「ジャック! 公務で私物の銃を使うなと、いつも言っているだろう!」

「課長。結局、ホシは挙げたんですし、まーいいじゃないっすかぁー?」
仏頂面でだんまりを決めるジャックの隣で、レオナルドが軽薄に反論する。
「口答えとはいい度胸だな、レオナルド」セバスチャンが皮肉に笑った。

セバスチャンはデスクの2in1タブレットを操作し、画面を彼らに向けた。
「この山ような抗議メールを見ろ! 全部お前が口説いた女たちのだぞ!」
「エーッ!?」本気で驚いているレオナルドに、ジャックが無言で溜め息。

刑事課のオフィスに戻ると、殺人課のタフガイたちが好奇の視線を向ける。
「窃盗犯係のギークどもが戻ったぞ!」「コソ泥を逮捕! お手柄だな!」
「うっせーぞファック野郎ども!」レオナルドが中指を突き立てて喚いた。

長身のスーツ女が、先を進むジャックの前にこれ見よがしに立ち塞がる。
「ぷッ。ジャック、その帽子どうしたの? トレードマークが台無しね」
検挙率№1の女性刑事、シャーロット・ワイルド! ジャックの天敵だ!

「なァに、また買い替えればいいのさ」「買い替える? お金があるの?」
「金が無けりゃ、手前で縫うまでよ」ジャックは嘲笑をかわして歩き出す。
「腐れビッチ!」「何だとこのガキ!」レオナルドが大慌てで走り去る!

――07――

夜の裏通り。PVC行燈が目を惹く、寿司バー『山紫 ”Purple Mountain”』。
防弾ガラスの引き戸をくぐると、そこはトラディショナルな寿司屋だった。
「へぃらっしゃい。どうも、旦那」初老の板前が、仏頂面で2人を迎えた。

「ウォースゲー……ショドー……ボンサイ……ここは日本ですかい、旦那!」
レオナルドが周囲を見渡し、声を低めつつも興奮気味にまくしたてた。
ジャックは無言でカウンターの一番奥に進み、レオナルドと隣って座る。

「いらっしゃい。あら珍しいわジャック、連れなんて。明日は雪かしら?」
和服に結髪のオカミサン。レオナルドは奥ゆかしくはにかむ。美人なのだ。
「素敵なレディだろ、レオナルド。惚れるなよ」左の薬指で指輪が光った。

「テラピアとナマズと、サバの握りを。こっちの坊やにも同じの頼むよ」
「あいよ。テラピア、ナマズ、サバ、2人前」板前がクールに復唱した。
「俺、魚って苦手で……」「食ってみろ、旨いから。ここのスシは本物だ」

「ジャック。お酒は何にする? あとそちらの……個性的なオニイサンも」
「レオナルドっす、へへへ。俺は下戸なんで、ルートビアでお願いしやす」
「ルートビア、あったかしら?」オカミサンは唇に指を当て、歩き回る。

暫しの間を置いて、オカミサンが大小2つの瓶を手に持ち、2人の前に戻る。
「どうぞ。置いてて良かったわ」レオナルドの前に、ルートビアの小瓶。
シュポッ! オカミサンは奥ゆかしい手つきで、ルートビアの栓を抜いた。

――08――

オカミサンが意味ありげに板前を一瞥すると、板前が無言の仏頂面で頷く。
「ねぇジャック、いいお酒が入ったのよ。ちょっと高いけど試してみる?」
眼前に置かれた、ウィスキーボトル。ジャックは息を呑み、目を見開いた。

「タケツルか……長く見ないな。うん、いや、どうせ合成アルコールだろ」
「本物かどうか、旦那に確かめて欲しくてね」板前が口角を上げて呟いた。
「俺はまだ、飲むと決めたわけじゃ」「いいからいいから、飲んでみて」

ラベルの破れかけた古いボトルから、グラスに注がれる琥珀色の液体。
「これ旨ェ……ピュアな砂糖だ!」レオナルドは瓶をラッパ飲みして感服。
ジャックは穴あき帽子をカウンターの傍らに置き、グラスを前に顰め面だ。

「旦那、飲まないんすか」「もう、ジャックったら男らしくないわね!」
オカミサンの言葉に、ジャックが不服そうに呻いてグラスを手に取る。
(この香り、ピートか……違う、タケツルだから石炭だ。香料とは違う?)

ジャックは心の底から沸き起こる期待を押し殺し、恐る恐る酒を舐めた。
一口。眉根が上がる。確かめるように二口。そこから先はもう止まらない。
「アーッ、旨い! 掛け値なしのタケツルだ!」空のグラスが音を立てる。

「あなたなら、幾らの値段をつける?」「1杯100ドル……いやそれ以上か」
「いいこと聞いたわ。1杯150ドルね、なんて……フフ。うそうそ、冗談よ」
「へいお待ち。テラピアとナマズとサバの握り」皿の寿司が差し出される。

――09――

「ウヒョー、こいつは旨ェーッ!」「レオ坊、静かにな。奥ゆかしくしろ」
「ヘヘ、すんません。こんなに旨い魚、生まれて初めて食ったもんで!」
「ありがとうございやす」板前の渋みのある仏頂面に、会心の笑みが過る。

引き戸が開かれ、歩み入る人影。ジャックらを見つめるのは、見知った顔。
「へいらっしゃい」「どうも。あら、誰が居るかと思えば……来てたの」
シャーロットだ。仕事上がりのスーツ姿で、レオナルドの隣に腰かける。

「ワ……ワイルド警部補」「臭うわよ、坊や。飲食店で、マナー違反だわ」
「そうカッカしないの。こういう店は初めてだったのよ、仕方がないわ」
オカミサンがおしぼりを出すと、シャーロットが不愉快そうに鼻を鳴らす。

「彼、新入りなの。方々で女を口説く問題児よ。オカミサンも気を付けて」
「オニイサン、刑事だったの!?」オカミサンと板前が顔を見合わせた。
「でも、きっといい子よ。ジャックが連れて来たんだから間違いないわ」

ジャックはナマズの握りを咀嚼し、ロックグラスからちびりと飲んで頷く。
「うん、いい酒だ。実に魚に合う」「馬鹿馬鹿しい。どうせ模造品でしょ」
「えぇ、実はそうなのヨ」オカミサンはジャックに流し目でウィンクした。

「あんたたち貧乏人には不釣り合いな店よ。財布は心配しなくて平気?」
ジャックはシャーロットを振り向きもせず、レオナルドの肩をポンと叩く。
「若者の社会勉強と、祝杯だ。一々絡むなよ」グラスの氷が音を立てた。

――10――

それからシャーロットは、合成ウィスキーで酔って延々と管を巻き続けた。
ジャックたちは愚痴を聞き流し、イカとタコとツナの握りを胃袋に収めた。
「オカミサン。お勘定を」支払いも日本式……この店では信用第一なのだ。

「ちょっと、もう帰るのォ?」シャーロットが胡乱な眼差しで2人を睨む。
「お先に失礼っす」「食うか喋るかどっちかにしろ。余り飲み過ぎるなよ」
ジャックは3杯目のタケツルを名残惜し気に飲み干し、グラスを置いた。

「ねぇねぇジャック」オカミサンがカウンター越しに、ジャックに手招き。
「ワイルドさんって、もしかして独身?」囁き声にジャックは苦笑を返す。
「長続きしないタチなのさ。余り触れてやるな」レオナルドが肩を竦めた。

ジャックは勘定書きを見て眩暈を覚えたが、酔いのせいではなかった。
「オゥ……ハッハハ。まぁ年に1度くらいは、こんな日があってもいいさ」
「ウッワえっぐ……旦那、御馳走様っす」「おう。お前もえらくなれよ」

「だからねーもう、聞いてよ!」益体の無い話を背に、2人が席を立つ。
「旦那。TV、見ましたよ。ご苦労さんでした」板前がぽつりとこぼした。
ジャックが一瞥すると、板前はこちらを見ずに淡々と刺身を引いていた。

「また来てね!」オカミサンに手を振って見送られ、2人は店を出る。
「へへ……旦那、今日はありがとうございやした」「何だ、柄にもねぇな」
「また奢ってくださいね!」ジャックは失笑し、レオナルドの肩を叩いた。

――11――

場末のアパートメント。ジャックはドアの前に立ち、AIフォンを取り出す。
「IDカクニン、オカエリナサイマセ」ガチャ! 電子ロックが開いた。
ジャックは懐のリボルバーに手をかけ、周囲を確認してから部屋に入る。

「遅かったですね、ジャック」玄関に仁王立つは、異様な風体の女だった。
短い黒髪。険しい美貌。都市迷彩を投影した忍者スーツ。アンドロイドだ。
インナーヴィジョンズ社製、モデルXX2501『楓 "KAEDE"』。彼女の名前だ。

「アルコールの臭いがします」口は動かず、喉元から音声が発せられる。
「そこをどいてくれ、カエデ」ジャックは背後を振り返り、ドアを閉じる。
ガチャン! ドアの電子ロックが施錠され、ジャックは溜め息をこぼした。

「本日のトレーニングが未達成です」「明日にしてくれ。今日はもう寝る」
ジャックは呟きながらリビングに向かい、コートとソフト帽を脱ぎ去る。
「帽子に穴……銃創ですね。危険な目に遭ったのですか」「仕事だからな」

ジャックがカエデを『買った』のは、数週間前のこと。不純な目的だった。
彼女と出会った場所は、怪しげな露店の立ち並ぶ、スラム街の『人形店』。
ジャックは冷静さを失っていて、曰く有り気な人形に大枚を払わされた。

ジャックはスタンドハンガーにコートと帽子をかけ、大きく伸びをする。
サイドボード下の金庫に歩み寄ると、ダイヤル錠を回してカギを開いた。
中に収められた酒瓶の中から、貴重な真正酒……ポール・次郎を取り出す。

――12――

「ジャック、カラテの稽古を」「それも明日だ」「まだ飲むつもりですか」
ジャックは咎める声を聞き流し、戸棚からブランデーグラスを取り出す。
欲望に抗えず、ヤクザの抗争現場から簒奪したコニャックをグラスに注ぐ。

きっかり1オンス、1滴もこぼさず慎重に注ぐと、年代物の酒を舌で味わう。
「フー……旨い。しかしあのタケツルも旨かった。ある所にはあるんだな」
ジャックはリビングに戻ると、ポール・次郎の瓶を大事そうにしまった。

「その酒を売った金を元手に、100倍以上の合成アルコールが買えますよ」
ジャックが寝椅子に腰かけると、カエデは対面する椅子に腰を下ろした。
「ジョークはよせ、金には変えられん。盗んどいて言うセリフじゃないが」

ジャックは深く溜め息をつき、目頭を揉んで思案した。カエデのことだ。
結論から言えば、不純な目的は達せられなかった。それどころではない。
彼女は実に知能が高く、格闘の達人で……厳しいジムのトレーナーだ。

「ジャック。仕事に同伴することを許可してください。役に立ちます」
「ブフッ、冗談だろ!?」ジャックは酒を吹きかけ、懸命に堪えた。
彼女は何もできない。家事も、セックスも……荒事を除いて、他には。

カエデは愛玩用ガイノイドでないにも関わらず、現状はお人形様同然だ。
挨拶代わりにカラテをぶつける人形を外に出したら、どうなることやら。
「考えとくよ」ジャックはコニャックを飲み干し、考えることを止めた。


【短編:近未来リボルバー刑事・ジャック おわり】

From: slaughtercult
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