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意識「他界」系

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犯人は伝説上の怪物? 謎の通り魔殺人事件の真相は、とある禁書が関わり出したことによって予期せぬ大惨事に…伝奇ホラー。
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2015年12月の記事一覧

意識「他界」系 その47

意識「他界」系 その47

SATの隊員は、家族であってもその事を公言できない内規になっている。それを身内が知るのは殉職した後である。

その例外を作った男、それが毒島鉄平だった。

その激務ゆえ、大抵の隊員が5年以内に他部署に移る中、10年在籍しているベテラン。その任務の危険性ゆえ、基本的には独身者のみで構成されているのだが、在籍するために恋人との籍も入れずにいるほどSATを愛する男。

彼が警察内で有名なのは、その素晴ら

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意識「他界」系 その46

意識「他界」系 その46

刑事ドラマに電車での移動シーンが少ないのは、単に撮影許可を取るのが手間だからであって、実際の刑事は普通に利用する。

でも、好きな女が危険地帯にいる今、そこに駆け付けるのに電車は使いたくないと橋爪は思った。何よりも「画」にならない。

「だからといって、何でワタシが運転しなきゃなんないワケ?」乱堂美姫の言うのも御もっともだが、微量とはいえ酒を飲んでいる以上、誰かに頼むしかなかった。

「アンタ心配

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意識「他界」系 その45

意識「他界」系 その45

屋上に横たわった死体に群がっていたダンゴ虫に似た生き物は、柔らかい部分を食い尽くすと順番に動かなくなった。

数分が過ぎた頃---

その背中がメリメリと割れると、中からシャコに似た奇妙な生物が現れた。

体長70センチほどのそれは、腹広の胴を丸めたり伸ばしたりしながら、しばらくその場に留まっていたが、やがて畳んでいたトンボのように透明な羽を広げると順々に夜空に向かって飛び立っていった。

最後の

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意識「他界」系 その44

意識「他界」系 その44

イギリスのことわざに「好奇心、猫を殺す」というのがあるが、下手をすればアタシもそうなるかもしれない。

橋爪に渋谷で新たな『怪物姿の通り魔事件』が起きたと聞いて、タクシーの運転手に行先の変更を告げた。経費の申請の手続きを考えると、これも自腹になるだろう。欲しかったバッグもお預けになると移川民子は舌打ちした。それでも表情には笑みが浮かんでしまう。

自分は、あの怪物に魅せられている。

最初は、否定

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意識「他界」系 その43

意識「他界」系 その43

「あのセーラー服と亀甲縛りは一体何なんだ?」その言葉がいつ出てくるかと杉山はビクビクしていたが、彼は黙ったままだった。

彼、松尾羽翔(マツオバ・ショウ)は足元にジュラルミンケースを置いたまま、コンビニのゴミ箱の前に立っていた。左手にはホットの缶コーヒー、右手には焼き鳥を持っている。それでも貧乏臭さは微塵も感じさせないのは彼の優雅な身のこなしと、見るからに高級そうな黒のスーツのせいだった。時折、そ

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意識「他界」系 その42

意識「他界」系 その42

以前は子供たちが賑やかに食事をしていた食卓も、今は夫と2人。高齢による体力の衰えでホームを閉めたことに後悔は無かったが、食事の時間の度に川村沙知絵は淋しさを覚えた。

3月、ちょうど18歳になりホームを出る樽町王人はともかく、17歳の吉岡智樹と15歳の原沢浩太には見知らぬホームへの転出をさせてしまった。今頃上手くやっているのかしらと沙知絵は心配でならなかった。

心配という意味では王人もそうだった

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意識「他界」系 その41

意識「他界」系 その41

時代の流れとともに組織も変わる。警察庁公安部がマークしている団体においてもそれは同じであった。極左暴力集団、右翼団体、政治組織、特殊組織、外国政府による工作活動などなど。中にはその活動が年々縮小している団体・組織もあり、それに応じて公安部も人員削減を行っている。

その余剰人員で新たに作られたのが「公安第一課 第五公安捜査:第8係」である。正式な名称は「いずれの団体にも属さない、危険人物及びグルー

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意識「他界」系 その40

意識「他界」系 その40

そのアプリの名前は「カップリン」。束縛が強い人必携の「浮気防止」アプリ。GPSで相手のいる場所が分かるのはもちろん、相手のカメラを起動して撮影し、特定のアドレスまでメールさせることも出来る優れものであった。

坂上早苗は「カップリン」を起動した。数秒後、送られてきたメールに添付された画像は真っ黒だった。ただ真っ黒ならポケットの中なのかとも思えたが、薄っすらと映った、カブトガニの裏側にも似た何か。そ

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意識「他界」系 その39

意識「他界」系 その39

「しぶちか」、午後10時過ぎ。通路を歩く人々の多くは通勤帰りでくたびれた顔をしていた。なので「それ」を見ても殆どの人が無視するか、訝し気な顔をして通り過ぎるだけだった。

飲み会後、ダラダラと地下通路で喋っていた大学生テニスサークルの集団が、それを見つけて騒ぎ出した。

「あれ、ハロウィンて先週じゃなかったっけ?」

女性向け家電の大型ポスターが何枚も貼ってある壁を背に、全身灰色のタイツ姿の人間が

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意識「他界」系 その38

意識「他界」系 その38

樽町王人。タルマチ・キングという変わった名前の少年は小学4年生の時に川村ホームにやってきた。親の虐待が続き、家と一時保護所を何度も往復した挙句、義父が母親を絞殺するという事件がありホームに来たのだった。

川村ホームは小高い丘の上にあった。ファミリーホーム、正式名称「小規模住居型児童養育事業所」には当時5人の「要保護児童」がいた。そんな中、その名の通り、王人は抱えていた問題量がキングであった。まず

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意識「他界」系 その37

意識「他界」系 その37

渋谷にあるイタリアンレストランで、坂上早苗は友人の重田みどりと遅い夕食をとっていた。高校からの友達のみどりは、早苗にとって何でも言える気の置けない友達だった。

「新しい彼氏と会うまでの時間潰しに付き合ってるんだから、それなりにシモの方も喋ってもらわないとね」漫画家を目指しアシスタントのアルバイトで生計を立てているみどりは「こっちはネタに飢えてるからね」と付け加えて笑った。イカスミのスパゲッティで

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意識「他界」系 その36

意識「他界」系 その36

遡ること3時間ほど前。渋谷のとある雑居ビルの屋上に2つの人影があった。スーツの上に黒いダウンジャケットを着込んだ男が「ふざけるな、今さら追加料金なんて払えるか! 行きたきゃ警察行けよ!」そう吐き捨てて立ち去ろうとした。

グレーのパーカーを着た男は、フードを頭まですっぽり被っていた。両手をポケットに入れていたが右手を出すと、小さなビニール袋を取り出した。

「これ暗くて見えないかな? アンタの毛だ

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意識「他界」系 その35

意識「他界」系 その35

深夜1時、家族も寝静まった時間、遠藤治郎はリビングにいた。62年間、自分の性癖は満たされることが無いと諦めていた。それが会社帰りに寄ったアダルトDVDショップで偶然見つかるなんて。

『おっぱいビンタ』巨乳の家庭教師が出来の悪い生徒に過激なお仕置き! とパッケージには書いてあった。あぁ、これこそが自分の追いかけ続けていたモノだと、遠藤は迷わずレジに持っていった。

それをいよいよ再生する。音を小さ

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意識「他界」系 その34

意識「他界」系 その34

「据え膳食わぬは男の恥」なんて故事は、脂ギッシュな52歳の中年には無縁なはずだった。

大木は昔から女性が苦手だった。彼には性格最悪の姉が2人いた。その彼女たちに幼少期から女性の本性を、現実を、嫌というほど見せつけられたせいだ。元々恋愛に積極的な方ではなかったので、気が付けば50の大台を超えてもまだ独身。競馬で大勝ちした時にソープに何度か行ったことがあるぐらいの「素人童貞」であった。

もう少し自

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