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"ノーレイティング" 人事制度にひとこと

こんにちは!米田 @ マーケティング変革実行中です。

今までの人事評価制度に代わる新たな制度として "ノーレイティング" 制度が紹介されている記事を最近多く見かけます。しかしこの制度のことを誤って「ランク付けをしない人事評価」等と紹介している記事があまりにも多いため、今回はこのマイクロソフトなどでも取り入れられている新しい人事評価制度について見ていきたいと思います。

"ノーレイティング" 人事制度の "正しくない" 紹介のされ方が気になる

2014年からマイクロソフトでも取り入れられている人事制度がどのような取り上げられ方をしているかを見てみましょう。

参考記事:

Business Labor Trend 2014.12」独立行政法人 労働政策研究・研修機構発行

分布曲線 (注: 通常は正規分布) に基づいて上位10%はS評価、中位の70%はA評価、残りの下位20%はB評価といった具合に、業績に応じて社員をランク付けする評価手法を…マイクロソフトが、やめてしまったという。…ランク付けの評価制度では、社員一人ひとりに数値目標を設定し、その達成度合いに応じて「S」「A」「B」などと評価する。例えば、部署全体の成果が前期並みだったとしても、ある社員だけずば抜けた成果を上げていれば、その社員は確実に「S」と評価される。つまり、個人の力を最大限に引き出すことを狙ったのが、ランク付けの評価制度だといえる。

出典: 日経XTECH「マイクロソフトに学ぶ、働き方の意識改革」

このような制度は、一言でいうと "ノーレイティング" 制度とか「ランク付けをしない人事評価」というように表現されることがあります。しかし、文字面だけで「ランク付けをしない」とか「ノーレイティング」というところに着目するのは、マイクロソフトでこの制度を使って実際に管理する側で運用をしていた私の立場からすると、正しくないと感じます。

ピラミッド型組織の人事評価の本質

結局のところ、どんな人事制度になったとしても、管理職側が管理される側の従業員を何らかの形で「ランク付け」する必要があるのは、ピラミッド型の組織である以上は変わらないことです。

成果主義が導入される前は、給与こそ入社年次で平等に決まっていたものの、昇進については上司とウマがあうかといった主観的な評価か、昇進試験などでランク付けをしていました。ピラミッドの上の方のポジションは数が少なくなってくるため、将来的に何らかの方法で昇進できる人数を絞る必要があるためです。「ランク付けが個人の力を最大限に引き出す」ことが目的では必ずしもありません。

成果主義が導入された際には、従業員全体の評価分布が正規分布 (ベルカーブ、ガウス分布) に従わせるようにすること、Sを何回取ったら昇進させる、など、評価・昇進の理由をより見える化したり、給与の差や賞与の分配ルールを明確化したり、評価軸にするための目標設定を各従業員に行ってもらい、それを超えたかどうかで評価をする、など、様々な方法でルールを見える化した組織も多かったようです。

ちなみに、成果主義の導入の仕方にもいろいろな方法があります。相対評価をするやり方と絶対評価をするやり方、個人評価を優先するやり方とグループ (チーム) 評価を優先するやり方、売上等の明確な指標を元に達成度で賞与を機械的に決定するやり方と定性的評価の余地を残して評価する方法、分布曲線を正規分布にするやり方と上位ランクに大多数を集中させ落第点を出さない分布を採用するやり方などです。

また、目標設定についても、組織の業績に連動する方法、各自が決めたタスクを達成したかどうかで測る方法などがあります。実際にはこれらが混合された評価軸が設定されることもあります。最近では、単純に数字やタスクの達成という組織の縦割りを生む主観的な目標ではなく、組織の業績への貢献へのインパクトや従業員同士の助け合いを評価する方法も注目されてきています。これらの評価により、管理職側は従業員の「パフォーマンス・マネジメント」を行います。

ただし、いずれの方法を取ったとしても、何らかのルールに従って、従業員がランク付けされることに変わりはありません。つまり、ピラミッド型組織である以上「ランク付けをしない」ことはありえないのです。

「アジャイル」な人事評価制度

一方、「レーティング」という単語を一年に一度だけ行う人事評価、つまり「年次評価」というように狭義の意味に捉えるのであれば、「ノーレイティング」という言葉は、より現実に近くなります。

実際にマイクロソフトなどの外資系企業で実施されている評価方法は、ランク付けをするしないというところに焦点があるわけではなく、一年のうちに何回も上司が部下にフィードバックを伝える 1on1 を実施することで、評価に対する期待値設定コーチングによる能力向上を行うことで従業員満足度を上げるというものです。この1on1は、通常の業務の進捗を聞くための1on1とは別に設定されます。これを一年に一度のフィードバックまで待たずにアジャイルに行うことで、能力開発のスピードも上げることにも繋がります。

つまり、この評価制度は「ノーレイティング」と呼ぶよりは「アジャイルレイティング」とでも呼んだほうが、誤解なく伝わるのではないかと思われます。私が「ノーレイティング」についていろいろ調べた説明記事の中では、以下の記事の説明が一番しっくり来ました。

参考記事:
株式会社東レ経済研究所 2017.12 経済センサー「変貌する人事評価̶パフォーマンスマネジメント変革の潮流̶」

ちなみに、上司と部下がアジャイルに、年に何回も評価について話し合う仕組みは、人事制度を変えなくても上司と部下の合意さえあればローカルに進めることも出来ます。上司と部下の関係も従来より緊密なものになるはずなので、現状の人事制度の元でアジャイルな部分を真似してみるのもありでしょう。

それでは、また!

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