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サラリーマン兼業音楽家がインボイス制度について本気出して考えてみた

2023年(令和5年)10月から開始するインボイス制度について、サラリーマン兼業音楽家として両方の側面から物事を見ている私の考えを書くことしました。

適格請求書発行事業者になることにした

まず最初に私のスタンスを表明しておくと、インボイス制度には賛成していません。

個人レベルでは特に誰にもメリットはないので、インボイス制度に諸手を挙げて賛成する人自体がそもそもいないのではないかと思います。

とはいえ、すでに施行が決まっている制度なので基本的にはこれを止めることはできません。私もいろいろ悩んだ結果、適格請求書発行事業者になるために申請をしました。

その理由について

理由1:事業者として音楽の仕事により一層しっかり取り組んでいきたい

僕は会社員ではありますが副業や兼業が一切禁止されていない職場を選んでおり、フリーランスとして音楽の仕事も兼業しています。

兼業であっても決して片手間で遊び半分でやっているわけではなく、きちんと仕事として真剣に取り組んでいるということを示すには『適格請求書発行事業者になること』はひとつの指標にもなるのではないかと考えた末の選択でした。

今回のインボイス制度によって適格請求書発行事業者になれば税務まわりの事務作業は煩雑になるかもしれませんが、僕のような小規模の事業者であれば簡易課税にして最小限の対応にすればそこまで大きな負担はないと見込んでいます。

また今後事業がより拡大できれば税務はきちんと税理士さんにお願いして、自分はさらに事業に専念したいとも考えています。

理由2:取引先にとっても負担にならないはず

お世辞とか忖度などは一切抜きで、私が継続的に取引している企業さんには本当にものすごくお世話になっているので、今後もこれまでどおり引き続きお付き合いしていきたいという思いがあります。

この仕事で私ができることは第一に「いい音楽を作ること」ですが、それに加えてきちんと法律や制度、時代の変化の波に対応することで安心して取引してもらいやすいのではないかと考えました。

理由3:課税事業者になった方がお得かも

登録せずに免税事業者でいる場合、消費税を請求できない(もし請求した場合、依頼者側はその消費税を控除できないので損してしまう)ので報酬10万円の仕事をした際には税込10万円を請求することになります。

しかし、登録して課税事業者になった場合には報酬10万円の仕事をした際には消費税10%を請求して税込11万円を請求することができ、納税する消費税は5000円のみです(簡易課税の場合、音楽制作業であれば「サービス業」に該当するのでみなし仕入率50%となるので)。簡易課税だと計算もカンタンで、事務負担も抑えることができます。

さらに新たに課税事業者になった人は最初の3年間は「2割特例」によって2割しか納めなくても良いと認められているため、税込11万円を請求しても消費税として収めるのは2000円のみです。なので課税事業者になった方がお得かも、というのもあります。

…自分で書いてても税制が複雑すぎてワケわからなくなってきましたが、おおむねこの理解で合っているはずです。

理由4:応分の税金を負担すること自体は必要だと考えている

もちろんできることなら税金は安い方がいいし増税はしてほしくはないですが、とはいえ自分がお世話になっている街、自治体、公共サービス、日本という国に対してはきちんと税金を払うべきだとも考えています。

過去記事でも書いたことがありますが、世の中にあるほとんどのものは誰かがお金と時間と労力を費やして、作ったり加工したり、管理・維持したりして利用者に提供されています。なにもせずに勝手に与えられるものではありません。

もしもみんなが税金を払わなかったら行政サービスは維持できず世の中の秩序はめちゃくちゃになって、北斗の拳とかウォーキングデッドの世界のようになってしまいかねないわけです。。

日本は世界的に見ても非常に治安が良くて安全で清潔で公共サービスの行き届いた素晴らしい国だと思っているので、今のような厳しい世界情勢にあっても日々平和で健康に暮らしていくためには日本国民として必要な応分の税負担はきちんとしていきたいと考えています。

税金とは、年金・医療などの社会保障・福祉や、水道、道路などの社会資本整備、教育、警察、防衛といった公的サービスを運営するための費用を賄うものです。 みんなが互いに支え合い、共によりよい社会を作っていくため、この費用を広く公平に分かち合うことが必要です。

税制(国の税金の仕組み) : 財務省

ここを読んでいる人はほぼ同業者の方が多いと思いますし、インボイス制度について他のクリエイターはどう考えて対応しているんだろう?と気になっていることと思います。

なので記事前半には多くの人が気になっているであろうポイントについて自分の考えをまとめました。

ここから先、記事後半からはインボイス制度を取り巻く状況について思うことについて書いていきます。

インボイス制度の背景には「消費税の増税」がある

そもそもインボイス制度が必要となる背景には「消費税の増税」があります。令和元年(2019年)に軽減税率が導入され、10%と8%の2つの税率が混在することになりました。「店内で飲食すると消費税10%だけど、テイクアウトだと8%になる」というやつですね。

今回インボイス制度が実施されることになった根拠もこの「軽減税率による申告ミスを防ぐため」というものでした。

まずここがかなりのモヤモヤポイントで、そもそも軽減税率(8%と10%)自体もわりと面倒な上にさらにインボイス制度への対応でさらに面倒になるのなら、いっそのこと一律税率にしてもっとシンプルな制度にすればよかったのではないでしょうか?

たとえば「消費税は一律10%にして、その代わりに所得税を引き下げる」。これなら簡素化できて申告ミスも防げるし煩雑なインボイス制度も不要で、現役世代の負担を軽減できます。

消費税免税事業者についてはインボイス制度とはまた別に議論をされた方が良かったのではないかと個人的には思います。


しかし、実際にはそのようなシンプルな制度にはなりませんでした。

インボイス制度のことを「事実上の増税」という言い方をよく見かけますが、今まで法律で認められていた免税事業者にとっては急に負担を強いられる形になったワケですから、そう感じてもおかしくありません。

それだけでなく「次なる増税への布石」とも言われていますね。新たな品目への複数税率の導入や消費税率の引き上げなど、先のことは分かりませんが、あながちあり得なくはないと思います。

結局のところ財務省の長期的な目標は財源確保のための税収アップですから反発の多い直接的な増税(消費税や所得税など)をなるべく避けながら、間接的に増税してくる可能性が高いです。まさに今回のように「免税事業者」のハシゴを外したり、扶養控除や配偶者控除の廃止などもいつ決まってもおかしくないような状況だと思います。


先述したとおり、私自身としては必要な応分の税負担はきちんとしていきたいと考えています。とはいえ、どうせ税金を払うならもっとシンプルになるようにしてもらえないものか?というのが正直な気持ちです。

「免税事業者」は法律で認められたものである

インボイス制度でもっとも大きな影響を受けるとされる免税事業者というのは課税売上高1000万円以下の事業者のことを指します。(私自身もこの免税事業者です)

この「消費税の納税免除」というのは消費税法によってきちんと定められているもので、ズルでも益税でもないワケです。

「規模の小さい事業者については消費税計算の煩雑さを考慮して納税義務を免除している」というのが理由のひとつですね。

独立や起業したばかりの人はもちろん、売上額に対して手取りが少ない業種(物販や飲食など)で頑張っている人々にとっては消費税の免税はとてもありがたいものです。

免税された分のお金で仕事に使う道具や設備を整えるなどさらなる事業投資ができて、さらなる成長や拡大を目指すこともできます。

ちなみにサラリーマンであれば事業投資は自分でする必要はありませんよね。たとえば会社で使うパソコンや備品は会社が支給してくれるし、出張する際の飛行機代やタクシー代もちゃんと会社が払い戻します。仕事に必要な資格を取る費用も会社が払ってくれます。従業員本人は負担する必要なく、仕事に必要な道具や交通費もタダで利用できるわけですね。(もしも社員なのにすべて負担させられている人がいるなら、それはその会社がめちゃくちゃヤバいだけです。)

しかし、個人事業主の場合はそのような費用もすべて自己負担する必要があります。もちろん経費として計上することはできますが経費として所得から控除されるだけであって、決してタダになるわけではありません。自分の持っているお金から払うことに変わりありません。手持ちの資金がなければ新しい仕事道具を買うこともできません。

そういった点を考慮すれば、そこまで収入が多くない事業者には消費税免税などいくらかの優遇はあって然るべきなのではないかと思います。

それでも対立してしまうのはなぜ?

サラリーマン(雇われ従業員)の場合は基本的に自分で確定申告をすることもないので税務まわりの負担も増えないし、インボイス制度によって直接的に給料が減ることもないので正直自分には関係ないな、と考えている人が多いです。

しかし、消費税は日々の買い物に課税されています。すると免税事業者に対して「自分たちは消費税を払っているのにそれを納税していないなんておかしい!ズルをしている!」という感情を抱きがちです。

これまで書いてきたように消費税の成り立ちや免税事業者がなぜ免除されているかを知れば決してズルや益税ではないことが分かるはずなのですが、立場の違いからくる理解の得づらさによってどうしてもサラリーマンと個人事業者が対立する構造になってしまいやすいのです。

インボイス制度について言及されるときに発生する良くない状況

この制度は人によって受ける影響が大きく変わるため「私にとってはマイナスになってしまうので賛成できない」という人と「よく分からないけど自分には関係なさそうだし別にどうでもいい」という人にポジションが二分して分断されてしまいます。

それぞれの立場の人がそれぞれのポジショントークを繰り広げており、一部の人たちによって余計に本質がねじれて伝わっていってしまうということが間々あります。

このせいでインボイス制度の内容は脇に置いたまま『インボイス制度に反対している人』に反対する人がいたり、『『インボイス制度に反対している人』の揚げ足を取ったり論破しようとする人』に賛同する人がいたりして、非常に混沌とした状況になっています。

「よく分かってないけど物申したい人」が多すぎる

サラリーマン兼業フリーランス音楽家として、両方の側面から物事を見ている私が言いたいのは、「ぜんぜんインボイス制度の内容が分かってないのに雰囲気で発言している人が多すぎる」ということ。

たとえば「〇〇党の人がインボイス制度に反対してるけど、私は〇〇党が嫌いだからインボイスに賛成!」とか、「インフルエンサーの〇〇さんがインボイスに反対してる人を論破してて説得力があるので、〇〇さんに賛成!」といった具合に、インボイス制度そのものではなくて、感情や雰囲気に流されて賛成・反対している様子を多く見かけます。

そのくらいの理解度の人たちが「今まで受け取った消費税をポッケに入れてた免税事業者がちゃんと消費税を納めればいいだけ!」「もう決まった制度に対して今更グダグダ言うな!」というようなことを言っていて、インボイス制度の内容の是非や本質とは別のところにある不公平感みたいな部分にフォーカスしていってることが多々あります。

(僕は堀江さんやひろゆきさんが好きでYouTubeをよく見ていますが、彼らのようなオピニオンリーダーが言っていることの表面だけを拾うとそういう「先鋭化してるけど浅い考え方」になってしまうかも知れませんね…)


なんか「JASRACに直接関わる当事者(作詞作曲家)はJASRACを擁護してるけど、逆に当事者ではない人にかぎってやたら批判してる」というのにちょっと似ている気がするな。

「サラリーマン増税」もあるのに、そんな他人事でいいんですか?

さて、サラリーマンには「給与所得控除」という控除が存在しています。実は優遇されすぎなサラリーマンの税金問題としばしば言われていますが、サラリーマンは基本的には税務を自分自身でやらないのでそのようなお得な控除を受けている自覚はほぼないと思います。

この給与所得控除というもののおかげでサラリーマンが支払う税金がかなり抑えられている面があるのですが、「日本の会社員の税金は安すぎる」としてこれを見直す動きが出ています。

退職金への増税なんかも含めて検討されており、「サラリーマン増税」なんて言い方もされていますね。

今回のインボイス制度に伴う免税事業者へのしわ寄せは「フリーランス増税」とも言えるものですから、いずれ給与所得控除の見直しがなされて「サラリーマン増税」されるときには今度はフリーランスの人たちから「今まで優遇されていた控除分の税金をちゃんと納めればいいだけ!」「もう決まった制度に対して今更グダグダ言うな!」と言われてもしょうがない状況になってしまいますよね。


サラリーマン兼業フリーランス音楽家の僕はマジで両方の影響も大きく受けることになるので、できることならどちらも増税はしてほしくないですし、なによりもどちらにも対立してほしくありません。

この対立の構造は「自分と違う立場の人たちへの無理解」から来るものだと僕は思っています。みんなそれぞれの方法で社会に貢献しながら生きているわけですから、「誰が得をしていてズルい」とか「自分は損をしたくない」とか、この問題はそういう話ではないのです。

僕たちはどう生きるか

インボイス制度に伴うフリーランスの負担増にせよ、今後のサラリーマン増税にせよ、僕はすべての煽りも受けます。つらい。それでも生活していかなければなりません。

そんな中で今自分にできることはなんなのか?どうやって食べていくのか?そういうことを考えて生きていくしかないわけです。

僕自身の話をするならば、人生を通してライフワークとして音楽を続けていくために音楽専業ではなく兼業音楽家という道を選びました。好きなことをやりながら、食べていけるようにするにはどうすればいいのか?音楽を辞めていく仲間たちを見送りながら、どうしたら自分は「やめなくてもいい音楽」ができるか?を考えてやってきました。

僕がやっている音楽の仕事はAIに取って代わられる日がやってくるかも知れません。いつ稼げなくなるか分かりません。サラリーマンだって時流が変われば仕事を失う可能性はあり、一生安泰とは言えないです。時代は変わっていくし、法律もどんどん変わっていきます。今まで通りにやってれば安泰ということはありません。税金が高くなったり仕事が不安定になってもどうにか生きていけるように、今できることをやるしかありません。

元気なうちにほどほどに仕事をがんばって、ムダづかいはしないようにきちんとお金を管理して、コツコツと投資してすこしでも多く資産を積み立てていって、そうやって不測の事態に備えながらやりくりしています。

やりたくないことやリスクをなるべく避けつつ、楽しいこと・やりたいことをたくさんできるようにして、それでも避けられない面倒事とはしっかり向き合って、どうにか理想と現実の帳尻合わせてバランス取りながらやっていく。

「生きる」ってそういうことだと僕は思います。

ここを見ているみなさんはこれからどうやって生きていきますか?

インボイス制度のあとにもこれから先もっといろんな面倒なことや大変なことがあると思いますが、どうにか乗り切っていきましょう。

おわりに

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