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古民家に宿るもの

古い家には、魂が宿っているらしい。熟練の大工さんから伺った。昔の住人の想いが離れていなかったり、建物自体に命が注ぎ込まれ、意思を持つようになったり。

日本は自然が豊かで、良くも悪くも人間の生活は自然とともにある。四季の花があり、収穫物があり、風景がある。自然からの恵みをいつだって享受している。その反面、厳しさもあって自然災害が多いのも事実だ。

だから私たちは、八百万(やおよろず)の神々を信じることに抵抗がない。自然やモノにはそれぞれの神様がいると言われても「そうなんだなあ、大事にしないとなあ」と感じ、納得できる。

皆大好きジブリアニメなんてその典型だと思う。

ジブリにはよく分からない生き物がいっぱい出てくる。しかもお喋りする。『もののけ姫』はある意味、自然界と人間界の戦争を描いたもので、衝撃的な描写も多い。自然界に宿った神を、キャラクターとして如実に表現している。宮崎駿監督の哲学がしっかり伝わってくる。

実際のところお喋りする生き物はいないけれども、「喋らないだけで魂は何にでも宿るんですよ、だから人間以外の万物に感謝し、大切にしてくださいね」という教訓なのだろう。

そして最近知ったこと。

「家」にも魂は宿るらしい。魂という表現が適切なのか、そこらへん詳しくないから分からない。ただ、「家」自体が意思を持っていることがあるそうだ。

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先日から小規模なリフォームのために、大工さんが出たり入ったりしている。その大工さんとは今年出会ったばかりで、まだ30代後半と若いのに技術はピカイチで、信じられないほどの人格者である。

その大工さんに新しいお仕事をお願いしようと考えていて、うちにある蔵を見学してもらった。

蔵は今のところ物置にしかなっていなくて、今後手を加えて人が過ごせるように変えていく予定。

「あの蔵はまだ建っていたいと言っていますね」

大工さんがサラッと言った。最初は見た目から受ける印象とか、比喩なのだと思った。でもそうじゃなかった。

大工さんはこれまでたくさんの現場に関わってきて、江戸時代や大正時代に建てられたような歴史ある建物も数多く取り扱ったことのある人だった。そういう現場では、怪奇現象やポルターガイスト現象はしょっちゅうなのだそう。

例えば衝撃的だったエピソードは、「サンダルが一人で走っていくのを見た」というものだった。後ろからパタパタパタと音がすると思ったら、サンダルが宙に浮いて一人で走っていったという。恐らく昔の住人の想いが強く残っているんだろうと言っていた。

大工さんは現場に行くと、ここには「居る」とか「居ない」とか、そういうものがすぐに分かるらしい。だからまずは、依頼を受けた家主というより、「家」全体にむかって挨拶するようになったそう。ちなみに我が家の古民家には居なかったそうだ。

だた、蔵は別だと言われた。

怪奇現象が起きることはないけれども、蔵からは、建物自体から「建っていたい」という気持ちを感じたそう。なにかある時は、空気が冷たく感じるとも言っていた。

家や蔵にも魂が宿る。意思がある。長い間そこに建ち続ける家屋なのだから、そんなことがあっても不思議ではないと、妙に納得している。

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蔵の前には大きな水溜めが点々とあって、そこに咲く蓮の花が見頃である。

梅雨時に咲く蓮の花はみずみずしく美しい。それこそカエルの神様などがちょこんと正坐していても、おかしくないなあと思ってしまう。

そのとき必要なことに必要な分だけ、ありがたく使わせていただきます。